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ゆっくりの価値とは  作者: enforcer
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煌びやかな夢


 賢さの足りないゆっくりでは、そう多くの数字を理解は出来ない。

 尋ねた所で【たくさん】で済んでしまう。


 監督官が話した数は、金バッジのようむだからこそ分かる。

 

 言葉にすれば【1000】というだけ。

 だが、その意味を理解すると、恐ろしい光景が浮かんだ。


 驚くようむに、監督官は話を続ける。


「多少は驚いたかも知れないが、別にこれは秘密でもなんでもない。 銅バッジなら数千で済むかも知れないが、銀バッジはまた増える。 今度は数万程のゆっくりが必要に成るだろうな」


 監督官にとってみれば、一桁数字が繰り上がっただけとも取れる。

【1000】に対して【10000】と。


 とは言え、コレは凄まじい数である。 ようむの脳裏には、それが見えた。


 居た筈の事務室が、姿を変える。


 見渡す限り、びっしりと集められたで在ろうゆっくり達。


 しかしながら、そのどれもが生きては居ない。 永遠にゆっくりしている。

 苦悶のまま死んだ者も居れば、何も知らず呆けた様な死に顔。

 

 千差は万別。 在るのは死骸の平原。 


 銅や銀でそうならば、金や白金ならばどうなるのか。

 今度は平原では済まない。


 文字通り、山の様にソレは積まれる。

 

 そんな死骸の山に怯えるようむ。

 少し身体を震わせる候補生に、男はウンと唸った。


「うん? 大丈夫か?」

  

 想像の中に居たようむだが、掛けられる声にハッと成っていた。 


 慌てて気付けば、其処は先程から居た事務室。

 その事に、ようむは息をホッと息を吐く。


「……はぃ……大丈夫です」


 実際にゆっくりで出来た山を見た訳ではなく、当たり前だが存在はしない。

 あくまでも、全てはようむの想像に過ぎなかった。


 多少の動揺は見て取れるが、ようむに【非ゆっくり症】の兆候は見えない。

 

 で在ればと、監督官も話を続けた。


「とにかくだ。 その辺のゆっくりを拾って育てろ、と君は簡単に云う。 が、そうした所でモノに成れるゆっくりは、ほんの一握りに過ぎないんだよ。 その点に関して、君は優秀だがね」


 誉められれば、ようむも悪い気はしない。

 下手に邪険にされるよりも、ずっとマシだろう。


「………ありがとう、ございます」


 一応の礼を述べるしかめっ面のようむに、男は苦く笑った。


「私もね、前に一度ゆっくりを飼っていた……いや、育てた事が在るんだ。 その子達はまぁ……親が優秀だったから、私も其処までは苦労しなかったが」


 昔を懐かしむ様な男に、ようむの眉が僅かに動く。

 厳めしい顔をしている男が、子育てをしている姿が思い浮かばないからだ。


 想像すると、微笑ましくも在る。

 だが、先程聞かされた数字が、ようむの中にこびり付いて離れない。


 同じ様に苦い顔をする監督官とようむ。

 先に動いた男は、コホンと咳を払う

 

「……とにかく、我々は別に慈善事業家でもなければ、聖人でもない。 仕事だからやっている。 ただ、それぐらいの手間暇、そして金が掛かるという事を分かって欲しい。 君の性根が優しいのは良いことだ。 だが、優しさだけでは何も起こせないぞ」

 

 長い話ではあるが、ようむも理解出来ない程に愚かでもない。


 要約すれば【全てを助けるのは無理】という事である。


 理屈としては分かる。 だが、同時に納得が出来ない。

 金バッジとしての正しさはようむの中に在るが、同時に野良としての目線も持っている。


 俯き、押し黙る候補生に、監督官は鼻から息を吹いた。

 

 立場故に口にこそ出さないが、男からすれば候補生達の事は常に気に掛けていた。

 監督官としてならば、商品の状態を気にするのは当たり前だ。


 同時に、男個人からすれば、何とかしてやりたいとも想う。

 優秀では在るが、このままではようむは金バッジで終わり兼ねない。


「とにかく、明日はまた新しい指示を与えよう。 今日は休みなさい」


 そんな指示に、ようむは椅子から立ち上がる。


「失礼します」


 ぺこりと頭を下げて退室していくようむ。

 パタンとドアが閉じてから、監督官はウーンと唸った。


 たっぷり一分程を掛けて思案した後、背広からスマートフォンを取り出すと、電話を掛け始める。

 程なく、通話が繋がった。


「……あぁ、私だ。 うん、いや、君に少し頼みたい事があってな」


 そんな声が、事務室の中に響いた。


   *


 翌日の午後。

 午前中の授業を終えたようむは、加工所の車で在る場所へ案内された。


「じゃあ、後で迎えに来るから。 頑張れよー」


 軽い言葉を残し、走り去る職員。 それを見送った後、ようむは振り向く。

 其処は、加工所付近に在る店だが、ただの店舗ではない。


 外観は小綺麗だが、特徴が在った。

 実物よりも簡略化デフォルメされたゆっくりが看板として掲げられる店。


 所謂いわゆる、ゆっくりショップである。

 

 特に何かを伝えられては居ないようむだが、【其処へ行け】と云われればそうせざるを得ない。

 表から入るのか、裏から入るのか。

 兎にも角にも、先ずはと店の出入り口を潜った。


「いらっしゃいませ~! ごゆっくりどうぞ~!」


 店に入るなり、そう声を掛けて来たのは店員さんである。

 が、その店員は人間ではなく、胴付きゆっくりだった。


 頭のお飾りには、プラチナバッジ。

 そんな店員に、ようむはぺこりと頭を下げた。


「すみません。 此方に来るように云われたのですが」


 ようむの声に、店員はポンと手を鳴らす。


「あぁ、聞いてるよー。 実習生の子でしょう~?」


 独特の間延びした声を出すのは、ゆっくりちぇんである。 

 客でないとわかったからか、若干砕けた話し方へ変わる。

 

 同じゆっくりだからか、それなりに安心感は在るが、ようむの顔は変わらない。

 

「はい。 で、あの……」

「うん? なにかなー?」

「何をすれば良いんでしょう?」

 

 ようむがそう尋ねると、ちぇんの様子が一瞬変わった。

 独特であるのんびりとした顔ではなく、猛禽類が獲物を観るような目線。


 背筋がゾクッとする様な感覚をようむは覚える。

 が、ちぇんの顔は直ぐに先程のようなのんびりとしたモノへと戻っていた。


「……うーんと、じゃあ、お手伝いさんかなぁー」


 そんな間延びした声と共に、ようむの課外実習が開始された。


   *


 本来ならば、金バッジでは店に立つ事はない。

 責任を持てない立場の者に接客をさせるのは商売に反している。


 とは言え、ちぇんから渡されたエプロンには【研修生】と誰でも見える様に大きく書かれていた。


「じゃあとりあえず、ちぇんのお手伝いお願いねー?」

「はい、宜しくお願いします」


 新たな教官の挨拶しつつ、ようむは店を見渡す。

 初めて訪れた訳だが、其処は全く知らない世界と言えた。


 店舗なのだから、当たり前として商品は陳列されている。

 ゆっくり用の飼育用品から、様々な種類の餌。

  

 そして、勿論ゆっくりも販売されていた。


 アクリルの透明なケースに入れられるゆっくりの種類は様々。

 どのゆっくりにも値段が着いている。


 そんな売りゆっくり達の多くは、ようむを見て不思議そうな顔を見せていた。


 陳列されている中には、当然の様に金バッジを着けたゆっくりも居る。  

 対して、ようむはエプロンを身に着けて店員として居る。


 ほぼ同じ金バッジで在りながら、その扱いは全く違う。


 ケースの中のゆっくりの多くは、ようむを物珍しく観る者も居たが、大抵は興味を無くした様に好きなことを始める。

 ようむにしても、時折ケースの方へ目を向ける訳だが、その際、付いている値段を見て目を丸くしていた。


【銅バッジ習得済み! 好き嫌い無し! ¥20.000】

【銀バッジ習得済み! 元気一杯の性格です ¥300.000】


 金銭に関しては一応は知っているようむでも、目を剥く値段である。

 

「凄い、値段ですね……」

 

 思わず、そう漏らすようむに、ちぇんは軽く笑う。

 

「そう? あっちの子なんかもっとだけど?」


 ちぇんの指差す方は、店の中でも区画が違った。

 一番目立つ故に、否が応でも見える。


 専用の給水機に、小型の水洗おトイレ、毛足の長い床材。


 明らかに豪華な設備に、しっかりと内装まで整えられたケース。

 その中には、暇そうにウトウトしているゆっくり。


【金バッジ習得済み! 落ち着いた子です! ¥1.250.000】


 値段だけをみれば、単純に銀の四倍以上の値が付けられていた。

 

 自ゆん知らない世界に、ようむは呆気に取られる。

 と、同時に想うのは、もしも自ゆんが此処に並んだならどうなるか、であった。


 ポカンとしてしまうようむの背中が、ツンとつつかれる。

 

「……あ、すみません」

「ボーッとしてないでよねー? 研修でも、店員さんなんだからー」

  

 ちぇんの声に促され、仕事を手伝うようむ。

 そんな仕事の最中、ふと、在ることに気付く。


 ケースに収まるゆっくり達だが、どれも子ゆであり、成体のゆっくりは居なかった。


   *


 実習に関しては、特段難しい事は無かった。

 減った商品の追加、店舗内の掃除。 主だった雑務。

 

 商品達から見られるという点を除けば、そう辛くもない。

 客も来るのだから大変と言えば大変だが、ようむにとっては気が楽である。


 そして、また別の客が訪れた。


「あ、いらっしゃいませ~!」

「やぁ、ちぇんちゃん! また来たよ!」


 新たに訪れた来客は、監督官と同年代の中年男。

 多少肉付きは良いが、嫌みな感じはしない。


「いつもありがとうございます~!」

「いやいや、それは良いんだけどね。 ちぇんちゃんは幾らかなぁ?」


 からかう様な客の声に、ちぇんは笑いながらも眉をハの字にしていた。

 

「にゃ~、ちぇんは売り物じゃないんですけどー?」

「そう堅いこと云わずにさ」


 常連さんなのか、男と雑談を交わすちぇん。

 ふと、ようむの方へ目を向ける。


「あ! ちょっとごめんなさい。 ようむちゃん! 悪いんだけどー、そっちの子にご飯あげといてくれる~?」

 

 接客が忙しいからか、ちぇんはそう頼む。

 頼まれたようむは、ぺこりと頭を下げると店の奥へと引っ込んだ。


   *


 表側の派手さと違い、裏側は意外な程に地味な店の中。

 勝手がわからない事もあるが、ちぇんとは別の店員も居た。


「すみません、ご飯あげろって云われたんですが」


 ようむが尋ねると、店員の女性はケースの裏側を指差した。


「はいはい、餌はそっちに置いて在るからあげて置いて」


 指示を受け、ようむはケースの裏側へ回る。

 やるべき事は分かっていたが、脚が止まった。


【れみりゃ用】と殴り書きされた箱の中に居たのは、生きたゆっくりである。


 間違いが無ければ、箱の中のモノは【餌】だという。

 その事に、ようむは頭が真っ白に成っていた。


 

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