熊谷翔太という人間
「それではこれで今日の授業を終わります。号令係の方、挨拶をお願いします」
六時間目のチャイムが鳴ると、数学の科目を受け持っている先生が教材をしまい、挨拶を催促する。
きっと先生も疲れていて早く帰りたいのだろう。
「起立! 気をつけ、礼」
号令係の生徒がそう言うと、クラス全員が一斉にお辞儀をする。
そしてそのそのお辞儀が終わると同時に、クラス中が一気にうるさくなる。
緊張の糸がほどけ、やっと帰れると皆喜んでいる。
僕も疲れていたのでぐっと腕を伸ばしてリラックスをする。
しばらくして担任が教室に入ってくると、クラスメイト達は自分の席に座る。
「はい皆さん! いよいよ明日から夏休みです!」
夏休みと聞くや否や、クラスメイト達は一斉に騒ぎ出した。
しかし高校三年生の夏休み……。
正直勉強で全く遊べないと考えているので、僕はあまりうれしくはなかった。
そして誰よりも嬉しそうな笑みを浮かべている担任が、続けて。
「でも皆さん、あまり浮かれすぎないでくださいね。高校三年生の夏休みにどれだけ頑張れるかで、自分の志望校に入れるかどうか決まりますからね」
っと、口は笑っているが目は真剣な担任がそう言った。
「それでは皆さん、この夏が勝負ですからね! じゃあ日直の方お願いします」
そして日直が号令をかけて、僕たちの夏休み前最後の学校は終わりを告げた。
僕は号令がかかると同時に教室を出ようとすると、後ろから肩をつかまれた。
「おい翔太、この後飯いかね?」
そう声をかけてきてくれたのは、クラスメイトの健だった。
どうしてかいつも僕に声をかけてきてくれるいいやつで、クラスでもムードメーカー的な立ち位置の奴だ。
そんな健の方を向いて僕は。
「悪い、この後用事があるんだ」
っといって、断る。
本当は用事なんてないのだが、僕は健を傷つけないように嘘をついた。
決して嫌いとかではない。
僕の返事を聞いた健は、うんと頷くと。
「分かった。次は絶対行こうな!」
僕の肩をポンと叩いて走っていった。
次は行こう……か。
多分僕はまた、健の誘いを断るのだろう。
僕は他人と関わるのが苦手だ。
深く関わってしまえば、裏切られたとき、失った時、酷く傷つくから。
そうなるのが怖くて、僕は他人と関わることを避けている……。