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ゆっくりの価値とは  作者: enforcer
20/31

公園掃除


 野良や野生の群らに置いても、下衆な個体に制っ裁が行われる場合はあった。

 それは、秩序を保つ為の必要な犠牲と言える。


 他者を顧みない者が居れば、全ゆんが被害を被る。


 それに付いては、ようむも知っては居た。

 まだ野良だった頃、親や仲間からそれを教わっている。


 そして今、ようむが振るった棍棒が、野良の頭を潰す。

 が、僅かな躊躇いが残っていたのかも知れない。


「ゆ、ぎ……ゆぎゃぁぁぁあああ!?」


 躊躇いが致命の一撃を外していた。 それ故に、激痛に野良は喚く。


「いだいよぉ!? おもにのうてんがいだいよぉおおおおお」


 喚く野良の声に、のうかりんが肩を竦めた。


「あーあ、中途半端するから痛がってるじゃない」


 教官の声に、ようむは頭から思考が消し飛んだ。

 あれやこれやという、小難しい事が消え失せ、残るのは【すべき事】だけ。


 力任せに棒を振り上げると、喚く野良へソレを振り下ろす。

 二発目にして、ようやく野良は事切れた。


 やってしまった。 ようむはそう考える。

 だが、した事に付いて考えている時間は許されない。


「ほら、次が逃げちゃうよ?」


 のうかりんの声に、ようむは慌てて顔を上げる。

 見えるのは逃げようと足掻く野良の揺れ動く臀部であった。


 俗称【もるんもるん】と呼ばれる状態だが、そんな事はようむにとってはどうでも良く、大事なのは、野良達の行動に在る。

  

 自ゆん可愛さに、仲間を見捨てて逃げようとする。

 命惜しさは分からなくはないが、同時に許せない。


 やるべき事は、既に加工所の職員から伝えられている。

 脱兎を追う猟犬が如く、ようむは駆け出した。


 意外な動きを見せる教え子に、のうかりんが軽くヒュウと口笛を鳴らす。


「ヤバいヤバい、手柄全部持ってかれちゃいそう」


 初仕事の後輩に遅れを取ったと在れば、教官としての名が廃る。

 ようむに続く様に、のうかりんも野良達を追い掛け始めた。


   *


 一時は公共施設を占拠した野良だったが、その天下は長続きはしない。

 暴力によってソレを征した者は、更なる暴力には負ける。


 それを示すが如く、施設の至る所でゆっくりの悲鳴があがっていた。

 

「がえじでぇ! おかざりざんがえじでぇ!」


 ただ殴るのに飽きた作業員が居たのか、中には凝った【やり方】を選ぶ者も居た。

 家族連れのゆっくりが居れば、その親のお飾りを先ずは奪う。


 命の次に大切なモノでありながら、同時にソレには別の意味があった。


 親子であろうとも、ゆっくり達は識別能力が乏しい。

 知性が向上すれば、或いは個体の識別も可能だが、野良で其処までの高知能を有している個体はそう居ない。


 そして、親のお飾りが無くなった事から、子供達は親を親として認識しなくなる。


「ゆ!? ゆっくりしてないゆっくりだよ!?」

「ばかにゃゆっくりははやくしんでね! ぷっきゅー!」


 実の親もに関わらず、子供は親を【知らないゆっくり】と罵る。

 罵られた方からすれば、絶望的な光景であった。


「ゆがーん!? どぼじでぞんなごどいうのおちびぢゃあああん!?」 


 子供からいきなり拒絶されたゆっくりは、そう叫ぶ。

 次の瞬間、笑う作業員が、お飾りを失った親の頭に道具を突き刺した。


 多少頑丈なゆっくりでも、急所を一突きにされれば即死する。


 だが、作業員は何も苦しませない為にそうした訳ではなかった。

 サッと一歩引くと、スッと息を吸い込む。


「おおっと! こんな所にあまあまが落ちてるぞ?」


 如何にもわざとらしい演技ではある。 

 だが、子ゆっくり程度を騙すにはそれでも十分であった。


「ゆ! あまあまさんだぁ!」「ゆわぁ! あみゃあみゃだよ!」


 子供達は、死んだ親の躯を見てそう言った。 

 多少の異臭がしても、それは【甘いモノ】に見える。

 無論、他のゆっくりに取ってもだ。


 事切れた躯を見つけ出した野良達は、まるで獲物を見つけたカラスが如く、死んだゆっくりへと群がっていく。


 ゆっくりがゆっくりを喰う。 それは、端から見ていると悍ましい光景である。


「くさっ!? これくっさ!? でもうめぇ!」

「ゆーん、くしゃいんぢゃよ! でもあみゃあみゃだよ!」


 親だったモノを貪る子供に、作業員がニヤリと笑った。 

 このまま死体を完食してくれれば、掃除の手間は省ける。

 だが、その為に手間を掛けた訳ではない。


「あー、忘れてたわ。 ほい、返すぞ」


 躯が無くなる前に、作業員さ奪い去ったお飾りを持ち主へ返した。

 無論、そのゆっくりは死んでいる。 返された所で、本ゆんに意味は無い。

 だが、周りのゆっくり達にとっては違った。


 あまあまだと想って食べていたのが、そうではないと気付く。

 お飾りが着いた事で、個別の認識が戻る。


「……お、おかーしゃ?」「ゆぇ、たべちゃ……」 


 自ゆん達が何を食べていたのか。

 それがわかった途端に、野良の群れに反応が起こる。


 同族食いは、本来は忌避すべき禁忌である。

 必要に迫られれば【おたべなさい】をする場合も在るが、今回はそうではない。


 一斉に、ゆっくり達が嘔吐し始めた。

 体に入れてしまったモノを体外へ出そうという反応。


 体力の無い子ゆでは、その吐餡に耐えられず死ぬ。

 

 阿鼻叫喚とも取れる様を見て、作業員の一人は顔をしかめる。


「あー、おーい、掃除の手間が増えるだろうがよ」


 咎めはする。 が、それはあくまでも手間への事でしかない。

 行われた所行へのソレではなかった。


 そんな様を、同じく作業をするようむは見ていた。


 同族達が惨たらしく殺される。

 苦い想いに顔をしかめさせるが、マスクのお陰で周りからは見えない。

 対して、のうかりんはと言えば、全く気にした様子が無かった。


 驚く素振り無ければ、咎める様な事もない。

 

 時折、作業員からはバツが悪そうな顔をされるが、その度にのうかりんは軽く手を振っていた。


「あ、全然大丈夫ですから! お気になさらず」と朗らかに返すのみ。


 そんなのうかりんの後に続くようむは、ジッと背中を見ていた。

 同じゆっくりでありながら、何を考えているのか全く読めない。


「……教官は平気なんですか」


 思わず、ようむはそう尋ねてしまった。

 僅かながら、のうかりんの足が遅くなる。


「何が?」


 その声は疑問を呈する。 何が気になるのか、と。

 

「なんて言えば良いか……あんな」

 

 言葉を詰まらせるようむ。

 自ゆんもまた、野良狩りに参加している以上、作業員達と違いは無い。

 殺し方が違うと言えばそうかも知れないが、だからといって其処に差は無かった。

  

 ふと気付けば、のうかりんは振り返っていた。


「もしかしたら、あの連中が可哀想……とか想ってない?」


 そう問われたようむは、答えに悩む。

 可哀想か、そうでないかと言われれば、前者である。


 なかなか答えようとしないようむに、のうかりんはフフンと笑った。


「まぁ、そう思うのは分からないでもないよ。 どうせなら、サッサと殺してやった方がまだ苦しまないんじゃないかってね。 でもね」


 言葉区切ると、のうかりんはようむに顔を寄せる。

 マスク越しにも関わらず、その目はようむの目をジッと見ていた。


「そもそもあいつ等が始めた事でしょ? 聴いたでしょ? 街ゆに被害が出てるって事はさ」

「………はい」

「だったら自業自得でしょ? どんな死に方してもね」


 今度の言葉には、ようむも何も言わなかった。

 事の発端は、野良が街ゆに手を出した事に端を発している。

 何も始めなければ、何起こらなかった。


「そんな事よりも、お仕事お仕事!」


 そう言うと、のうかりんはようむに先を行かせる為に背中を叩いた。


「そうだ! 次はあんたが先にやってみなさいな」


 先へ行けと促されれば、そうせざるを得ない。

 ようむにしても、遊びで来ている訳ではなかった。


   *


 順調に作業が進む中、ようむは在るモノを見付ける。 

 施設内の建物に隠れる様にはしているが、尻が見えていた。


 まだ居るのかと、其方へ近付く。


「隠れても無駄だ、降伏しろ」 


 教官を真似て、ようむは声を掛けた。

 本来であれば、警告などせずに叩き潰すべきである。


 だが、のうかりんは何云わずに黙って見ていた。

 自ゆんの教え子が、どうするのかを見たいかの如く。

 

 声を掛けられたゆっくりは、慌てた様にようむのまえに姿を現す。

 ただ、顔には怯えではなく、無理矢理な笑いが張り付いて居た。


「ゆ、ゆゆ! 飼いゆっくりさん! ゆ、ゆっくりしていってね!」


 そう言う野良のお飾りには【街】というバッジが在る。

 どうやら、無理矢理に何かで着けているのは明白であった。


 ゆっくりのバッジだが、基本的にはネジ式で留められる。

 おいそれと簡単に外れない為だ。

 

 人間か、胴付きでもなければ簡単には着け外しは出来ない。


 つまり、目の前に居るのは、街ゆのバッジを奪った張本ゆんと言えた。

 ようむが何も言わないからか、親のゆっくりは横へ目を向ける。


「お、おちびたち! ならぶんだよ!」


 そんな声に、影からゾロゾロと現れる子ゆ。


 動きその物は速くはない。

 ソレよりも目に留まるのは、大きさの合っていないバッジだろう。

 僅かながらも、お飾りから毟り取ったであろう跡が見えた。


「「た、たしゅけてくれてありがとちょー!」」

 

 子ゆは、マスクで顔を隠すようむに舌足らずな礼を述べた。 

 棒読みな事から、誰かに云えと教え込まれたのは簡単に推察が出来る。


 少し見れば分かるが、このゆっくり達は自ゆんを街ゆだと偽装していた。


 どう見ても、街ゆという風情ではない。

 人に管理される者と成れば、多少なりとも小綺麗にされる。

 誰かの目に入る事も在るのだから、それは当たり前だった。

 対して、今ようむが見ているゆっくり達は違う。

 

 バッジこそ持っては居るが、それは誰かから剥ぎ取ったモノに過ぎない。

 

 ギュッと棒を握り直すようむに代わり、のうかりんが立った。

 マスクで顔が見えない生徒とは違い、満面の笑みである。


「あら~、野良から頑張って逃げられたんだぁ~」


 わざとらしい猫撫で声に、ゆっくり達は微かに震える。


「それなら、悪いんだけど、わき腹見せてくれないかな~? ほら、お怪我とかしてたら、困るよね?」


 のうかりんの柔らかい声に、ゆっくり達は動く。


「「ゆっくりりかいしたんだよ!」」


 お願い通り、ゆっくり達はゴロッと転がり腹を見せる。

 汚れや多少の傷はともかくも、其処には何も無かった。


 街ゆっくりに関しては、バッジだけで管理されて居らず、大抵は油性のサインペンで印が書かれる。  

 【○○/●●】や【○○パーク】など、日付、何処に所属しているのかが。

 ソレが無いという事は、ゆっくり達が街ゆっくりではない事を示している。


「あれれ~? おかしいなぁ? 街ゆっくりなら、ちゃんと書いてある筈なんだけどぉ?」


 わかって居ながらに分かっていないフリをするのうかりん。 

 そんな声に、野良達は慌てる。


「ち、ちがうよ! ちゃんとばっじさんをもってるよ! いいゆっくりだよ?」


 同族を殺し、バッジを奪う事で成り代わろうとするゆっくりは、実は多い。

 だが、普通はバッジは登録番号などで管理されており、偽装の意味は無かった。


「……誰から盗ったの」


 ようむが低い声で尋ねると、子ゆがユンと唸る。


「ちがうよ! しらにゃいゆっくりからもらったんだよ!」


 馬鹿正直に答える子ゆを、大人のゆっくりがもみあげで叩いた。


「なにいってるの! ちがうでしょ! にんげんさんからもらったっていうんでしょ! あ!?」

 

 語るに落ちるというが、思わず云わずには居られない。

 そして、言ってしまってから、慌てて口を塞ぐが既に言葉は吐かれていた。


 そんなゆっくりに、遠慮無しの棒がめり込み、プラスチックのバッジが飛ぶ。


 躊躇い無く、同族を殴り殺すようむ。

 ソレを見てか、のうかりんは満足げに笑っていた。

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