表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/30

配置決め

短めですが、区切りの関係なのでご容赦を。

「どういうことですかこれは!」


 作戦室となったテント内のざわめきを蹴散らすかのようにブラウニーの怒声が轟く。

 相変わらず何度聞いても身がすくむ迫力だが、それを真正面から受けている青年は表情を崩さない。


「どう、というのは?」

「この配置です! どうして私がこんな後方に配置されているのですか!」


 その通りだ。私も最初この配置図を見たとき上下逆さまに見ているのではないかと錯覚したほどだ。

 なにせ、私達の最大戦力であり、劣勢なこの戦況を覆す存在であろう『血斧』のブラウニーが一番後方に配置されているのだから。


「何を言っているのですか。いくら前線に出ているとはいえ、中佐はウラヌス前線基地の司令官であり、最高責任者なんですよ? そんなあなたが倒れれば、この戦は負けたのと同義だ。それにお忘れですか? 前回このウラヌスを制圧されたのは、後方に位置する断崖を踏破されて奇襲を許してしまいました。中佐にはそちらのケアをしていただきたいのです」


 彼の説明をブラウニーに伝えると、彼女は桃色の髪の毛先をくるくると弄る。感情的になるのをこらえようとするときの彼女の仕草らしい。彼の受け売りだけど。


「……だとしても、その警戒を私がする必要性を感じません。他の精霊騎士を配置しても良いでしょうし、そもそもただでさえ不利になることが予想される戦いで私を温存する余裕などないでしょう」


 他の士官が言えば鼻に付く発言だったかもしれないが、ブラウニーが言えば誰も反論できない。

 事実、ブラウニーの戦闘能力の高さは折り紙付きだ。A級精霊装であるエイリークを所有し、その一薙ぎは精霊騎士であろうと木の葉のように吹き飛ばすほどの威力らしい。ウラヌス前線基地という、主要な基地の総責任者であることも誰も異を唱えないほどの実力者なのだ。

 しかし、その総責任者に対し、うちの戦術官様は一歩も引かない。ブラウニーの言葉を私が訳すと、彼はさも当然だと言うように頷いた。


「懸念することは良く分かります。しかし考えてみてください。中佐が前線に出れば確かに戦況は好転するでしょう。しかし、もしそのときに後方から奇襲を受ければ我々は総崩れです。他の精霊騎士を置けば良いと仰いますが、あの断崖を踏破出来るということは、向こうの精霊騎士、それもC級以上の精霊装を持っていることはほぼ確実です。前回の爆破で仕留め損ねたというC級持ちの精霊騎士、奴らが襲ってくれば、あなた以外に相手取れる精霊騎士はいません」


 青年の言葉を訳しながら、エイラならどうだろう、と考えた。

 エイラは同期の中でも抜きんでて精霊騎士としての適性が高かったし、弱冠十八歳でC級精霊装を与えられるほどの実力者だ。彼女ならあるいは、とも考えたが、どちらにせよ危険な配置になる。自分の友人をみすみす死地に送りだすような真似を私はしたくなかったので、結局そのまま黙っていた。


「しかしっ! 前線はそれで保つのですか!?」

「ギリギリでしょうね。それに、相手が同じ奇襲を二度もするかというと微妙ですが……それでも、ブラウニー中佐が殿を務めることで、挟撃に遭うようなことだけは避けることが出来ます」


 ブラウニーを宥めるような声音で青年は喋る。言葉自体は通じないだろうが、声音と雰囲気から青年がブラウニーの気に障るような発言をしないよう気を配っていることはここにいる誰もが理解しているようだった。

 彼がこの基地にきてからわずか二ヶ月。今回のように突拍子のない作戦を立案して兵士たちに戸惑いや不信感を抱かれることはあったが、ここまで彼の作戦で大きな失敗がないのも事実だった。僅かでも、彼は士官たちから信用を勝ち取っていたのだ。


「……分かりました、あなたを信じましょう。しかし、どうしようもなくなったときはすぐに指令を送ってください。裏側はがら空きになりますが、この布陣ではどのみち撤退することもできず、徹底抗戦しかありません」


 そしていつものようにブラウニーが折れて、青年の作戦が採用される。青年もほっとしたようだったが、表情を緩めずに頷いた。


「分かりました。そのときはしょうがありません。賭けに出ることにしましょう」


 賭け。それならそもそもこの作戦自体が賭けのようなものではないか。オペレーターとして、作戦室には何度も出入りしたことがあったが、こんな綱渡りのような作戦など見たことがなかった。

 それに、最大戦力であるブラウニーを後方に回すことはやはり悪手のように思う。一度奇襲に成功すれば、私達がそれを警戒するようになるのは敵だって分かっているだろうし、そこを警戒するのは分かるが、わざわざブラウニーを置く必要はないように感じる。私と同じように考えている人だって、この中にはいるはずだ。

 しかし、それでも最後までこの作戦に異議を唱える者は出なかった。それは総責任者であるブラウニーが作戦を肯定したのもあるだろうが、やはりみんなが青年を毛嫌いしながらも、一定の信頼を置き始めているという結果のようにも思えた。確かに彼は頭が良いし、今回の作戦も一応理屈は通っている。そんな彼だから私が今考えたようなことも勿論分かっているはずなのだ。にも関わらず、この作戦を強行した彼の中には、何か別の目的があるように私には思えてならなかった――


読んでいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ