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ゆっくりの価値とは  作者: enforcer
16/31

自己責任


 ジッとのうかりんから見下ろされる野良は、何故だか体が動かない。


 圧倒する程の気で、動きが止められていた。

 唐突に、のうかりんは柔らかい笑みを浮かべる。


「良かったね、あんたの子だけはさ、何とかしてくれるんだって」 


 何がなにやらという親へ、のうかりん手を伸ばす。

 呆気に取られる親ゆから、サッと子ゆを取り上げた。


「あ、ありがどうございます! ゆっくりしたおチ……ぶ!?」

 

 いきなりの事に、慌てる親だったが、その口をのうかりんの靴底が無理矢理に抑えた。


「自ゆんで云ったんでしょ? おチビ、だけ、でも何とかしろってさ?」


 そう言うのうかりんに抑えられる親は、お下げをピコピコと必死に振っていた。

 何かを云いたげだが、口を塞がれては喋れない。


「だからさ、何とかしてくれると想うよ? ほら」


 そのまま腰だけを捻ると、子ゆをようむの方へ放った。

 慌てて受け取るようむ。

  

 子ゆをようむに預けると、のうかりんは、踏み抑える親を見る。


「さてと? あんたの要望は叶えたし、後はあんただけね」


 それだけ云うと、踏んでいた足を外し、あっという間に野良親を袋へと放り込んでしまう。

 ガサゴソと動く袋を片手に、のうかりんはちぇんを見た。


「ごめんなさいね、迷惑掛けたみたいで」

 

 後輩の勝手を詫びるのうかりんを、ちぇんは訝しむ。


「どうするつもりですかー?」


 疑って掛かる声に、のうかりんは肩を竦めた。


「さぁ? だって、私が何かする訳じゃないし……ね?」

 

 事の矛先を向けられるようむは、唇をキュッと結ぶ。

 先程の自ゆんの発言は忘れては居ない。


 野良親子をのうかりんが片付ければ、全ては終わった筈。 

 降りる筈の幕を開けたのはようむである。


「じゃ、帰りましょうか?」


 仕事を終え、帰る訳だが、ついでとばかりにようむの肩をポンと叩く。

 先に車へ乗り込むのうかりんを見送りつつ、ようむはちぇんに向き直った。


「今日は、御指導ありがどうございました」

 

 挨拶を贈りつつ、借りていたエプロンを返却する。

 差し出されたソレを、ちぇんは受け取るのだが、顔は明るくない。

  

 ようむに劣らない苦い顔をしながら、後輩の目を見る。


「ちぇんも先輩だからねー。 後輩に、一つだけアドバイスして良い?」

「はい」

「突っ張った所でね、何にも解決しないよー………」


 長く話している事は出来ない。

 其処で、ちぇんは頭を最大限に生かして短い言葉を贈った。


 先輩からの言葉を、ようむはまだ解せない。

 突っ張ったつもりは無いからだ。

 それでも、一応として礼を贈る。


「……はい、先輩」


 ぺこりと頭を下げると、ようむはのうかりんの後に続いて車に乗り込む。

 バタンとドアが閉じられ、何事も無かった様に走り出す。


 遠ざかる加工所の車を見送りながら、ちぇんは悲しそうな顔を浮かべていた。


「相変わらずですねー、先輩は。 わからないよー」


 ちぇんの声が誰を指しているのか、尋ねる者は居なかった。


   *


 加工所へと戻る車内では、以前の様にようむとのうかりん揃って座っていた。

 そんな2ゆんだが、目線は違う方を向いている。


 のうかりんは後輩を見る訳だが、その後輩は、手の中の子ゆを見ていた。


「でさ、質問しても良い?」

「はい」

「あんたさ、ソレの面倒を見る気なの?」


 のうかりんの質問に、ようむは答えに詰まった。

 その気が在るのかと問われれば、答えは【はい(YES)】だ。

 だが、具体的に何をどうするのか、それが決まっていない。


 ようむが拾われた際は、のうかりんが推薦をした。

 

 しかしながら、ソレは特級鑑札プラチナバッジだから出来る事である。

 その責任を自ゆんで背負うからこそ、意見を出せる。


 それに対して、ようむはどうなのかと言えば、無理があった。

 一級の鑑札である金バッジとは言え、それだけに過ぎない。


 評価を受ける事は出来る。 

 だが、自ゆんから何かをするというのは飼い主の許可が要るのだ。


 何も云わないようむに、のうかりんは、フフンと笑う。


「ま、あんたが自ゆんで責任を取るって云った訳だし。 面倒みないとね?」


 からかう様な声に、ようむは返事を返さない。 

 何故なら、加工所へ帰った所で、子ゆがどうなるかは分からないからだ。


 ヒョイと人間さんに回収されてしまうかも知れない。

 そうなれば、もうようむには手が出せない事になる。


 ある程度の裁量は許可されてこそ居るが、ソレはあくまでも訓練所の規則に違反しない範囲での事だけ。

 それを逸脱すれば、どうなるかは云うまでもなかった。


 ようむは、チラリとのうかりんの方を窺う。

 正直な胸の内を明かすならば、教官からの助言が欲しい。


【どうしたら良いのでしょうか?】と、尋ねたかった。

 だが、一度啖呵を切った以上、責任はようむに在る。


 不安げな後輩を見たからか、先輩であるのうかりんは軽く笑っていた。


「大丈夫だよ」

「え? あの……」

「だからさ、ソレ飼う為のケースとか、餌とか、諸々用意してあげる」


 意外な程の対応をしてくれるのうかりんに、ようむは思わず顔を上げた。


「良いん、ですか?」


 声が僅かに弾むようむだが、のうかりんの顔を見た途端に戦く。

 のうかりんの口は笑って居るが、目は笑っては居なかった。


「良いも何も、なんやかんやと用意するとお金が要るんだよね。 でも、あんた急にお金出せと云われても無いでしょ?」


 其処まで云うと、のうかりんはようむに顔を寄せた。

 二ゆんの間は、もう少しで触れそうな程に狭まる。


「あんたもさ、まさか何もかもタダでやって貰えるなんて、想ってないでしょ?」


 遠回しではあるが、先輩が何をいいたいのか、ようむには分かってしまう。 

 当たり前として、この世にタダという事は無い。


 何を得るにせよ、対価を支払わねばならない。


「……はい」

「分かってるなら、良いよ。 貸してあげる」


 ようむの声を返事と捉えたからか、のうかりんは座り直す。


「でもね、今度は、出来ません……なんて言い訳、聞かないからね?」


 念を押す様なのうかりんに、ようむは、小さく頷いていた。


    *


 加工所へと戻って来たのうかりんとようむ。

 お互いに仕事帰りではあるが、やるべき事が終わっていない。


 二ゆ共に、それぞれが監督官へと報告をする義務が在った。

 仕事が終わりなのはそれでも良いが、話はそれだけに済まない。


 のうかりんとようむの要望を聴いた監督官は、眉を寄せる。


「ゆっくりを飼わせろ?」


 自分で云いながら、それが信じられないという顔を見せる男。

 

「聞き間違いなら良いんだが、その拾った野良を、候補生に飼わせろ、というのかね?」


 確かめる様な声に、のうかりんは微笑んだ。


「えぇ、そうですね」


 外での顔と違い、加工所の中ではノホホンという態度である。

 それだけを見ていると、大らかなオバチャンにも見えなくもない。


 監督官は、呑気なのうかりんからようむへと目を向ける。


「候補生。 君に問うんだが、本気か?」


 信じられない、という態度を隠さない監督官に、ようむは頭を下げた。


「お願いします」


 丁重なようむの声に、男は盛大に溜め息を吐く。

 片手で頭を抑えながら、チラリとようむが抱える子ゆを見た。


「ゆぴー……んびー……れーみゅは……おひめちゃま……」


 呑気な寝言を漏らす子ゆっくり。

 緊張感の欠片も無く、締まりの無い顔を見て、監督官は鼻を唸らせる。


「何の為にそんな事をするんだ? どう見てもろくなゆっくりには見えないが?」


 一応の理由を尋ねられるが、ようむは答えに詰まる。

 何の為にそんな事をするのか、実のところ、理由が無い。


 裏を明かすならば、勢いだけである。


 答えられないようむに代わり、のうかりんが片手をヒラヒラとさせた。


「まぁまぁまぁ、良いじゃないですか監督さん。 だってほら、訓練所の規則に、ゆっくりはゆっくりを飼っちゃいけない……なんて無いでしょ?」


 のうかりんの言葉自体は間違いではない。

 実際に規則にはそんな項目は無いのだ。


 逆に言えば【そんな馬鹿を仕出かす者が居なかった】だけの事である。


 困った様に顔を手で覆う監督官。

 それもその筈で、今までは優秀だった筈の候補生が、訳の分からない事をやらかしている。

 何か有れば、責任は監督する者に在るからだ。

 

 たっぷり一分は悩んだ男は、顔から手を離す。


「……わかった。 確かに規則には無いからな。 だが……」


 一旦言葉を区切ると、監督官はのうかりんとようむの顔を見渡す。


「君達もそれなりのゆっくりで在れば、自ゆん達がやろうとしている事の意味は分かっているな?」


 低い声でそういう監督官。

 くだらない者の為に、他の優秀なゆっくりを犠牲には出来ない。


「はい、ソレは勿論」


 監督官の怖い声などどこ吹く風で、優雅に返事を返すのうかりん。

 

「はい、監督官」

 

 真摯な態度で、返事をするようむ。

 二者二様の返事に、監督官は目を閉じて息を吐いた。


「わかった……候補生、先に休んでくれ」 


 ようむだけに退室を促す男に、当のようむはぺこりと頭を下げた。


「はい、失礼します……」


 パタンと、事務室のドアが閉じられる。

 ようむが部屋を出て行ったのを確認すると、監督官はのうかりんを見た。


「さて……是非とも聞かせて欲しいね。 何故こんな事を?」


 問われたのうかりんは、ゆーんと唸る。


「逆に聞きますけど、監督さんは、あの子がプラチナ貰えると思います?」

  

 質問に質問で返すのは失礼と知りながらも、のうかりんは問う。

 問われた男は、それが先程の質問の答えだと察した。


 息を吸いながら、首をゆっくりと左右へ振る。


「……いや、無理だな。 今のところ、あの40番は金バッジ止まりだろう」


 数多くの候補生ゆっくりを見て来た男だからこそ、わかる。


「優秀なゆっくりである事は認めるが、ソレだけではな……」


 ようむは優秀だが、ソレだけであった。

 飼いゆっくりとしては優秀かも知れないが、それだけでは及ばないのが特級鑑札である。


 男の返事に、のうかりんは我が意を得たりと微笑んだ。


「ですよね? 自ゆんで何をするか、それが決められない様じゃ、無理ですから」


 のうかりんの声に、男はウームと唸った。


「君のお陰で、新しい規則を足さねば成らないな。 余計な仕事を増やしてくれる」


 苦く笑う男に、のうかりん「ありがとうございます」と応えた。

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