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ゆっくりの価値とは  作者: enforcer
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初仕事


 銀バッジから金バッジへと変わる。

 それは、単純にバッジの色が変わるだけではない。


 ゆっくりショップにて並ぶ際には、その値段は段違いに跳ね上がる。

 個人ならば、バッジ習得の難易度も同じだけ上がるだろう。


 だが其処までは、普通のゆっくりである。

 

 如何に値段が高くなろうが、飼いゆっくりは飼いゆっくり。

 訓練所に居るゆっくり達にとっては、生活が変わる事を意味していた。


「金バッジゆっくりの諸君。 先ずはおめでとう!」


 ゆっくり訓練所の監督官は、世辞ではない言葉を贈る。

 

 それは男個人だけの言葉ではない。

 加工所出身の【金バッジゆっくり】は、何処へ行っても第一級の扱いを受けられる。


 何せ国営機関が手間を惜しまずに育て上げた優秀なゆっくりである。

 店にソレが居るだけで、店の格が決まるといっても過言ではない。


 ゆっくりを扱う店は数在るが、玉石混交と言える。

 

 最低限の用品や生き餌を扱うだけの店から、最高峰とも言える店まで在り、その差は目に見える程であった。


 それらの事情を知ってる監督官は、更に言葉を続ける。


「諸君らには選んで欲しい。 此処を出て、飼い主を探すのか。 それとも、更に上を目指すのか、だ」


 金バッジと成ったゆっくり達に、男はそう迫った。

 多くのゆっくりに取って、最高峰の【白金プラチナ】は確かに魅力的ではある。

 

 ありとあらゆるゆっくりの中でも、特級鑑札(プラチナバッジ)持ちは扱いが違う。

 

 ソレに付いては、監督官から説明されるまでもなく、ようむ既に知っていた。

 そもそもようむを拾い上げたのも、のうかりんである。


 ゆっくりで在りながら、恐れの対象で在るはずの【にんげんさん】と同等の扱いを受ける事が出来た。

 そして、ソレはゆっくりにとっては理想の立場と言える。


 ようむに限らず、人の怖さを知っている者はその立場を欲する。

 が、同時に別の考えも頭を過った。


【にんげんさんは怖いが、自ゆんは金バッジ持ちではないか】と。


 ただの野良では道端の石ころ以下の扱いをされるが、今は違うのだ。

 わざわざ高い金を払い金バッジを虐待しようとする者はそうは居ない。

 

 それどころか、野良や野生では望もうが決して叶う事がない特権階級である。


 何せ、単に人がゆっくりに何かをしたいだけならば、道を歩けば文字通り腐る程に居る。

 散歩がてら歩けば、自ゆんを飼えと宣う輩は嫌という程に見つかるだろう。 


 だからか、金バッジ持ち達は悩んだ。 思い返せば、もう十分に苦労はして来た。


 訓練所に入る前も、金バッジを習得する迄も。

 もう無理をしたくないと想うのも自然である。


 ゆっくり達が悩む中。 手が挙がる。


「自ゆんは残ります」


 監督官の問いに、ようむはそう答える。

 教室内全ての目が、一瞬其方を向いた。 無論、監督官の目も。


 ようむの声に、監督官は静かに頷く。


「良いだろう。 40番を特級鑑札候補生とする」


 そう言いながら、他のゆっくりに目を向けた。


「さ、他の諸君らはどうする?」


 問われたゆっくり達は、お互いの目を見合う。


「此方から強制はしない。 が、この場で決めて貰おう」


 少し後。


 結果的に言えば、今回【特級鑑札候補生】として残ったのはようむだけであった。


   *


 同期のゆっくり達が何処へ行ったのかはようむの知る由も無い。

 ソレとは別に、候補生として残る。


 だからか、ようむは残った候補生として、監督官と向かい合っていた。


「君が候補生となれば、先ずは番号は外される。 まぁ、どの道君しか残って居ないのだから、もはや番号は必要無いだろう」

  

 前置きとして、そう話しながらようむを見る監督官。

 

 言葉では言わないが、ようむが金バッジゆっくりとして店に出ない事は既に察していた。

 その理由は、目である。


 何がどうしてそんな顔をしているのかを問う事は無い。

 その代わり分かるのは、仮に店に並んでもようむは【売れない】という事だ。


 当たり前ではあるが、店に来る人間は飼いゆっくりを見繕う。

 だが、人は単に値段やバッジの色だけで見る訳でもない。


 そのゆっくりの愛嬌や言葉使い、他も含めて総合し、判断する。


 ソレを踏まえると、ようむは好まれない。

 常にしかめっ面をして、笑おうとはしない。

 命令には従うが、愛嬌が無いのだ。


 そんなゆっくりを好きこのんで飼おう思わないだろう。


 ともかくも、ようむは候補生として残った。

 で在れば、監督官はその仕事を全うするだけである。


「君が候補生として残るのであれば、これからの生活について説明をしなければ成らないが、此処までは良いかね?」

「はい」


 やはりと言うべきか、ようむの応答自体は問題無い。

 ただ、その顔は変わらない。


「では、説明を続けよう。 金バッジ迄ならば、金銭に関して考える必要は無かった筈だ。 衣食住の世話を此方が引き受けて居たからな。  ただ、特級鑑札となれば、話は違うのだ。 全てが、君に託される」


 小難しい説明だからか、ようむの眉が僅かに動く。

 実際には眉間にシワが寄った。


 下手をすると【ガンを飛ばす】様な目線ではあるが、ようむの素行を知っている監督官は目くじらを立てたりはしない。


「君も既にバッジを習得した先輩の事は知っているだろう? 誰もが、人に頼らず自ゆんで自活している。 生活費、授業料、試験の費用、全てを賄って貰う。 其処でだ。 君にも何かの仕事を割り当てねば成らない」


 監督官は一旦言葉を区切ると、フゥと息を吐き、吸った。


「此方から割り振る事は出来る。 が、実は早速君に手伝えと言っている者が居る」


 そう言われたようむは、少しだけ首を傾げた。

 男の話を吟味するならば、既に誰かが自ゆんを呼んでいる、という事になる。


「……ソレは、誰でしょうか?」


 ようむの質問に、監督官は一瞬目を伏せる。

 だが、直ぐに思い直した様に顔を上げた。


「君の良く知ってるゆっくりだ」


 名前は出さないが、それでもようむには分かった。

 訓練所に置いて、知り合いゆっくりはそう多くはない。


 その中でも【良く知っている】となると誰なのかは直ぐに分かる。


 ただ、ようむが解せないのは、男の顔だ。

 普段でも厳めしくはあるが、苦いという程ではない。


 その筈が、今回の監督官は非常に苦い顔をしている。


「もし、君が他に仕事がしたいというなら……」

「ようむは構いません」


 男の声を遮る様に、ようむは応える。


 数秒間、男は何も言わずに難しい顔だけを見せる。

 それでも、静かに頷いた。


「……分かった。 では、早速だが案内しよう」


 男も実のところ、全てを知っている訳ではない。

 何故ようむが呼ばれたのか、その理由もである。


   *


 暫し後。


 監督官が此処だと案内したのは、加工所に併設された農場である。

 その場所に付いては、ようむも知っては居た。


 野外講習として、何度も既に訪れている。


 そうして、ようむを案内した監督官が見る先に居たのは、当然の様に麦わら帽子を被ったのうかりんであった。


「君に頼まれた通り案内したが……」


 のうかりんを前に、監督官は何かを含む言い方をする。

 それに対して、のうかりんは柔らかい微笑みを絶やさない。


「ありがとうございます。 わざわざお手間掛けさせちゃって」


 男とのうかりんの話を聞く分には、特段目立った点は無い。

 背広姿の監督官と、農家のオバチャンが話して居るだけにも見えた。


 二、三、当たり障りの無い会話を交わすと、監督官はのうかりんから離れようむに近寄る。


「良いんだな?」


 確かめる様な問いに、ようむは静かに頷いていた。 


「はい」


 本ゆんから【構わない】と言われている以上、男はそれ以上口を挟めない。


 そもそも、特級鑑札に必要なのは【責任感】なのだ。

 誰かに言われた通りにしているだけでは、特級鑑札にはとても届かない。


 ソレをよくよく知っているからこそ、男はようむにそれ以上は何も言わず、静かに農場から出て行った。


 残されたのは、特級鑑札持ちとその候補生。

 更には、教官と生徒でもある。


 先ずはとばかりに、のうかりんは送られて来たようむをしげしげと眺めた。


「ふぅん? すっかり立派に成ったじゃない」


 会ったばかりの頃は、薄汚れた野良の子ゆだったようむ。

 ソレが今では、金バッジ付きに加えて胴付きである。


 すっかりと変わりつつも、その変わらない顔にのうかりんは微笑んだ。


「お陰様です」


 ぺこりと頭を下げるようむに、のうかりんはウンウンと頷く。


「ま、そんなカチカチに成んなくて良いからね。 とりあえず、一仕事する?」

「え? あ、はい」


 急に仕事と言われたからか、戸惑いはするが直ぐに頷くようむ。

 素直な生徒に、のうかりんはフフンと笑った。


「うん、じゃ、始めましょう」


 こうして、ようむの初仕事が始まった。


   *


 始めてから小一時間程が経った頃。


 畑仕事をしながらも、ようむは内心拍子抜けがしていた。

 やる事と言えば、特段に変哲も無い畑仕事である。

  

 雑草の芽が出ればそれを掻き、水が足りないならそれを撒く。

 在る意味では、牧歌的ですらある。


 派手さも無ければ、何か悩む程の事もない。 平穏な時間。


 そんな真面目に仕事に取り組むようむに、のうかりんは目を向ける。


「おーい、少し休憩しましょ!」


 柔らかい呼び声に、ようむは「はーい!」と始めて返事を返した。


   *


 休憩として、日陰にてベンチに腰掛けるのうかりんとようむ。


「どう? 疲れた?」


 そう問われたようむは、小さく首を横へと振る。

 慣れない仕事ではあるが、今までの訓練に比べれば格段に楽であった。


「いえ、平気です」


 相も変わらず顔を変えない生徒を、のうかりんは横目で窺う。 

 水で喉を潤しながら、フゥと息を吐いた。

 

 互いに、何言わない時間が過ぎるが、ふと、ようむは横を向く。


「教官は、ずっと此処で?」


 ポンと出された質問に、のうかりんは少し唸る。


「うん? んー、そだね。 まぁ、だいたいはそうかな」


 そう言うのうかりんだが、どことなく退屈そうに見えなくもない。

 何故そうなのか、ようむにはそれが分からなかった。


「何も無ければ、良いんだけどねぇ……」

  

 そんな勿体ぶった言い方に、ようむはそれが何なのかを尋ねようかと思う。

 

「……あの」


 ようむが何かを言い掛けた途端、農場にバタバタとした足音が響く。 

 その音には、ようむも気付いた。 それ故に、のうかりんが見えていない。


「野外教官! 今、大丈夫ですか!」


 何事なのかは分からないが、ヤケに慌てた作業員が駆けてきていた。


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