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ゆっくりの価値とは  作者: enforcer
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転機


 初めての事の衝撃は大きい。


 だが、回数が増えるに連れ、その衝撃は小さくなっていく。 

 初めてが100なら、次は50、その次は25、更にそれは減っていく。


 せざるを得ないからこそ、繰り返す。 

 そして、最終的には、大して何も感じなくなる。 


 今のようむは、その半ばに居た。

 

 数日の間、候補生として過ごしつつ依頼をこなす。

 生きる為にそうする訳だが、繰り返す内に、それに慣れてしまう。


 ついこの前までは、必死に成って嫌がった事も出来るように成っていく。 


 依頼が来れば、現場へ赴き、仕事をこなす。

 問題なのは、人間ならば【ゆ殺剤】という便利なモノが使えるが、ようむにそれは無理が在った。


 もし使えば、自ゆんも死に兼ねない。


 マスクで顔を覆って居ても、万全ではない以上、使えるのは己の体のみ。


 支給された棍棒を用いて、ゆっくりを叩き潰す。

 相手が善良で在ろうが、下衆だろうがお構い無しに。 

 御飾りを剥ぎ取ってはそれを金に変える。


 それが、ようむの仕事であった。


   *

 

 ある日の帰り道。


 複雑な顔を浮かべるようむに、隣で座るのうかりんは微笑んでいた。

 教えた側からすれば、教え子の仕上がりは上々と言える。


 マトモに仕事をこなせるなら、多少のしかめっ面などは問題ではない。

 

 気分良さげに微笑む教官に、ようむは唇を噛む。


「ゆん? 何か云いたそうだけど?」


 発言の許可をされたようむは、質問を吟味した。

 だが、遠回しに尋ねられる話題でもない。

 

「聞いても良いですか?」

「うん、何?」

「教官は、どうしてこの仕事を選んだんですか?」


 問い掛けられたのうかりんは、首を傾げる。

 何を問われて居るのかわかっていない様でもある。

 だからか、ようむは話を続けた。


「教官なら、もっと色んな事が出来るんじゃないかと想うんです」

 

 ようむのこの言葉に間違いは無い。

 特級鑑札プラチナバッジを持つゆっくりは、実のところ引く手数多である。

 元々の絶対数が少ない以上、それは必然でもあった。


 誰もが欲しがるが、数の少なさ故に手には入らない。

 そしてそもそも、特級鑑札を持って居るゆっくりには人間であっても強制は出来ないという事も在る。


【何処其処の誰々さん】という扱いをされる以上、それは権利であった。 


 そんな権利を持っているのうかりんは、フゥンと唸った。

 

「じゃあ逆に聞くけどさ、あんたは何かしたいの?」

 

 逆に質問されたようむだが、答えはまだ出せない。

 自ゆんは何をすべきか、それが定まっていないからだ。


「私は、したいからしてるんだけど?」


 のうかりんの答えに、ようむは監督官と話した時の事を思い出す。

 

 何故、のうかりんが加工所に固執するのか。

 ソレにはゆっくり特有の【思い込み】が関係していた。


 ゆっくりの思い込みに対する効果は、時に甚だしいモノがある。

 強い想いは、過度に効果を発揮する。


 成長に伴う御飾りの肥大化、味覚の変化。


 そして、最も堅調な一つは、胴付き化である。

 通常のゆっくりが饅頭型なのに、人と同じ胴体を得られる。

 実のところ、コレはまだ何故そう成れるのかは解明されていない。


【こうだ】と思い込むからこそ、そうなる。


 監督官が言った様に、のうかりんは誰かに必要とされたいと願っている。

 だからこそ【自ゆんは必要なのだ】と思い込む。


 此処で問題なのは、思い込みは力と成り得ると同時に、生半に変え難い。

 

 実のところ、ようむが笑えない原因でもあった。

【自ゆんは笑えない】と思い込むからこそ、そうなっている。


 もし、何かの切っ掛けでソレを変えられるなら、ようむは勿論、のうかりんですら変わる可能性を秘めていた。

 

 しかしながら、ようむ自身もまた、その可能性に気付いて居ない。


「そう言えば、前にも聞いたけど、そろそろ決まった?」

「……何をするか、ですか?」


 そう言ってから、ようむは目を閉じる。

 視界を閉ざしても、見えてくるモノが在った。


 ソレは、過去の自ゆん。


 胴付きではない、しかめ面のようむがジッと此方を見ている。

 常に何か言いたげだが、それは云おうとしない。


 云わずとも、ようむにもそれは分かっていた。

 何故なら、過去のソレも、今も自ゆんなのだから。

 

【ごめんなさい】


 弱かった過去、惨めだった自ゆん。 それに許しを乞う。

 すると、昔のようむは、一瞬だけ笑った。

 

 見えるモノが消え失せていく。 ようむは、目を開いた。


「決まってます」

「へぇ? で?」

「前に、教官は云いましたよね? 這い上がって来い、と」


 ようむの声に、のうかりんは鼻で笑いつつも頷く。


「あー、うん、そういえば云ったね」

「だからこそ、自ゆんは此処まで来れました。 教官に助けて貰って、拾い上げて貰い、此処まで。 だから……」


 勿体ぶる言い方に、のうかりんは「だから?」と続きを促す。

 促されたようむは、教官にして恩ゆんに目を合わせた。


「必ずバッジを取って、先輩の後を継ぎます」


 言葉に短いが、その言葉には数多くの意味が含まれていた。

 今のようむは、あくまでものうかりんの部下であり、飼いゆっくりでもある。

 

 何をするにせよ、その全ての責任を実は負っていない。

 だからこそ、自ゆんでは何も変えられない。 


 今までの全てを覆すには、全ての責任を自ゆんを負わねば始まらない。


 どこか決意めいたようむに、のうかりんは目を丸くした。

 教え子から飛び出たのは、思っても掛けない答えだったからだ。

 教官と教え子ではなく、後輩として先輩に続くという。


「ゆ~ん……喜んでも良いのかな? でも、私、別に辞める気無いけど?」


 のうかりんからすれば、まだまだ自ゆんは現役であり、引退を考えては居ない。

 今の仕事を天職だとすら思いこんでいた。


 それでも、教え子の言葉は嬉しくない訳でもない。

 

 何せ、ようむはのうかりんの側に居ると宣言した様なモノである。 

 無論の事、そのようむにしてもやけっぱちで云った訳ではない。

 

 仮に、訓練所を卒業したところで、自ゆんが出来る事は多くないと既に気付いていた。

 他ゆんを教えるのも上手くなければ、愛想が良いという方でもない。


 残された道は、他のゆっくりが忌避する様な汚れ仕事である。

 それでも、ようむはようむなりに恩ゆんに報いたかった。


「今は、まだまだですけど……必ず」


 どの道、天涯孤独の身であり、退路は無い。

 なればこそ、自らをのうかりんの為に使いたい。


 それが、不器用なゆっくり成りの恩返しだと心に決めた。

 そんな教え子の声に、のうかりんは苦く笑う。


「……そっか」


 短いが、その声は僅かに弾んでいた。


   *



 加工所へと戻る成り、のうかりんとようむは呼び出しを受けた。

 

「あらら、また別の仕事入っちゃったんですか?」


 そう問うのうかりんに、呼び出しにきた作業員は首を横へと振る。


「いや、そうじゃないらしいですよ。 なんでも、野外教官に来客とか」

 

 ポンと出された言葉に、のうかりんとようむは揃って首を傾げた。


「……客? 私に?」

「えぇ、外出てる時から来てましたけど、監督官の所で待ってるそうですよ? じゃ、自分別用が在るんで、これで」


 別の用が在るからか、要件だけを伝えて去る作業員。

 その背中を見送りつつ、ようむは教官を窺う。


 すると、のうかりんは今までに見た事も無い様な顔をしていた。


 目を細め、唇をギュッと窄める。 ソレは、ようむの顔にも似ていた。


「誰? 客なんて居たかな。 心当たりが無いけど」


 ぼそりとそう吐く所から、のうかりんには本当に覚えが無いらしい。

 元々訓練所のゆっくりに誰かが訪ねて来る事が無いのだから無理もない。


 が、ようむは監督官との話を忘れていなかった。

 男からは、なんとかする云われているが、具体的に何なのかは知らされていない。


「………どうします?」


 なかなか動こうとしないのうかりんに、ようむが尋ねる。

 教え子の声に、フンと息を吐いた。


 後輩に弱い自ゆんを見せたくない事は容易にわかる。


「ま、別に誰でも良いんじゃない? 仕事の報告だって在るし、丁度良いからついでに顔を見に行きましょ」


 そんな声に、ようむの眉がピクッと動いた。

 のうかりんは気付いて居ないが、ようむに同行を求めている。


 立場的に考えれば、それをする必要が無いにも関わらず。


 在るとすれば、のうかりんは【来客】に恐れを抱いているという事になる。

 が、それをわざわざ言えるようむでもなかった。 


 先に行こうとするが、いつになく歩幅が狭いのうかりん。

 こっそりと、教え子は恩師に歩を合わせていた。

 

   *


 目的の部屋のドアを軽くノックする。

 すると、中から「入ってくれ」という返事。


「失礼しま~す」「失礼します」


 のうかりんとようむはそう言うと、監督室のドアを開いた。


 先に入ったのはのうかりんで、ようむも続く。


 並んで立つゆっくりに、監督官はウンと鼻を唸らせた。


「疲れてる所、済まないな。 わざわざ呼び出してしまって」


 詫びる監督官に、のうかりんは首を横へと振った。


「それは構いませんが、来客が居るとか?」


 そういう声に、監督官はスッと椅子から立ち上がると、手で在る方を示す。

 チラリとようむが其方を見れば、其処にはゆっくりが居た。


 顔付きに付いて云えば、のうかりんに良く似ている。

 が、鮮やかな緑色の筈の髪の毛は、どことなく色が褪せ、それは年月の経過を想わせた。


「久し振りだね、おチビ……」


 ソファに佇むゆっくりがそう言うと、のうかりんは息を飲む。


「……お母さん?」


 ぼそりと漏らされた声は、驚愕に彩られていた。

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