公園掃除
野良や野生の群らに置いても、下衆な個体に制っ裁が行われる場合はあった。
それは、秩序を保つ為の必要な犠牲と言える。
他者を顧みない者が居れば、全ゆんが被害を被る。
それに付いては、ようむも知っては居た。
まだ野良だった頃、親や仲間からそれを教わっている。
そして今、ようむが振るった棍棒が、野良の頭を潰す。
が、僅かな躊躇いが残っていたのかも知れない。
「ゆ、ぎ……ゆぎゃぁぁぁあああ!?」
躊躇いが致命の一撃を外していた。 それ故に、激痛に野良は喚く。
「いだいよぉ!? おもにのうてんがいだいよぉおおおおお」
喚く野良の声に、のうかりんが肩を竦めた。
「あーあ、中途半端するから痛がってるじゃない」
教官の声に、ようむは頭から思考が消し飛んだ。
あれやこれやという、小難しい事が消え失せ、残るのは【すべき事】だけ。
力任せに棒を振り上げると、喚く野良へソレを振り下ろす。
二発目にして、ようやく野良は事切れた。
やってしまった。 ようむはそう考える。
だが、した事に付いて考えている時間は許されない。
「ほら、次が逃げちゃうよ?」
のうかりんの声に、ようむは慌てて顔を上げる。
見えるのは逃げようと足掻く野良の揺れ動く臀部であった。
俗称【もるんもるん】と呼ばれる状態だが、そんな事はようむにとってはどうでも良く、大事なのは、野良達の行動に在る。
自ゆん可愛さに、仲間を見捨てて逃げようとする。
命惜しさは分からなくはないが、同時に許せない。
やるべき事は、既に加工所の職員から伝えられている。
脱兎を追う猟犬が如く、ようむは駆け出した。
意外な動きを見せる教え子に、のうかりんが軽くヒュウと口笛を鳴らす。
「ヤバいヤバい、手柄全部持ってかれちゃいそう」
初仕事の後輩に遅れを取ったと在れば、教官としての名が廃る。
ようむに続く様に、のうかりんも野良達を追い掛け始めた。
*
一時は公共施設を占拠した野良だったが、その天下は長続きはしない。
暴力によってソレを征した者は、更なる暴力には負ける。
それを示すが如く、施設の至る所でゆっくりの悲鳴があがっていた。
「がえじでぇ! おかざりざんがえじでぇ!」
ただ殴るのに飽きた作業員が居たのか、中には凝った【やり方】を選ぶ者も居た。
家族連れのゆっくりが居れば、その親のお飾りを先ずは奪う。
命の次に大切なモノでありながら、同時にソレには別の意味があった。
親子であろうとも、ゆっくり達は識別能力が乏しい。
知性が向上すれば、或いは個体の識別も可能だが、野良で其処までの高知能を有している個体はそう居ない。
そして、親のお飾りが無くなった事から、子供達は親を親として認識しなくなる。
「ゆ!? ゆっくりしてないゆっくりだよ!?」
「ばかにゃゆっくりははやくしんでね! ぷっきゅー!」
実の親もに関わらず、子供は親を【知らないゆっくり】と罵る。
罵られた方からすれば、絶望的な光景であった。
「ゆがーん!? どぼじでぞんなごどいうのおちびぢゃあああん!?」
子供からいきなり拒絶されたゆっくりは、そう叫ぶ。
次の瞬間、笑う作業員が、お飾りを失った親の頭に道具を突き刺した。
多少頑丈なゆっくりでも、急所を一突きにされれば即死する。
だが、作業員は何も苦しませない為にそうした訳ではなかった。
サッと一歩引くと、スッと息を吸い込む。
「おおっと! こんな所にあまあまが落ちてるぞ?」
如何にもわざとらしい演技ではある。
だが、子ゆっくり程度を騙すにはそれでも十分であった。
「ゆ! あまあまさんだぁ!」「ゆわぁ! あみゃあみゃだよ!」
子供達は、死んだ親の躯を見てそう言った。
多少の異臭がしても、それは【甘いモノ】に見える。
無論、他のゆっくりに取ってもだ。
事切れた躯を見つけ出した野良達は、まるで獲物を見つけたカラスが如く、死んだゆっくりへと群がっていく。
ゆっくりがゆっくりを喰う。 それは、端から見ていると悍ましい光景である。
「くさっ!? これくっさ!? でもうめぇ!」
「ゆーん、くしゃいんぢゃよ! でもあみゃあみゃだよ!」
親だったモノを貪る子供に、作業員がニヤリと笑った。
このまま死体を完食してくれれば、掃除の手間は省ける。
だが、その為に手間を掛けた訳ではない。
「あー、忘れてたわ。 ほい、返すぞ」
躯が無くなる前に、作業員さ奪い去ったお飾りを持ち主へ返した。
無論、そのゆっくりは死んでいる。 返された所で、本ゆんに意味は無い。
だが、周りのゆっくり達にとっては違った。
あまあまだと想って食べていたのが、そうではないと気付く。
お飾りが着いた事で、個別の認識が戻る。
「……お、おかーしゃ?」「ゆぇ、たべちゃ……」
自ゆん達が何を食べていたのか。
それがわかった途端に、野良の群れに反応が起こる。
同族食いは、本来は忌避すべき禁忌である。
必要に迫られれば【おたべなさい】をする場合も在るが、今回はそうではない。
一斉に、ゆっくり達が嘔吐し始めた。
体に入れてしまったモノを体外へ出そうという反応。
体力の無い子ゆでは、その吐餡に耐えられず死ぬ。
阿鼻叫喚とも取れる様を見て、作業員の一人は顔をしかめる。
「あー、おーい、掃除の手間が増えるだろうがよ」
咎めはする。 が、それはあくまでも手間への事でしかない。
行われた所行へのソレではなかった。
そんな様を、同じく作業をするようむは見ていた。
同族達が惨たらしく殺される。
苦い想いに顔をしかめさせるが、マスクのお陰で周りからは見えない。
対して、のうかりんはと言えば、全く気にした様子が無かった。
驚く素振り無ければ、咎める様な事もない。
時折、作業員からはバツが悪そうな顔をされるが、その度にのうかりんは軽く手を振っていた。
「あ、全然大丈夫ですから! お気になさらず」と朗らかに返すのみ。
そんなのうかりんの後に続くようむは、ジッと背中を見ていた。
同じゆっくりでありながら、何を考えているのか全く読めない。
「……教官は平気なんですか」
思わず、ようむはそう尋ねてしまった。
僅かながら、のうかりんの足が遅くなる。
「何が?」
その声は疑問を呈する。 何が気になるのか、と。
「なんて言えば良いか……あんな」
言葉を詰まらせるようむ。
自ゆんもまた、野良狩りに参加している以上、作業員達と違いは無い。
殺し方が違うと言えばそうかも知れないが、だからといって其処に差は無かった。
ふと気付けば、のうかりんは振り返っていた。
「もしかしたら、あの連中が可哀想……とか想ってない?」
そう問われたようむは、答えに悩む。
可哀想か、そうでないかと言われれば、前者である。
なかなか答えようとしないようむに、のうかりんはフフンと笑った。
「まぁ、そう思うのは分からないでもないよ。 どうせなら、サッサと殺してやった方がまだ苦しまないんじゃないかってね。 でもね」
言葉区切ると、のうかりんはようむに顔を寄せる。
マスク越しにも関わらず、その目はようむの目をジッと見ていた。
「そもそもあいつ等が始めた事でしょ? 聴いたでしょ? 街ゆに被害が出てるって事はさ」
「………はい」
「だったら自業自得でしょ? どんな死に方してもね」
今度の言葉には、ようむも何も言わなかった。
事の発端は、野良が街ゆに手を出した事に端を発している。
何も始めなければ、何起こらなかった。
「そんな事よりも、お仕事お仕事!」
そう言うと、のうかりんはようむに先を行かせる為に背中を叩いた。
「そうだ! 次はあんたが先にやってみなさいな」
先へ行けと促されれば、そうせざるを得ない。
ようむにしても、遊びで来ている訳ではなかった。
*
順調に作業が進む中、ようむは在るモノを見付ける。
施設内の建物に隠れる様にはしているが、尻が見えていた。
まだ居るのかと、其方へ近付く。
「隠れても無駄だ、降伏しろ」
教官を真似て、ようむは声を掛けた。
本来であれば、警告などせずに叩き潰すべきである。
だが、のうかりんは何云わずに黙って見ていた。
自ゆんの教え子が、どうするのかを見たいかの如く。
声を掛けられたゆっくりは、慌てた様にようむのまえに姿を現す。
ただ、顔には怯えではなく、無理矢理な笑いが張り付いて居た。
「ゆ、ゆゆ! 飼いゆっくりさん! ゆ、ゆっくりしていってね!」
そう言う野良のお飾りには【街】というバッジが在る。
どうやら、無理矢理に何かで着けているのは明白であった。
ゆっくりのバッジだが、基本的にはネジ式で留められる。
おいそれと簡単に外れない為だ。
人間か、胴付きでもなければ簡単には着け外しは出来ない。
つまり、目の前に居るのは、街ゆのバッジを奪った張本ゆんと言えた。
ようむが何も言わないからか、親のゆっくりは横へ目を向ける。
「お、おちびたち! ならぶんだよ!」
そんな声に、影からゾロゾロと現れる子ゆ。
動きその物は速くはない。
ソレよりも目に留まるのは、大きさの合っていないバッジだろう。
僅かながらも、お飾りから毟り取ったであろう跡が見えた。
「「た、たしゅけてくれてありがとちょー!」」
子ゆは、マスクで顔を隠すようむに舌足らずな礼を述べた。
棒読みな事から、誰かに云えと教え込まれたのは簡単に推察が出来る。
少し見れば分かるが、このゆっくり達は自ゆんを街ゆだと偽装していた。
どう見ても、街ゆという風情ではない。
人に管理される者と成れば、多少なりとも小綺麗にされる。
誰かの目に入る事も在るのだから、それは当たり前だった。
対して、今ようむが見ているゆっくり達は違う。
バッジこそ持っては居るが、それは誰かから剥ぎ取ったモノに過ぎない。
ギュッと棒を握り直すようむに代わり、のうかりんが立った。
マスクで顔が見えない生徒とは違い、満面の笑みである。
「あら~、野良から頑張って逃げられたんだぁ~」
わざとらしい猫撫で声に、ゆっくり達は微かに震える。
「それなら、悪いんだけど、わき腹見せてくれないかな~? ほら、お怪我とかしてたら、困るよね?」
のうかりんの柔らかい声に、ゆっくり達は動く。
「「ゆっくりりかいしたんだよ!」」
お願い通り、ゆっくり達はゴロッと転がり腹を見せる。
汚れや多少の傷はともかくも、其処には何も無かった。
街ゆっくりに関しては、バッジだけで管理されて居らず、大抵は油性のサインペンで印が書かれる。
【○○/●●】や【○○パーク】など、日付、何処に所属しているのかが。
ソレが無いという事は、ゆっくり達が街ゆっくりではない事を示している。
「あれれ~? おかしいなぁ? 街ゆっくりなら、ちゃんと書いてある筈なんだけどぉ?」
わかって居ながらに分かっていないフリをするのうかりん。
そんな声に、野良達は慌てる。
「ち、ちがうよ! ちゃんとばっじさんをもってるよ! いいゆっくりだよ?」
同族を殺し、バッジを奪う事で成り代わろうとするゆっくりは、実は多い。
だが、普通はバッジは登録番号などで管理されており、偽装の意味は無かった。
「……誰から盗ったの」
ようむが低い声で尋ねると、子ゆがユンと唸る。
「ちがうよ! しらにゃいゆっくりからもらったんだよ!」
馬鹿正直に答える子ゆを、大人のゆっくりがもみあげで叩いた。
「なにいってるの! ちがうでしょ! にんげんさんからもらったっていうんでしょ! あ!?」
語るに落ちるというが、思わず云わずには居られない。
そして、言ってしまってから、慌てて口を塞ぐが既に言葉は吐かれていた。
そんなゆっくりに、遠慮無しの棒がめり込み、プラスチックのバッジが飛ぶ。
躊躇い無く、同族を殴り殺すようむ。
ソレを見てか、のうかりんは満足げに笑っていた。




