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ゆっくりの価値とは  作者: enforcer
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事の是非


 作業員が出した声は、ようむに取っては違和感を感じるモノであった。

 

 通常の場合、人間がゆっくりに対して敬語を使う場合は多くはない。

 もし、仮に使ったとしても、それは皮肉や相手をおちょくる目的で使われる。


 が、この時のうかりんへと向けられた言葉は、そういった類のモノではない。

 

 例えるならば、部下が上司へと掛けるソレであった。

 声を掛けられたのうかりんにしても、それが当たり前の様なのか驚いた様子は無い。


「あー、はいはい、大丈夫ですけど。 で、何か」

「えぇ、それで、あの……」


 先を促すのうかりんに対して、作業員の青年は口を開き掛ける。

 だが、ようむ見た途端に、口を閉ざしてしまう。


 一体全体何事なのか。

 訳がわからないというようむを気にせず、のうかりんはフフンと笑う。


「いつもの奴ですか?」


 ポンと出された声に、青年はウンと頷く。


「あぇ、はい、そうです」

「……そうですか」


 ぼそりと言うと、のうかりんはスッと立ち上がる。


「すみません、ちょっとだけ時間ください」


 本来ならば、別件の仕事が忙しく成るところだが、ようむを放置はしない。

 チラリと顔を向けると、のうかりんはなんとも言えない顔を覗かせた。


 普段ならば、温厚を絵に描いた様なゆっくりであるのうかりん。

 それが、今では違う顔を見せる。


 まるで獲物を見つけ出した鮫を想わせる目つき。

 それには、ようむですら思わず息を飲むほどだった。


 怯えはしているが、顔を変えないようむに、のうかりんは目を窄める。


「ね、あんたもさ、手伝いな」


 それは【お願い】ではなく【命令】であった。

 そして、金バッジ迄のゆっくりに取っては、主の命令は絶対である。


 世の中の飼い主の中には、それが徹底出来ず、飼いゆっくりに手を焼く者は多い。

 当たり前だが、其処に意志がある以上は、全てを思い通りにするのは困難を極めた。


 対して、加工所出身の金バッジの評価が高い理由が此処に在る。 


 下手にゆっくりでは足元にも及ばない程の練度。

 飼われる事への隷従。

 

 過酷な訓練と反復練習を繰り返す事で、それを刷り込む。


 主から【しろ】と言われれば、それに逆らう事は有り得ない。

 残りのゆん生を掛けてまで、今までの生活を捨てるのは難しい。


 そして、加工所の訓練を受けたようむにしても、それは変わらない。


「……わかりました」


【空を飛べ】【その場で死ね】

 そんな余程のむちゃくちゃでもない限り、命令に対して【できません】と応える事は出来なかった。


   *


 教官から【付いておいで】と言われたようむ。


 のうかりんと共に加工所のすいーに乗せられ、何処かへと連れて行かれる。

 最初の時、実のところようむは顔には出さなかったが内心はしゃいだ。


【にんげんさん】専用の筈のモノに乗る事が出来る。


 車に因って運ばれるのではなく、キチンと座席に座って連れて行かれる。


 同じ様であって、この差は大きい。

 

 加工所に置いて、大概のゆっくりは貨物であり、荷に過ぎない。

 それに対して、のうかりんとようむはまるで違い乗客と言えた。


 何処かへと向かう中、ようむは窓の外を見ていた。


 狭い公園の茂みや、訓練所しか知らないようむにとって、世界は広かった。

 だが、同時に見えることがある。

  

 時折、人に連れられるゆっくりも居れば、道端で必死に何かを訴えるゆっくり。

 もしくは、潰れたで在ろう同族。


 それら全てが、見えたと思ったら過ぎ去っていく。


 窓の外を食い入る様に見るようむの隣では、のうかりんが生徒の様子を興味深そうに眺めていた。


   *


「着きましたよ!」そんな声を合図に、車は止まった。


 止まった場所だが、窓から見えるのは閑静な住宅街といった風情。

 特段何かが起こるような場所にはとても見えない。


 どうしたら良いものか、ようむがそう悩んでいると、スッと変なモノが渡される。

 一見すると、工場等で使用する防護面にも見えた。

 

 のうかりんから渡されたソレに、首を傾げるようむ。


「あの、コレは?」

「あんたは着けた方が良いよ」

「何故です」

「良いから、サッサと着けて」


 多少渋ったようむではあるが、着けろと言われればそうせざるを得ない。


 ガスマスクの様なモノに顔が覆われた生徒を見て、のうかりんは運転手へと目を向けた。


「ごめんなさいね、少し待ってて」

「あ、はい!」


 運転手の一声掛けると、のうかりんは颯爽と車から降りる。

 その後に、ようむも続いた。


 降り立つなり、テキパキと用意を始めるのうかりん。

 頑丈そうな袋に、長めの火ばさみを用意する。


「はい、あんたはコレ」


 そういって差し出されたのは、すりこぎを長くした様な棒。

 ハイと渡されたようむではあるが、首を傾げる。


「……コレで、何をすれば良いんですか?」


 胴付きだからこそ、道具を持てる。

 とは言え、棒で何をすれば良いのかがわからない。


 仕事内容を尋ねる生徒に、教官はウーンと唸った。


「そうだなぁ……害虫駆除……かな?」


 言い方は引っ掛かる。 それでも、ようむは内心拍子抜けしていた。

 言葉から察するに、棒で虫を追い払えというのだろうと推察する。


 ようむは、棒を握り締める感覚を確認しながら、仕事を想像していた。


 畑に入り、何かを追い回す自ゆん。

 棒ならば、マトモに小さな虫は捉え切れないが、追い払う事は出来るかも知れない。

 

「ほら、行くよ!」「は、はい!」


 自ゆん付いて来いという教官に、生徒は従った。


    *


 住宅街を少し進む訳だが、ようむには疑問だらけだ。

 教官からは【害虫駆除】だと伝えられている。


 となると、益々疑問は深まった。


 住宅街にもそれなりに虫は居るだろう。 が、そうなると奇妙な話である。

 のうかりんとようむは、何か特別な道具を持っては居ない。

 噴霧器や散布剤の類も何も持ってきては居なかった。


 そして、別の疑問が湧いてくる。


 それは、何故この仕事は【にんげんさん】ではなく、敢えてゆっくりに任されたのかという点だった。


 疑問は尽きない。 が、程なくのうかりんが「此処だね」と漏らす。 

 ようむも、教官の声にチラリと確認した。


 其処は、住宅街の隙間とも言える。

 恐らくは何かの設備や管理用の通路なのかも知れない狭い通路。


「ほら、行くよ。 待たせたら悪いから」


 そんな奥に、のうかりんは臆せず入っていく。

 教官に行くと言われたなら、ようむもソレに従った。 


 歩けばギリギリ入って行ける狭い道。

 其処を歩いていく白金バッジと金バッジのゆっくり。


「……居た」


 先頭を行くのうかりんは、ぼそりとそういうと振り向く。


「はい、あんたの仕事だよ」 


 サッと避けて道を譲ってくれるからか、ソレはようむにも見えた。


 住宅街の何処かで有りそうな汚れが目立つ段ボール箱。

 横倒しに成ったソレは、空ではなかった。


 其処には、ゆっくりが居た。 


 薄汚れた体に、ボロボロの御飾り。 どう見ても飼いゆっくりではない。

 分かるのは、家族で其処に住んでいるだろうという事。


 のうかりんとようむが見えたからか、のそりと出て来たまりさ種。


「な、なんのようなんだぜ、わるいことはなにもしてないのぜ」 


 そういう背後には、子ゆを抱える母親と思しきれいむ種。

 端から見ていれば分かるのは、極平均的な野良である。


 そんなゆっくり達を見て、のうかりんは目を細めた。


「あんたらさ、勝手住み着いてゴミ漁ってるでしょ? 住人の人から苦情が来てるんだよねぇ。 だからさ、とりあえず出てってくんない?」


 先ずはと、のうかりんは立ち退きを要求する。

 出て行ってくれるのであれば、事は穏便に済ませる事も出来るだろう。

 問題が在れば、それを取り除けば良いのだから。


 だが、立ち退き要求に対して、まりさは動かない。

 それだけではなく、頭の御飾りにお下げを突っ込むと、スッと枝を取り出した。

  

 何処かで拾ったで在ろう、ただの枝。  

 その先をのうかりんへと向けると、野良まりさはキッと顔を力を入れた。


「ふざけんじゃあないのぜ! さきにここにすんでたのはまりさたちなのぜ! それなのに、あとからはいってきたのはにんげんさんなのぜ!」


 住宅用の土地に、野良ゆっくりが住み着く事は珍しくはない。

 街に住む以上は、それなりに安全な土地が無ければ生活が始まらない。


 往々にして、野良ゆっくりはなるべくなら人に見付からない場所に巣を作る。


 高架下、建物の影、公園の茂み。


 この親子は、住宅街の開発が始まる迄は其処に居たのだろう。

 開発が始まるに連れ、隅へ隅へと追いやられた。

 そして、住み始めた住人から煙たがられるという事は良くある。 


 必死に先住民と訴えるまりさに、のうかりんはフゥンと唸った。


「で? だから何? 出て行くの? 出て行かないの? どっち?」


 当たり前だが、駆除を目的として来ている。

 で在れば、見逃すという選択肢は始めから用意されては居ない。

 自ゆんから出て行くか、殺してでも退かすのか、ソレだけである。


 時間が惜しいからか、選択を迫るのうかりんに、まりさは目を剥いた。


「いいかげんにしろぉ! ぷれいすもなかまも、なにもかもにんげんさんがうばっておいて! まりさたちのおうちまでうばうのかぜ!? そんなことはさせないぜ! なにもかもうばえるとおもうなぁ!!」


 家族を護らんと、まりさは吠えた。

 とは言え、全身の震えから察するに、それが虚勢なのは明白だ。

 

 胴付きというだけで戦力に差が出るのに加え、道具もある。

 マトモに戦えば結果は言うまでもない。


 怖じ気づいたからか、動けないまりさ。

 つまらなそうに目を離すと、のうかりんは連れてきたようむの背を押した。


「出て行ってくれないんだって。 じゃあ仕方ないよね」


 如何にも【是非もなし】と言う教官。

 ようむは、ようやく自ゆんに棒が渡された理由を悟った。

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