表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゆっくりの価値とは  作者: enforcer
18/31

飼い飼われ


 世話をし始めてから、一時間でようむは在ることを想っていた。

 腹が膨らみ、用を足したからか、拾った子ゆは呑気に寝息を立てている。


「ゆぅー……すぴー……ゆびー……あみゃあみゃ……」


 寝ている筈なのに、子ゆは黙らない。 時折、寝言を垂れ流す。

 自ゆんが言い出した事ながら、ようむの中に生まれたのは後悔だった。


【どうしてこんな事に?】と、自問自答を繰り返す。  

 

 思い返して見れば、既に答えは教えられていた。


 研修で行った先の先輩ゆっくりであるちぇん。

 そのちぇんが【突っ張っても何も解決しない】と。


 その言葉に、間違いはない。

 意地で無理を押し通そうとした結果、それがようむの部屋に在った。


 大して広くもない部屋。


 本来は、特級鑑札の試験を受ける為の候補者が寝泊まりをする為のモノである。

 逆に云えば、他の事は初めから考慮などされていない。


 多少の家具は在るが、ソレにしても勉強用の机と椅子しかない。

 そんな狭い部屋に、今ではゆっくり用のケースが鎮座していた。


 自ゆんで言い出した事とはいえ、後悔の念が湧き出す。

 

 だが、今更後には引けない。

 のうかりんは既にようむに対して楔を打っていた。


 用意された品に関して云えば、その品質は最高である。 

 唯一、小型おトイレに関しては水洗ではないが、それでも品質の良いモノで在ることに間違いは無い。


 つまり、どれもコレもが【お高い品】であった。


 そして、一度使用した以上、返品も利かない。

 そもそも用意してくれたのがのうかりんである以上、彼女に対してようむは必然的に借金を背負わされていた。


 考えれば、考える程に頭が痛くなる気がする。

 

「……あ、もうこんな時間に成っちゃった」


 チラリと壁の壁の時計を窺うと、ようむは部屋の灯りを落とす。

 ソッと寝床であるベッドへと潜り込むと、モヤモヤと色んな不安が浮かんだ。

 

 特級鑑札の授業が難しいのは当然として、別の事もある。

 

 他の候補生達もまた、各々が試験費用を稼ぐ為に何かをするのだが、ようむの場合、既にソレは決まってしまっていた。


 何をさせられるにせよ、もはや教官の指示には逆らえない。

 自ゆんで背負うと啖呵を切った以上、それを飲み込む事は出来ないからだ。


 アレこれと悩みながらも、ようむは疲れから目を閉じた。


   *


「ゆびぃいいいいい!? おがーじゃぁああああ!!」


 起床を告げる合図よりも、そんな声にようむはガバッと起きる。

 何事かと、音の方を見れば、同居ゆっくりと化した子ゆが喚いて居た。


「ちーちーぎぼしわりゅいいい!! きれいきれいちぇえええ!!」


 子ゆは、寝小便という粗相を仕出かしていた。

 ボンボンの様なもみあげを激しく振りながら、顔を歪める。


 それだけでも、ようむは溜め息が漏れた。

 のそりとベッドから這い出ると、ケースへと近寄る。


 眠気は残るが、それでもティッシュを一枚取ると、ソッと箱の中へ手を入れた。


 湿り気を拭われた子ゆは、全身を震わせながら笑顔を覗かせる。


「ゆわわ……きれいきれいなんじゃよぉ!!」


 身体を拭われた事から、それに対して素直な感想を漏らす子ゆ。

 だが、その世話をさせられるようむにとってみれば、キツいモノが在った。


 新しく取ったティッシュで寝小便の始末をしながら、チラリと子ゆを見る。


「……まだ、小さいから仕方ないんだろうけど、あんまり泣かないで欲しい」


 同族ならば、キチンとして欲しいというようむ。

 だが、それを聴いた途端に、子ゆは頬をプクッと膨らませた。


「ぷっきゅー!? れいみゅはにゃいてにゃんかにゃいよ! ばかにしにゃいでよにぇ!?」


 ほんの数十秒前の事ですら、子ゆはそう言う。


 殺意を隠そうともしない同族に、ようむは口をギュッと閉じていた。

 閉じた口の中では、ミシミシと歯が軋む。


 自ゆんなりにお世話をしている筈なのに、まるで感謝されない。

 

 とは言え、ようむが知らないだけで、これ自体は珍しくも無い事だった。

 賢さの足りない子ゆは、在る意味では赤ん坊と大差が無い。


 親から伝わった餡によって、多少の会話は出来る。

 逆に云えば、それだけであった。


 いつも以上に顔をしかめさせながらも、なんとか寝小便の始末を終える。

 手を洗いたいようむだが、子ゆが急に身体を寄せて来た。


「えっ、と?」


 キラキラとした目で見られたようむは、慌てて顔から力を抜く。

 もしかしたら、子ゆなりに自ゆん認めてくれたのか、と。


「おしょーじすんだ? だったら、ごはんしゃんちょーらいね!」


 子ゆの口から出たのは、礼ではなく次の命令であった。

 

 余りの礼節の無さに、ようむは子ゆの目をジッと見てしまう。

 だが、恐怖を知らない個体に取っては、多少睨まれた所で何の事はない。

 恐怖を知らない者にしてみれば、恐れなど在る筈も無かった。


「ゆゆ!? ゆっくりしてにゃいくそどれいだにぇ! しぇっかくれいみゅのおしぇわさせてあげちぇるのに!?」 


 下衆な子ゆに取っては、ようむは親に変わる新しい【召使い】の様なモノである 

 偉大な自ゆんの世話をさせてあげているのであって、どうして不満なのか。


 ソレが、子ゆの思考であった。 


 だが、それをようむが納得出来るかと言えば無理がある。

 

 自ゆんにもまた、幼い頃は確かに在った。

 ようむもまた、小さい頃はそれなりに親を困らせた記憶は在る。


 だが、それにしても同居ゆんのソレは度が過ぎていた。


 あくまでも、ようむは助けた側であり、子ゆは助けられた側である。

 奴隷扱いされるいわれは無い。 


「いい加減にして」

「ゆっ!?」


 急にようむが纏う空気変わったからか、子ゆは僅かに体を硬くする。 


「殺される所だったんだよ? わかる? 死ぬかもしれなかったのに! それを助けたの! それなのに……」


 過去の事を思い出したようむは、何とか子ゆを一生懸命に助けようとした。 


 それをなんとか子ゆにも理解して欲しい。

 恩ゆんであり、奴隷ではないのだ、と。


 ようむが言い終えた所で、子ゆに変化が在った。


 口を必死に閉じながら、プルプルと震え出す。

 一見する分には、感極まった様にも見えなくもない。


 瞬き程の後、子ゆは溜めていたそれを爆発させる。


「ゆっびゃぁあああああ! おがーじゃだじゅげでぇえええ! げしゅなどうつきがいじめりゅぅううううああああ!!」 


 助けを呼ぶ為か、子ゆは盛大に泣き出してしまう。

 

 当たり前だが、下衆なゆっくりに取っては、ゆっくり出来ない事態は何よりも恐ろしい。


 ビィビィと煩い泣き声に、ようむの瞳が窄まった。


 過去に、自ゆんが追い詰められた際、ようむは騒げなかった。

 騒ぐだけの余裕も無ければ、助けてくれる者も居ない。


 深い絶望と、無力感に押し潰されそうにすら成った。

 

 それに比べると、実に快適な生活を始めた筈の同族は、つまらない事で騒ぐ。

 

 如何に子ゆとは言え、ソレはようむに取っては許せなかった。


 バッと手を伸ばすと、騒ぐ子ゆの口を無理矢理に塞いでしまう。

 口を閉じられたからか、子の潤む目が開く。


 子ゆの視線の先には、怒りを露わにしたようむが居た。

 訓練所に居る間も、ずっと感情というモノは押し殺していた。

 

 その筈が、ダムが決壊した様に溢れ出す。


「何様なの? あんたがお姫様? ふざけないで。 あんたなんか……」


 その先を口走る前に、ようむは口を閉じた。


【薄汚い野良の癖に】という言葉を、慌てて飲み込む。 


 我に帰ったようむは、慌てて子ゆを放す。

 このまま握り締めて居れば、小さいゆっくりなど簡単に殺せたからだ。


「……しょ、しょろーり……しょろーり」


 命からがらに解放された子ゆは、身体を震わせると一目散に在る方へ向かう。


「にげりゅよ! れいみゅにげりゅよ! しゅたこらしゃっしゃ!」


 其処には、クッションが在るが、其処へ頭を突っ込んだ。


「れいみゅは、いにゃいいにゃいよぢゃよ……みちゅけにゃいでねぇ……」


 必死に頭を隠しては居るが、尻は隠せていない。

 それどころか、居場所を示す様に揺れている。


 怯え故に、必死に隠れようとする子ゆ。

 ソレは、ようむに自ゆんの過去を思い起こさせる。


 絶対的な力を前に、自ゆんもまた、何の抵抗も出来なかった。 

  

 苦い過去に、顔をしかめつつもようむは手を伸ばす。

 ゆっくりフードの箱に無造作に手を突っ込むと、中身を箱の中への放った。

 入れ物が在れば、それに入れたかも知れないが、ソレは無い。


 言葉にすれば、朝食を提供するだが、乱雑である。

 

 とりあえず餌だけを与えていれば、子ゆも死にはしないだろうとようむは自ゆんに言い聞かせた。


 何も云わずに、部屋を出て行くようむ。

 後には子ゆが残されるが、気配が消えたからか、子ゆがクッションから這い出た。

  

 当たり前だが、子ゆには子ゆの自我が在る。

 圧倒的な戦力を持つ胴付きに脅されたからこそ、怯えてしまった。

 だが、いざソレが居なくなれば話は違う。


 子ゆは、ようむという【云うことを聴かない奴隷】が居ないからか、プクッと頬を膨らませる。


「くしょどりぇいはれいみゅいっだいさにとんずらこいたにぇ!」


 喉元過ぎれば何とやらで、早速とばかりにようむを罵る子ゆ。

 怒り心頭といった風情で頬を膨らませるが、ふと、自ゆんの縄張りに在るゆっくりフードを見つけ出した。


「ゆゆ!? ごはんしゃん! れいみゅのためにはえちぇきたんだにぇ!」


 当たり前だが、食べ物は床から生えては来ない。

 だが、賢さの足りないゆっくりの中には【勝手に地面から生えてくる】という認識が在る。


 脅えていた事など忘れ、急いで餌に近付くと、口の端からよだれを垂らした。


「いいにおいがしゅるんぢゃよ! ごはんしゃん! ゆっくちたべられてにぇ!」


 そう言うと、子ゆは猛然と餌を食べ始めた。


   * 


 呑気な同居ゆんに対して、その世話を預かるようむは違う。

 訓練によって得た記憶力故に、おいそれとは忘れられない。  

 

 並みのゆっくりの如く、嫌な記憶は排泄物として出して忘れる事は出来なかった。


 午前の授業中も、ようむはなかなか勉学に身が入らない。

 心の何処かで、モヤモヤと色々な事を考えてしまう。

 それ故に、他の事に気付けない事も在った。


「候補生? ようむ、聴いているか?」


 授業を受け持つ教師の声に、ようむはハッと成る。


「す、すみません」

「ボーッとしているな。 君らに余計な時間は無いんだぞ?」


 教師からの注意に、他の候補生達とようむをチラリと窺ってはヒソヒソと何やら話す。


 陰口叩かれるようむだが、息を吸い直すと、教科書に目を戻した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ