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シスキマの日々 4

地震の影響で更新滞ってました。すみません。

 ぎーこ、ぎーこ、ぎーこ。


「痛いイタイいたいッ!」


 強面の男が顔をくしゃくしゃにさせて悲痛な声を上げる。


「男の悲鳴を聞いてもなぁ……」


 僕はいたってノーマルな性癖しか持ち合わせない人間のため、男がこんな声を出しても興奮したりしない。これはこれからのことで必要だから行っていることなのだ。そうでなければ、男の身体をノコギリで解体する仕事などしたいわけがない。


「いだぁあああい!」

「ほら、次は左の二の腕。誰にするの?」


 僕は男の肘に皮一枚でつながっていたそれを無理やり千切り取ると、向かいに座ってそれを見物していた彼のお仲間たちに投げつける。地面に落ちたそれを、しかし誰も拾おうとはしない。


「ほら、君も動くと血が勢いよく飛び出ちゃうから。大人しくして」

「いでぇえ……いてぇよお」


 切り口に治癒魔法を施し止血を行いながら、僕は後ろに目を走らせる。


「まだ理解していないのかな? そんなに難しいことを言っているとは思えないし、君たちの答えはつまりそういうことってことでいいかな?」

「あ、アンタは何がしたいんだ!」


 椅子に座っている、厳密には座らされている男の一人が、急に泡を喰ったようにそう切り出した。あまり勢いよく喋らないでくれ、唾がこっちまで飛んでくるよ。


「何がって……だから、君たちにやってもらいたい仕事があるんだって」

「だからっ! あんたの言う事には従うって俺は何度も言ってるじゃねえか! なのに、なんでこんな真似するんだよ!?」

「そりゃ、君たちが信用できないからだよ。君たち、昨日僕を襲って来たんだけど、もう覚えてないのかい?」

「それはっ、本当に悪かった! もう絶対、アンタには手を出さないし、言う事にも従うからっ! だから、もうこんなことはやめてくれ!」

「――それだよ」


 一段、声を低くすると、椅子に座った彼ら、そして両腕を肘から先で喪い、悲鳴を上げていた男でさえ、声をぴたりと止めた。がたがたと、椅子が小刻みに揺れる音だけが聞こえる。


「君たちは神様が目の前にいたら、そうやってタメ口で物を喋るのかい? いや、そもそも喋っていいと許可をもらっていないのにも関わらず、そうやって汚く唾を飛ばしてくるのかい? 違うだろ。君たちはまだ自分の立場と、僕がどういう人間かを分かっていないんだよ」


 僕は地面に落ちていた二の腕を踏み潰す。皮膚が裂け、その隙間から血と肉が零れ落ち、砕けた骨が皮膚を突き破ってその白い流麗なフォルムを覗かせる。

 椅子の足が地面を削る音が、より一層大きくなった。


「……でも、勘違いしないでほしい。それは別にしょうがないことなんだよ。だって、君たちは今まで、神に会ったことなんてないだろう? いやそもそも、君たちが神様という存在を信じているのかどうかさえ定かじゃない。そんな未知の存在に対して、たった一晩で君たちが接し方を理解できるとは思っていないから、僕は怒ったり悲しんだりはしないよ――いわば、これは教育なんだ。僕の元の世界では体罰は法律で禁止されていたけど、ここは日本じゃないんだ、懲戒免職にはならないだろうさ」


 僕は踏み潰した二の腕を持ち上げると、男達の前にかざした。みるみる血の気を失っていく肌色を、幾重もの赤黒い血の流線が伝い足元に落ちる。


「僕の国ではね、体罰の一つとして給食指導が挙げられていたんだ。あ、給食って言っても分からないか。えーと簡単に言えば食事に対する感謝の気持ちなんかを育む教育のことなんだけど、僕の世代のときは、生徒がご飯を残すということが厳しく指導の対象になっていてね。『人の作った物を粗末にしてはいけません!』ってことで、ご飯は全部食べましょうって言われてたんだ、言ってることは間違ってないよね?」


 男の一人に優しく問いかけると、彼はうんうんと熱心に頷いてくれた。


「分かってくれたようだね、よかった……だから、そういう意味では彼も母親の子宮の中で大事に作られた“物”だし、君たちも物を粗末にしちゃいけないよっていうこと。だから、君たち四人で残さず食べきってね、彼を」

「お、おおおおおおおれはっ! 食べものじゃないぃいいっ!」

「ほら、幸い僕の力のおかげで、食材の新鮮さは保たれたままだ。お腹を壊しても僕が治してあげるから、みんな、明日までに食べきっちゃってね。流石に僕も二人も解体しないといけなくなったら疲れちゃうからさ」






「ふわぁ」


 あくびが出た。ちょうねむい。


「あくびですか?」

「ああ、うん」


 気だるい返事をしながらアイスコーヒーを啜る。ティリアには悪いが、今日は夕方くらいまでは寝ていたかった。席をレストランの前に設置されている屋外テーブルを選んだことも、僕としてはちょっと辛いところだった。


「……すみません、やっぱりご迷惑でしたか?」


 それを察したのだろうか。ティリアは綺麗な眉を歪め、申し訳なさそうに表情を伏せた。


「いやいや、そんなことないよ。今までは僕も急がしくて、ティリア君の食事のお誘いを断ってばかりだったからね。それよりも、今日はあれ、使ってないのかい?」

「レンズですか? はい、もしあれが壊れたりして視界を確保できなかったときにも慌てないために慣れておこうと思って」


 目の前で同じく食後のコーヒーを飲むティリアは、いつもと違ってレンズを展開させていない。しかし、彼女の所作は、いたって平常者と遜色がないほどで、彼女が今言った通りのことを、普段していることがうかがえる。


「……君は本当に立派だねぇ」


 通訳として、僕の部下としてやってきたのが君で、本当に良かったと思うよ。


「そ、そんな! 私なんかより、大尉の方がよっぽどご立派です! 皇国語だって、もう普通に喋ることが出来ていますし、最近は教会に詰めて、病人の看護にあたっているそうじゃありませんか! 私には真似できないです」

「まあ語学の方はちょっと頑張ったと言えなくもないけど、治療の方は自己満足だからねぇ」


 それで困るお医者様だっているそうですし。


「シスキマのお医者様のことを言っているのですか? 彼らが本物の医者であるならば、むしろ大尉に感謝の言葉を贈るべきだと思いますが……」

「人間、誰しも君みたいに聖人君子ってわけにはいかないんだよ」


 そんなことを話していると視界の先、ティリアの背中の方から覚束ない足取りでこちらへやってくる男の姿が見え、僕は小さく「あ」と呟いた。


「? どうかしましたか?」

「ミッシェル君だ」


 言葉の通り、こちらへ歩いてきたのは昨日別れて以来会っていなかったミッシェルだった。

 彼も僕達のことに気づき、疲労のにじむ顔に微かな笑みを浮かばせた。


読んでいただきありがとうございます。

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