ういる君達、宿主もろとも異世界転移したのだじょー!はっ そしたら異世界人どっちも滅んだじょー!
ういる君達は、すっごくちっちゃいです。ものすごーく、ちっちゃいのです。ちっちゃすぎて、人間の目には見えません。
ういる君達は、人間の世界は良く知っています。なのでその人間になるのが、彼等の『夢』なのです。
人間になって、美味しいご飯が食べてみたいのです。
トマトソースの肉団子ゴロゴロスパゲッティ、飛行船のビーフシチュー、ホットケーキ、ミルク粥、大きなケーキのひと切れ。ハンバーガー。
ホテルのサーモン料理、何かわからんしましま物質のとろとろ煮込み、角煮、おにぎり、大きなお饅頭、赤い木の実、煮物、雑炊、栄養があるけれど美味しくない木の実。
ハムと野菜のサンドイッチ、野菜のスープ、目玉焼きの乗っているパン、干し肉、黒パンに乗せた炙りチーズ。
「食べたいじょー!飲み物も飲みたいじょー!」
搾りたてのお乳、労働者のワイン、空賊の葡萄酒、友に捧げるワイン、シチリアのジュース ホットミルクの蜂蜜入り、コーヒー、プライベートな庭の紅茶。
他にも、色々飲んだり食べたりしたい、小さな小さなういる君達です。
なのでその器を手にいれるべく、小さな姿を利用して、体の中へと侵入し、内から乗っ取りを謀ります。
「いっぱいに増えれば!意識を乗っ取れるかも知れないじょー」
少しおバカなういる君達は無謀に、出来ぬ事を挑戦します。それは絶対にあり得ない事なのですが、
「もしかしたら、もしかしたら、出来るかも知れないじょー」
と思って、せっせと、せっせと……入りこんだ体を乗っとるべく、仲間を増やし続けます。せっせ、せっせと……せっせと、あちこちで頑張るのです。
☆☆☆☆
「みんなー!集合だじょー」
リーダーであるナンバーゼロが、皆に声を掛けました。なんだじょーと、わきゃわきゃ仲間が集まってきます。
最近この器に来たばかりの、ういる君達はまだそれほど数は増えてません。人間もその事に気がついて無い時です。
これから増えるじょーと、気合いを入れてる最中のみんなです。人はこの状態を『潜伏期間』とか、勝手な名前をつけています。
ういる君達にすれば、今の時間は、自分達が暮らしやすい世界に変えるための『リフォーム期間』なのです。
……増えて、増えて、いっぱいになったら『合体』して、一つの『意識体』になるのだじょー!そすれば、人間に憑依出来るかも知れないじょー!
そのためには、数を増やすことに専念しなくてはいけません。ういる君達は頑張るのです。
でも絶対に、出来ない事なのですが、ちょっとおバカなういる君達は、あることに、気がついていないのです。
「みんなー!衝撃的な展開になったじょー!何と今ワレワレは!どっかにお引っ越ししてるらしいじょー!」
なんだじょ?なんだじょ?お引っ越しだじよ?そういや、さっき変な感覚があったじょー!どうしたんだじょ?
わきゃわきゃ、わきゃわきゃ、さっきより増えてるういる君達はうじょうじょ、集まりました。
☆☆☆☆☆
香り高い香が焚かれている神殿、転生転移を預かる女神に祈りを捧げる神官達。彼等の世界は、今滅びの危機に瀕していた。
異形の形を持つ、邪な力に満ちた者達との、長きに渡る戦により、正しき力を使う、魔法使い達が、苦戦をしいれられているのだ。
滅びてしまう、このままでは我々は滅んでしまうと彼ら達の思いが高じて、秘術を執り行ない『異世界』から『勇者』となる素質を持ちえた人間を、呼び寄せる事にしたのだった。
月光を宿した夜露の最後の光が射した一雫、穢れなき朝の光を一番に当たりし朝露の最初一滴、
芽の出ぬ木の実、花咲かぬ一枝、果実と葉、つぼみと花、それら全てをつけているひと枝、術に必要なそれを手にいれ、神に捧げ香を焚き呪文を唱えた
「え?ここどこ?俺会社に……出勤してたのだけど……コンビニ行って、なんだっけ、そう出たらふらあとぉ………」
スーツ姿のサラリーマンが、香の煙の中から現れると、青ざめた顔色で崩れる様にうずくまりまる。それを目の当たりにし、あわてふためく神官達。
「な!何と勇者殿!お体の具合が悪い時に、お呼びだてしてしまいましたかー!」
い!急いで床にお運びするのだ!癒しの聖女様をお呼びしろ!と蜂の巣をつついたような、騒動となった。
あ、うん、風邪だと思うから……大丈夫です。と彼は話した。そして一気に高く上がる熱、節々の痛み、急激な体調変化、異世界では今だない症状。
それを治癒するために、聖女の力を使い、神官達も持ち得る全てで、サポートをするが一向に良くならない。
このままでは『勇者』殿をみすみす殺してしまう。高熱にうなされる彼を目にした神官達は、一度元の世界に、返還することを決意せざるを得なかった。
「また、もう一度お呼びいたしますが、その時に応えて頂けますか?お願いいたします」
わけのわからぬままで、朦朧とした意識の中で彼は頷く。残念そうな人々に悪かったな、今度はちゃんとね、と夢うつつに考えながら、深い眠りに落ちた。
……あっ、気が付きました?と彼が目を覚ますと、涼やかな声がかけられた。そこは白い天井の一室だった。
「え?ここ、病院?なん、で?」
……体調の悪さは変わらない。関節が、筋肉が痛い、熱も高いのか、口の中の感触も、ネバネバと気持ちが悪い、最悪だな、
と思いつつ、この症状に彼は心当たりがあった。
マスクをしている看護士の彼女が、てきぱきと状況を説明をする。
「コンビニ前で倒れられたのですよ。検査でインフルエンザと診断がおりました。お家の方が迎えに来られたら、自宅で安静にしてくださいね」
……やっぱり、はっ、インフルエンザで、倒れた?はは、情けない。じゃ、あれは、夢だったんだな。そうだよな。なろうじゃあるまい、そんな事有るわけないよ。
「お薬飲んで下さい、残りはご家族様に、お渡ししときますね」
看護士が差し出してきた、カプセルを受けとると、力を振り絞り何とか半身を起こすと、水と共に飲み下す。
流れる冷たいそれの感覚。熱が高いのを実感する。
彼ははあ、とため息をつく。そして横になりながら、いててて、インフルエンザの予防接種しときゃ良かった、と後悔の海を漂う。
冷たい枕が心地好い。しかしこの痛みは辛いなぁ、としかめっ面で彼は目を閉じ、苦しく浅い眠りを繰り返す。
☆☆☆☆
「あり?あり?ものすごーく、増えるじょー!」
ういる君達はびっくりです。何時もよりすぐにウジャウジャ、ウジャウジャ、わきゃわきゃ、わきゃわきゃ、増えるのです。
「なんだじょー!天敵も来ないじょ!どうしたんだじょ?進化?進化したじょ?無敵だじょー!」
そう、何時もならある程度、ウジャウジャウジャウジャ、増えるとカプセルやら粉やらその時々に違うモノが、不意にやって来ると、
ういる君の行く手を阻み、そして討伐されていくのですが、今回はそれが無いのです。何か別の力を感じますが、
ういる君達には、それらは無力なモノでした。それは『細菌』君に対しては効力が、ありましたが『ウィルス』のういる君達には、あまり効果は認められません。
「おおー!みんなチャンスだじょー!頑張るのだじょ!」
頑張るのだじょー!と、ういる君達は気合いが入りました。
――な、何で癒しの力が通用しない、異世界から一人の人間を召喚したあと、その選ばれた者が病だったために、一度帰還させた後に、その世界はパニックに陥っていました。
一気に高熱となり、身体中の痛みを訴える『闇の風』と、いう病。それに次々と国の民が、罹患しているのです。
先ずは最初の患者は、神官はじめ、癒しの力で人々の病を癒す事が任務の聖女。
初動期で、彼ら達が殺られたのは、大きな痛手でした。
そして彼ら達を看病をした仕える者たち、そして彼ら達の家族、接触した人間……どんどんと、広がり続く負のスパイラル。
そしてそれは、敵対する異形の人々にも猛威を奮いました。もはやどちらの民族も戦などしている場合では、なくなりました。
バタバタと、倒れ命を落としていく者たち……こうなると、ういる君を止める手段はありません。
広がり続ける『闇の風』どんどん、どんどんと世界から、命がなすすべもなく、消えて行きました。
「おおー!どうするんだじょー!増えたら壊れるじょ!」
ういる君達が、喜び勇んで増えるに増えると、思いもよらない事が起こります。
ちょいとおバカな彼ら達の思惑とは違い、器いっぱいに、ういる君達が増えると、それはどういうわけか壊れるのです。
動く事が出来なくなるのです。そして朽ちて逝くのです。
なので仕方ありません。次から次と、移動して行く事なりました。ういる君達の数はどんどん増えましたが……
「どうしたんだじょー!誰もいなくなったじょー!」
いつの間にか、ういる君の器になる身体は、綺麗さっぱりといなくなってしまいました。
ういる君達は、こうなると大地に身を沈めて、深い眠りにつくことになります。
おかしいな、おかしいな、と地面の中でわきゃわきゃと、ウジャウジャと話をしました。
誰もいなくなったじょー!
おかしいのだじょ?何でこうなったのだじょ?
異世界の地面の中で、ウジャウジャ、ウジャウジャ、わきゃわきゃ、わきゃわきゃ……
おかしいのだじょー!美味しいうまうま、食べたいのだじよー!
わきゃわきゃ、わきゃわきゃと話しているうちに、異世界で、闇の風と恐れられた、ういる君達は、
またの名、インフルエンザウィルスは、
いつしかグーグーと、深い眠りに落ちました。
『おわり』