表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゆっくりの価値とは  作者: enforcer
17/31

ゆっくりとは


 自ゆん退室した後。 監督官と教官が何を話しているのか。 

 

 ソレをようむは知らない。

 今のところ、それ以上に別の事が忙しかった。


 帰り道で聴かされたのうかりんの言葉に嘘は無かった。 

 ようむが自室に戻ってから少し後の事である。


「はーい、お待たせ!」


 そんな声と共に、ようむの部屋に次々と物が運び込まれる。


 室内飼育用のアクリルケース。 あんよ擦れ防止用の床材。

 小型の消臭おトイレ。 ベット兼用の安眠クッション。

 便秘対策の為の吸水機。 箱入りの高級ゆっくりフード。

 

 それらは、ゆっくりが室内で快適に飼育される為の基本的な用品である。

 その全てが、一斉に運び込まれた。


 狭い部屋がより狭くなる。


 そんな用品を前に、のうかりんが腰に手を当てた。


「さてと? こんなモンで良い?」


 用立てたのうかりんの声に、ようむは呆気に取られた。

 どれもコレも、野良の頃には見た事も無い代物である。

 

 無論、ゆっくりショップで働いていた時も売っては居たが、それらに一々目を通している暇は無かった。

 いざそれらが一遍に揃うと、なかなかに壮観である。

  

「あの……」

「ゆん? 何?」


 首を傾げるのうかりんに、ようむは頭を下げる。


「ありがとうございます。 教官」


 礼を贈るようむだが、のうかりんは首を横へと振った。


「それは此方のセリフ。 お買い上げ、ありがとーございまーす」


 呑気な挨拶に、ようむは戸惑いを隠さない。


「あ、えと……」

「だって、コレ全部あんた持ちだからね? 今すぐに用意出来る一番良いの持って来てあげたから」


 云うに及ばず、飼育用具を用意してくれたのはのうかりんである。

 だが、それらは慈善ではない。

 

 渡された全てが、ようむに取っては借財である。

 そして、貸し主は教官であるのうかりんであった。


「後の用意は全部あんたがやんなさいよ。 説明書ぐらい読めるでしょ? じゃあ、明日から忙しい成るからね? ゆっくりおやすみなさい」

 

 用件を済ませると、のうかりんはサッサと帰ってしまう。

 残されたようむはと云えば、山の様な用品と、子ゆと共に残された。


「すぴー……れーみゅは……てんししゃま……ゆびー」


 呑気な寝言を宣う子ゆを起こさぬ様、ようむは用具の設置に取り組む。

 この作業は、胴付きでなければ無理があった。


 普通のゆっくりも、それなりには作業をこなせる。

 しかしながら、それは簡単なモノに限られていた。


 対して、手足を持つ胴付きは、人間とほぼ同じ動きが可能である。 

 でなければ、箱入りの飼育用品を組み立てるのは不可能であった。


 作業開始から、数十分後の事である。 

 

 慣れない事ゆえに、だいぶ手間取った。

 それでも、なんとか自室内にゆっくり飼育ケースを準備したようむ。

 

 ハァと一息入れると、未だに眠る子ゆをソッと透明な箱の中へと入れてやる。


「………あっ」


 1日中ショップで働いていた事に加え、慣れない作業をこなしたせいか、ようむも疲れていた。

 そのせいか、手から子ゆを落としてしまう。


 だが、柔らかい床材は、子ゆを柔軟に受け止めてくれた。

 とは言え、下が柔らかくとも、落とされれば身体は激しく振動する。


 ボヨンと跳ねたからか、子ゆはパチッと目を覚ました。


「ゆ? ゆゆ?」


 目を覚ました子ゆは、身体を揺すって息を吸い込む。


「あ、ごめんなさい。 起こしちゃ…」「ゆっくりしていっちぇね!」


 ようむが言い終わるよりも早く、ゆっくり特有の挨拶が響いた。

 在る意味、ようむに取ってはソレを聴くのは久しい。


 懐かしくも在るが、そう昔を思い出しても居られなかった。


「ぁ、ゆっくりしていってね。 えと、いきなり、こんな場所で驚いたかも知れないけど……」


 状況の説明をしようとするようむに対して、子ゆは顔を変える。

 顔に妙な自信を漲らせると、ニヤリと笑った。


「ゆわわぁ……ここを、れーみゅのゆっくちぷれいちゅにしゅるよ!」


 ソレは、ゆっくりが行う【おうちせんげん】である。

 よほど快適だったからか、子ゆは先ずはとそれを宣言した。

 その意味に付いては、ようむも知っている。


 ゆっくりに取って、その場は【自ゆんの領地なわばり】だと言い張る。


 無論、飼育箱に関して云えば、ソレは持ち主の物である。

 とは言え、中の空間だけならば構わないかと、ようむは想ってしまった。


「あー、気に入ってくれたなら」

「しょんなこちょより! れーみゅはおにゃかがすいちゃよ!」


 空腹を訴える子ゆ。 いきなりの事に、ようむは慌てた。


「え? あぁ、お腹空いてたんだ……じゃあ」


 子ゆがそう言うならばと、早速に餌が入れられた箱へ手を伸ばす。

 が、餌用の入れ物は無い。


「何か入れ物は……」


 候補生の部屋には個ゆんの物は多くはない。

 私物と言えるモノなど、精々が筆記用具程度しか無かった。

 

 どうしたモノかどうか、悩むようむ。 

 だが、チラリと見てみると、子ゆは口をガバッと大きく開けている。


「ごはんしゃん! ゆっくりたべさせちぇね!」


 口を開けたままの状態で如何様に発音しているのかは定かではない。

 それでも、子ゆは食べさせろと要求する。


 その様は、授業の際に教わった小鳥が親に餌を強請るのに似ていた。

 

 全身をピクピクと震わせる子ゆに、ようむは苦い顔を浮かべる。

 覚えて居るだけでも、自ゆんはこんな事はしていなかった筈なのに、と。

 とは言え、相手が幼いだけだと自ゆんを納得させた。


「………はい、あーん」

「あーむ!」


 摘ままれた餌を一掴み、口へと放り込まれた子ゆ。

 モゴモゴと咀嚼を始めるが、いきなりブルッと震えた。


「うっめ! これめっちゃうめ! ぱにぇえ!!」


 大きく喋りながら、食べる。

 結果的には、入れられた筈の餌をボロボロと零す。


「ぜんぜんたりにゃいよ! もっとちょーらいね!」

 

 散った餌のカスなど気にせずそんな事を宣う子ゆに、ようむは眉を寄せた。


「こぼれてるよ? 食べ方はちゃんとしないと、後で掃除しなきゃいけないし」


 金バッジである以上、食事の仕方に付いてようむは徹底的に仕込まれている。 

 騒がず、落ち着いて綺麗に食べる事など、銅バッジの最低限の条件である。

 が、当たり前として野良の子ゆはバッジなど持っては居ない。


 作法も糞も無いのだ。


「はぁ? おしょうじ? しょんなのどれいのやることでしょ!! しょんなこちょよりもごはんしゃんちょーらいね!」


 子ゆの声に、ようむは愕然とした。

 とは言え、子ゆのやることだと、無理に自ゆんを説得しながら餌を与える。


 同じ事が続けば、結果も変わらない。


「うっめ! これうめぇ!! ぐーちゃぐーちゃ! もーちゃもーちゃ!」


 盛大に騒ぎながら、グチャグチャと餌を貪る。 

 そんな子ゆを見て、ようむは当惑していた。

 

「ち、ち、ち、ちあわちぇ~!!」


 味の感想と共に、うれちーちーと証される小便を漏らす。


 何の生き物に問わず、厄介者は存在するだろう。


 ようむが世話を預けられた子ゆは【下衆ゲス】と呼ばれる類であった。 


 野良の多くは、抑圧された環境、劣悪な生活に性格を歪める事が多い。

 誰からも見下され、最低を押し付けられたからか、逆に歪む。


 それ故に、野良には【ゲスゆっくり】が多々居た。


 そして、コレこそが、多くの人間がゆっくりを忌み嫌う理由わけと言える。


 自ゆんの愚かさや弱さを認めず、寧ろ開き直ったかの如き態度を取る。

 後先が無いのだから、在る意味では破れかぶれなのだろう。

 

 拾われる迄はさも弱者である事を装いつつも、野良が拾われた際に、豹変するのもこの為である。


 其処には極々単純な思考が在った。


【今までの自ゆんは惨めな生活を強いられていた可哀想な存在である】

【そんな自ゆんは、過酷な世界から救い出され、選ばれた】

【選ばれたのだからこそ、自ゆんは誰よりも何よりも偉い】

【目に見える誰よりも。 この世界よりも】


 正に自ゆん勝手を極めた思想。

 それこそが、全てを根拠無しに見下す下衆と呼ばれる理由である。


 そんな下衆に出会った事が無いようむは、この事態に思考が追い付かない。

 野良の頃ですら、賢い親や優しい仲間に囲まれ、慎ましく平穏に生きていた。


 だからこそ、世界の毒に対する抵抗が無い。


「ようむは、奴隷じゃないよ? それに、お漏らしは困るよ」


 必死に自ゆんは誰なのかを説明せんとする。

 が、下衆が他ゆんの言葉を聞く筈もない。 聴かないからこその下衆なのだ。


「ゆゆ!」


 何かが走ったのか、急に子ゆが体を硬直させる。


「あ、何? どうしたの?」


 慌てるようむを余所に、子ゆはその場でぺたんと体を倒す。

 

「でりゅ! うんうんでりゅよ!」 

「へ? ちょっと」


 止めるようむの言葉も虚しく、子ゆはその場で体内の余計な餡を放出した。


「めっちゃでりゅ! ちゅっきりー!!」


 平然と排泄を行う子ゆに、ようむは唖然とした。

 賢く成ったからこそ、見えてしまうのは同族の愚かしさ。


 茫然とするようむを余所に、子ゆは自ゆんが出したモノに気が付く。


「ゆぁ!? にゃんでうんうんしゃんあるにょ! くしゃいよぷっきゅー!」


 いきなり頬を膨らませ、自ゆんの排泄物を威嚇する。

 その行為には、何の意味も無い。 


「ね、ちゃんと、おトイレでしないからそうなるんだよ?」

 

 訓練を受けた金バッジとして、子ゆに教えようと試みるようむ。

 だが、子ゆにはそんな事よりも気になる事が在った。


 排泄物から漂う異臭。


「ゆぅ? にゃんだかくちゃいよ!?」


 臭いの元は自らが放出したモノと、臀部ひっぷに付着する残渣である。


「ゆんやぁ!! はやきゅぺーろぺーろしちぇにぇ!? ぎぼじわりゅいいい!!」

「あぁ、泣かないで! 今なんとかするから」


 泣き喚き始める子ゆに、ようむは慌てた。

 ティッシュを一枚取ると、仕方なく汚れた子ゆの尻を拭く。


「ゆっきゅり! ゆわわーい!」


 臀部を拭われるのが心地良いからか、子ゆはそんな声を上げる。

 だが、文字通りの尻拭いをさせられるようむにとっては気持ち良い筈もない。


「まだ慣れてないだろうけど、ちゃんとおトイレは憶えてね? そうでないと、ユカビも出やすく成っちゃうから」

「はぁあ!? こうっきなれーみゅがうんうんもらしゅはじゅないでちょーぎゃ!? くしょどれいはにゃにいってるにょ!? ばかにゃの!? しぬにょ!?」


 歪んだ唯我独尊。 他を顧みない利己的な思考。


 下衆の持つ醜悪なるモノこそが、世界に少ない慈愛を持った【お兄さん】を、容易くどす黒い殺意を漂わせる【鬼威惨】へと変える。


 ソレを、世間知らずなようむは知らなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ