写真家
僕の答えに菜乃花は少し驚いた表情をしていたが、すぐに近づけた顔を離して。
「へー少し以外。どうして?」
手を膝の上に置いた菜乃花は、落ち着いた様子で質問してきた。
そう聞かれた僕は肩に力が入り、ぽりぽりと自分の右頬を掻きながら。
「前も話したと思うんだけど、僕ってあの橋から見える夕焼け空が好きなんだよね。儚くて寂しくて、それでいてとても綺麗なあの景色が……」
僕が少し声音を低くしながらそう話すと、菜乃花も共感しているのかうんうんと頷いていた。
僕は続けて。
「でも別に、あの景色が好きだから写真家になりたいって思ったわけじゃない。夕焼け空は好きだけど、それは単なるきっかけでしかないんだ」
僕がそう言うと、菜乃花は優しく微笑みながら。
「じゃあ君が写真家になりたい本当の理由は?」
そう聞かれた僕は、少し恥ずかしくなり、声量を下げて答えた。
「あの橋は、僕と菜乃花を出合わせてくれた場所だから……」
僕がそう言うと、菜乃花はキョトンとした様子だった。
そんな様子の菜乃花に、僕はもっと分かりやすく説明をするように話を続ける。
「多分世界中には、あの橋よりもっと綺麗な場所がたくさんあると思うんだ。それでその景色の一つ一つには、出会いとか別れがある。そんな素敵な場所を、光景を、僕は写真に焼き付けたいって思った。だから写真家になりたいって思ったんだよね……」
ちゃんと説明できていたか分からなかった僕は、不安になり菜乃花の瞳を見つめる。
そんな僕に向かって、菜乃花は少しだけ口角を上げると。
「すごく、いい夢だね……」
一言そう言ってくれた。




