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異世界の戦場 1

 視界が広い。まるでこめかみに眼でも付いているかのようだ。そのうえ、遠近感も正確に把握できるし、確かにこれはすごい発明だな、と私は思う。

 レンズを操作した私は、上空から遠巻きに戦場を眺めていた。

 神聖力により上空に浮かんだ光の影響で視界は良好だ。その眼下に見える軍勢はパッと見で分かるほどに、ザギール軍の方が数は多い。しかし、高所に構える皇国軍の大砲が、数の利を高さの利でカバーしていた。

 集音器から砲撃の爆音が届く。

 急こう配の坂を登ってきていたザギール軍の兵士が四、五人吹き飛び、体をぐちゃぐちゃにしながら後方へ吹き飛んでいく。大砲の破壊力に加え、下向きに撃つことで重力加速度も加わっているため、大砲の射程自体も大幅に向上していた。そのため、ザギール軍の第一陣も怯んでいるためか、突撃の速度が鈍い。

 そのときザギール軍の先頭から他とは一線を画すスピードで飛び出す人影があった。その手には薄暗い闇の中でも淡く輝く長剣を手にしている。E級精霊装、デミ・グラムだ。


「精霊騎士が来るぞ!」


 皇国軍に怒号が飛び、砲弾が精霊騎士へ集中する。いくら超人的な力を手にすることが出来る精霊装でも、それを模して造られた量産型のまがい物――デミシリーズならば、かろうじて人でも討ち取ることが出来るのだ。


「なにっ!?」


 しかし、殺到した砲弾は、全て空中で爆散する。何事かとどよめきたった皇国軍の兵士の眼に、やがて大剣を掲げた一人の青年が映った。


「あれは……『バオウ』か!? とすると、あれは使い手のカターナ・ロッド……」

「C級精霊装持ちがこんなに早く……!? 気を付けろ、奴の斬撃は――」


 青年、カターナが剣を振るう。次の瞬間、彼の剣から漆黒の斬撃が飛び、大砲ごと土嚢に隠れていた砲兵を真っ二つにした。

 斬撃が、飛んだのか……?

 カターナが私を、上空に浮かんでいたレンズを見上げた。

 やばい、とレンズを急後退させた直後、眼前を黒い弧のようなものが通過した。間一髪だ。


「そこまでだ!」


 重く太い声と共に、カターナに剣が投げつけられた。

 レンズの動体視力だからこそかろうじて見えた速さのそれを、カターナは難なく弾き、上空へと跳ね上げる。

 しかし、弧を描き打ち上げられた剣は、まるで吸い寄せられるかのように不自然な軌道を描き、やがて一人の男の手元へと収まった。第一防衛ライン中央部の隊長にして、ブラウニーの側近である精霊騎士、ゴウズ少佐だ。

 彼は、得物であるC級精霊装『フラガラッハ』を上段に構えると、砲弾のごとき速度でカターナへと疾駆した。


「貴様の相手は私だぁ!」

「!」


 剣がぶつかりあい、反発しあった精霊力が衝撃となって周囲を震撼させる。

 そのまま剣戟を続ける中、カターナが低くも耳に響く声で言った。


「俺に構うな! 精霊騎士は先に大砲を潰せ!」

「大砲を死守せよ! ケイル、ロンデル、ベリュースは他の精霊騎士の相手をしろ!」


 それぞれのリーダー格から指示が飛び、遂に両軍が激しくぶつかり合う。

 ゴウズが敵のリーダーをおさえたは良いものの、戦力差は明確だった。

 なにせこちらの精霊騎士は四人、対して向こうは八人もいるのだ。ゴウズが一人抑えても、三人で七人の相手をせねばならず、戦線は瞬く間に崩壊した。


「くっ……撤退だ! 第二防衛ラインまで退け!」


 ゴウズがその命令を下すまでにそう時間は掛からなかった。

 十門の大砲のうち、七門を破壊された皇国軍は、残りを捨てて撤退を始めた。その撤退のタイミング自体は的確だったが、問題があったとすれば、逃げる兵士が慌て過ぎたことだろうか。


「あっ……!」


 撤退しはじめた皇国軍に、反転させた大砲が狙いをつける。僅か三門ほど残っていた皇国軍の大砲を、ザギール軍が奪ったのだ。


「馬鹿野郎ぉ! 撤退の時は大砲を破壊しないと……」


 直後に大砲が一斉に炸裂、背中を見せる皇国軍の背中に容赦なく直撃した。

 背中から聞こえた爆音、悲鳴、怒号に撤退する兵士たちは恐怖を加速させる。上官らしき何名かが必死に統率を取ろうとするが、聞く耳を持たない。これでは撤退ではなく敗走だ。


「遅いッ!」

「がぁ!」


 そして、その焦りが伝染したのか、サイドテールの敵精霊騎士が皇国の精霊騎士の一人、ロンデルを倒す。追撃は更に苛烈になり、最後尾にいた者から次々と砲撃の餌食となる。ゴウズも加勢に入りたそうだが、カターナがそれを許さない。

 更に精霊騎士、ベリュースも倒れ、混乱と恐怖は更に加速する。これでは第二防衛ラインまで下がっても、混乱を生むだけだ。いや、それよりも、この部隊の殿を務めることになる私達の命が……。




「――ティリア君、戦況報告ありがとう」




「え」

 耳元で銃声が聞こえた。本当に耳元、つまり、集音器を通してでない、私の耳のすぐ傍でだ。

 直後、ベリュースを倒した敵の精霊騎士がひっくりかえった。どうしたと思ったら、空を見上げた彼の額には、一つの穴が開いていた。


「ここであまり魔力を使いたくなかったけど、これはしょうがないね。少し遠いけど、我々も行動を開始する。敵が大砲の射程に入るまで、少し遠いけど、狙撃でちょっと数を減らすから、ティリア君は、ゴウズ少佐がやり合ってる奴以外で指揮官らしき人を探して」


 レンズではなく、肉眼で私は隣を見る。

 そこには、土嚢を幾重にも重ねて作った高所に寝そべった青年が、スコープ越しに敵をただ見つめていた。


読んでいただきありがとうございます。

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