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たとえ未来のない恋だとしても  作者: ラリックマ
11/44

希望

 次の日の夕方。

 僕は菜乃花に謝ろうと思い、いつもより30分ほど早く橋に向かった。

 そして着いてから僕は、菜乃花をただひたすらに待ち続けた。

 昨日のこと、あれは菜乃花にとって聞いてはいけないことだったのだろう。

 今日会ったら何よりも最初に謝ろう……。

 そう思いながら、僕は何もせずぼーっとしながら菜乃花を待ち続けた。

 そして待つこと1時間。

 彼女は来なかった。

 いつもならたくさん会話をして、5時のチャイムが鳴るタイミングでお別れをする時間なのに。

 もしかして昨日の僕の失言をそんなに怒っているのだろうか。

 もしかしたらもう二度と彼女はこの橋には来ないんじゃないか。

 ただうるさく鳴り響く鐘の音が、余計に僕の不安を大きくする。

 もう帰ろう。

 きっと明日は来てくれるだろう。

 なんの根拠もないが、僕はそう思い続けることでしか自分を保てそうになかった。

 僕が初めて心を開くことができた人。

 そんな人を、僕のたった一言の言葉で失うなんてことは、あってはならない。

 やっと見つけた僕の居場所を……。

 彼女との居場所を、僕自身が壊すなんてことは、絶対にあってはならないことだ。

 僕は不安と罪悪感に押し潰されそうになり、胸をキュッと抑えつける。

 大丈夫。

 明日は来てくれる。

 そう自分に言い聞かせながら、僕は家に向かった。

 しかし彼女は次の日も……。

 またその次の日も来ることはなかった。

 もうきっと愛想をつかされてしまったのだろう。

 いや……。 

 もともと愛想なんてなかったのかもしれない。 

 ただ僕だけが勝手に舞い上がっていただけで、彼女は僕となんか一緒に居たくかったのかもしれない。 

 思えばはじめっから、僕だけが盛り上がっていた気がする。

 そんなネガティヴなことばかりが頭の中に浮かんでくる。

 そして彼女が橋の上に来なくなってから、かれこれ五日ほどがたった。

 僕は今日も変わらず橋に行く準備をする。

 時刻は午後四時。

 行ってきますと小さな声で言うと、僕は傘を持ってドアを出る。

 そして僕はドアを出てすぐに傘をさすと、その雨の中を一人、ゆっくりと進んでいく。

 ザーザと勢いよく雨は降り続け、僕のズボンまで濡らしてきた。

 橋に着く頃には、僕のズボンはほとんど濡れていた。

 そしていつものように、彼女の姿はなかった。

 もう多分菜乃花がこの橋に来ることはないのだろう。

 そう心のどこかで思ってしまう。

 それでも、またこの橋に来てくれるのではないかと淡い希望を抱きながら、僕は橋の上で待ち続ける。

 雨は次第に強くなっていき、傘の意味がないほどに僕の体は濡れていた。

 そんなずぶ濡れのまま待っていると、ついに5時のチャイムがなってしまった。

 今日も彼女はこなかった……。

 この5時のチャイムを聞くたびに、僕は憂愁(ゆうしゅう)な気持ちになる。

 僕の心にぽっかりと空いた穴は、ふさがるどころかどんどん広がっていく。

 今日はもう帰ろう。 

 5時のチャイムが鳴り終わり、僕はくるっと家の方を向いて歩き出そうとした時だった。

 

「翔太くん……?」

 

 雨にかき消されてほとんど聞こえないぐらいの小さな声が、僕の名前を呼んだ。

 僕はハッと後ろを振り返ると、そこには傘をさした菜乃花の姿があった。

 

 

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