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ゆっくりの価値とは  作者: enforcer
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忘れていたモノ


 来客から突然のお願い。

 言葉を曲解しなければ、添い寝しろと頼まれたようむ。


 宿を貸してやれとは云われたが、別にそれ以上の指示は受けた訳ではない。


「えーと……それは、どうしてでしょうか?」 


 困惑するようむが理由わけを尋ねるとゆうかは顔を曇らせる。


「うーんと、此処は、全然知らないし、不安……だからかな」


 意外な事に、のうかりんの母親は弱音を漏らす。


 顔が子供とほぼ同じという事もあり、ようむは妙な違和感を感じて居た。

 自ゆんよりも強く、経験豊富な筈の先輩が意外な弱さを見せている様な錯覚。

 

 どうしたものかと悩むが、在ることを思い出す。


 本来、ゆっくりという生物ナマモノは寂しがり屋である。

 独ゆで居る事を好まず、可能ならば誰かに側に居て欲しいと願う。


 それが、ゆっくりが持つ本来の本能と言えた。


 訓練所では、そんな本能を削ぎ落とす訓練を施す。

 飼いゆっくりとも成れば、人間と過ごす事に成るからだ。


 24時間、四六時中共に居続ける事は難しい。

 だからこそ、銅バッジの段階から独ゆで居る事に慣らされる。

 銀バッジを習得する頃には、本来の習性はだいぶ薄れるだろう。

 

 ようむもまた、そんな本能を何時しか忘れていた。

 同族に疎まれてからは、余計にそれを忘れようと思い込んだ。


【自ゆんは独りだろうと大丈夫】と。


 が、逆に言えば訓練を受けねばそんな本能は消えない。

 のうかりんの母親は、まだ本能を捨てては居ないらしい。


「ね、お願い」


 そんな声に、ようむはやはりと感じさせられる。

 ゆうかは母親だけあり、のうかりんに良く似ていた。


「……はぃ、じゃあ」


 拒む気が在れば出来た筈である。

 だが、ようむはそんな気に成れなかった。 

 

 部屋の灯りは落とされ、床へ着く。


 いざ寝転がって見れば、新鮮であると同時に、ヤケに懐かしい。

 どうしてなのか、ようむはそれを思い出そうとして居た。


 色々な事を考えるようむとは違い、ベッドに乗るゆうかはヤケにソワソワとした様子を隠さない。

 年齢は知らないが、まるで幼い子供の様である。


「なんか、こういうの久しぶりかな」


 感慨深く語る声に、ようむはその理由を探すが、少し考えれば、答えは直ぐに出た。 

 

 如何に世間では【ゆっくりは生えてくる】と云われているとは言え、文字通り地面から生えては来ない。 

 親が居て、子が出来、その子がまた親に成り、子を為す。


 ゆうかは、如何に先輩に似ていても、子を持つ親という本能は残していた。

 寧ろ、年老いたからこそ、寂しさを思い出したとも思える。


 ようむもまた、懐かしいとは思っても、悪い気はしなかった。

 そもそもようむは親に捨てられた訳ではなく、嫌っても居ない。


 気付いた時には、親はようむの前で死んでいた。


 野生や野良のゆっくりには起こる出来事。

 親を無くした子や、子を無くした親が、互いに身を寄せ合い、寂しさを埋める。


 だからこそ、ようむには嫌悪感は無く、寧ろ望郷感ノスタルジーが在った。


「ね、ようむちゃん」

「………はぃ」


 段々と眠気は押し寄せて居るが、まだ飲まれては居ない。

 そんなようむの声に、ゆうかは難しい顔を浮かべていた。


 暗くとも、見えるのは苦悩である。


「あの子は、許してくれないのかな」


 子であるのうかりんから直接拒絶された事に心を痛めたのだろう。

 見た目にらしくない弱音に、ようむは少しだけ唸る。


「……急に、でしたから。 先輩はたぶん、心の整理が付いてないだけかと」

「そうなのかな」


 ようむは、スッと息を吸い込んだ。


「だって、もし本当に貴方を嫌ってたら、同じ事はしないんじゃないですか?」

「え?」

「先輩は、その気なら何処へだって行けるんです。 なのに、おかーしゃと同じ事をして、同じ場所に留まる。 それは、待ってたからじゃないんでしょうか」


 半分寝ぼけて居たからか、つい【母親おかーしゃ】という言葉を漏らすようむ。

 それは、ようむにとってみればずっと忘れていた言葉でもある。


 ふと聞こえた言葉に、ゆうかは唇を噛む。

 こっそりと、ゆうかはようむへと身を寄せていた。


 眠りに落ち掛けるようむは、忘れていた何かが近くに在るからか、何の気なしにソレは頭を寄せていた。


─すーり、すーり、しあわせ─


 小さく聞こえるのは、何処かで落としたらしい思い出。

 それは記憶の中のモノが、本当に聞こえたのか、ようむにはわからなかった。


   *


 翌朝。 顔を何かにペシペシと叩かれる感覚にようむは目を覚ます。


「……は、ふぁ?」

「朝だから起こして見たんだけど?」


 見える顔に、ようむはガバッと身を起こす。

 が、自ゆんのベッドに居たのはのうかりんではなかった。


「せんぱ、あ、いぇ、おはよう……ございます」

「ゆーん、おはよう」


 昨晩の事の割には、意外に飄々としたゆうかである。


 欠伸をかみ殺しながら、ようむがチラリと時計に目をやる

 時計が示す時間を見て、眉が寄った。

 

 訓練所の規則を知らないのだから無理もないのかも知れない。

 だが、ゆうかが起こした時間は起床の時間よりかなり早かった。


「……まだ、他のゆっくりは寝てますよ」


 だいぶ早く起こされたからか、ようむはこっそりと嫌みを漏らす。

 対して、ゆうかは嫌みなど気付いていないらしくない目を丸くした。


「そうなの? それは悪かったけど……」

「けど、なんです?」

「ようむちゃん、普段ムッツリの癖に、あんた意外に寝顔可愛いね」


 ホンワカとした声に、寄って居たようむの眉間が緩んだ。


   *


 来客が居たとしても、ようむの1日は始まる。

 候補生である以上、休んでいる暇は無い。


 午前中の授業中、教師の声に耳を傾け、黒板の文字に目を向けながらも、別の事を思う。


 部屋に残したゆうかから、ようむはこう云われた。


【心配しなくても、もう子供じゃないから大丈夫よ】と。


 帰るにしても、歩いて帰るという訳ではない。

 懐かしい余韻に浸りながらも、ようむは授業を受ける。


「候補生ようむ」

「え? あ、はい!」


 教師から急に名指しで呼ばれた。 すわ、何事かとようむは身構える。


「何か在ったか?」

「はい、え?」

「何かは知らんが、随分と顔が緩んだぞ」


 いきなり教師からの声に、ようむは自ゆん顔を触る。


「ま、プラチナバッジの試験を受けるんだからな、多少当たりを良くした方が相手の心証も良いだろう。 さて、次は……」


 授業に戻る教師には悪いと思いつつも、ようむは、鏡が見たくなっていた。


    *


 午前中の座学が終わり、昼へ差し掛かる。


 昼食の後、後は各々が作業へと入る訳だが、ようむはいつもの様に歩いていた。


 目指すは、もはや行き慣れた農場。 施設を抜け、外へ出る。 


 其処には、やはりと云うべきかのうかりんが居た。

 目が合うなり、ようむは先ずは頭を下げる。 


「教官。 昨日は、すみませんでした」 


 思い返せば、出過ぎた真似をした自覚は在る。

 だからこそ、ようむは出鼻から詫びた。


 詫びながら頭を下げる教え子に、のうかりんは苦く笑う。


「………別にさ、怒ってなんか居ないから。 ただ、ちょっと驚いただけよ」


 聞こえる声は、やはり母親に良く似ていた。


「ところでさ、ちょっと、話せない?」


 困った様なのうかりんの声に、ようむはスッと頭を上げた。


   *


 少し後。


 農場の脇に在る小さな休憩所に、腰を下ろしたのうかりんとようむ。


 理由はわからないが、この日、のうかりんはヤケにソワソワとしていた。


「昨日はさ、ちょっと、在ったじゃない?」


 ちょっとと呼べる程に小さな出来事ではないが、それでも起こった事に間違いは無い。


「はい」

「えーとね、で……お母さんは?」


 所在を確かめる所を見ると、のうかりんが心の底から母を嫌っている訳ではないとようむにもわかる。


「今、たぶん、監督さんの所じゃないかと」

  

 実際にみた訳ではなく、何処に居るのかを把握していない。

 ようむの声に、のうかりんはフーンと唸る。


「そっか……でさ、なんて云えば良いかな」


 普段では見せない様な態度で、のうかりんは脚をパタパタと動かす。

 それは、まるで子供おチビへ戻った様な感覚であった。


「あんただから教えるけど、ホントはさ、間違いじゃないの」


 困った様な声に、ようむは「はい」とだけ返す。


「でもさ、急に来られてもさ、困るじゃない?」

「それはまぁ、そうですね」

「だから、ホントは、ちゃんと話せば良かったかなぁとか、想っててさ」


 スッと顔をあげると、のうかりんはようむと目を合わす


「そう言えば、あんた云ったよね? 私の、後を継いでくれるって」


 確認する様な教官に、ようむは教え子として頷く。


「はい、そのつもりです」


 まだ金バッジである以上、ようむには権限が無い。

 それでも、宣言は出来た。


「そっかそっか。 じゃ、ちょっと待ってて」


 そう言うと、のうかりんはパッとベンチから立ち上がる。

 サッと休憩所の物置に行くと、ガサゴソと慌てて何かを取り出した。 


「じゃーん! どう、コレ?」


 そう言ってのうかりんが見せるのは、古ぼけたオセロのセットであった。

 ゲームというモノの存在こそ知っているが、ようむは実物を見た事は無い。


「確か……おせろ、さん?」


 とりあえず名前だけを記憶から掘り起こすようむに、のうかりんはベンチへと座り直す。

 座るなり、手の中のセットをパッと広げた。


「今まではさ、なかなかする機会無かったからねぇ」


 そう言うと、のうかりんはようむと顔を合わせる。

 この時の教官は、教官というよりも歳の離れた姉を想わせた。


「ちょっぴりだけどさ、遊ばない?」


 母親に次いで、その子供からも意外な要求をされる。

 そんなようむは、思わず目を丸くして居た。


「でも、自ゆんはやり方を知りません」

「あ、大丈夫大丈夫、ちゃんと教えるから。 先ずね、この駒をね……」


 早速とばかりに、ようむにゲームのやり方を教え始めるのうかりん。

 この時の教え方は、今までのどれよりも優しいモノであった。

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