監視者
道を外れて人通りの少ない路地に出れば、すぐさま彼らはやってきた。
「そこの二人、止まれ」
振り向くと、そこには小汚い服を着たいかにも荒事専門といった体格の良い男達が五人立っていた。
顔を隠さないあたり、僕達をここで始末するつもりか、それとも単にアホなのか。とりあえず僕は間抜けを演じておくことにする。
「なにか?」
「お前、カナキ・タイガだな? 今日はお前に忠告しにきた」
どうやらここで僕たちを殺すつもりはないらしい。忠告とはなんとも優しいことだ。彼らは優しいアホなようだ。
「と、言いますと?」
「お前、どんな理屈か知らねえが、訳の分からねえ力を使って怪我人を治療しているな? あれを今すぐやめろ」
「? 僕が傷を治せばみんな喜んでくれるけど」
「例えお前が善行だと思ってやったことでも、それで困る奴がいるってことだよ」
「というと、例えばこの町の病院の人達とかかな?」
男が目を細める。いや、親切に教えすぎだよ。
「……忠告で留めておきたかったんだがな……」
「そんな物騒な物を持ってちゃ説得力皆無だね」
男達は敵意を明らかな殺意へと変え、じりじりとにじり寄ってくる。
そこで僕はそういえばと思い隣を見ると、ミッシェルは腕を組み、ただじっと男達を観察し、時折周辺に視線を走らせていた。そこに恐怖や怯えといった感情は全くなく、単に相手の正体を掴もうとしているだけのようだった。確かに、目の前の相手から脅威は感じないし、見た目通り雇われたゴロツキと言ったところだろう。
おそらくこの程度の相手なら僕一人でも倒せるだろうが、良い機会だし、同僚であり飲み友達であるミッシェルの実力を測りたいところだった。僕はさりげなく聞いてみる。
「ちなみにミッシェル君。今まで聞いたことなかったけど、腕っぷしの自信の方は?」
「ん、ああ、まあそこそこだね。一応精霊騎士だし、目の前の奴らくらいの相手なら全く問題にならないかな」
どうやら僕の飲み友達は精霊騎士様だったらしい。なら本当に目の前の相手など木っ端同然だろう。
「それじゃあここはミッシェル君に」
「でも、ここはカナキにお願いして良いかな? 危なくなったらすぐ助けるから」
ぴしゃりと僕の要求は跳ねられ、不満の声を上げようとした僕だったが、ミッシェルの顔つきを見てそれを押し殺した。
彼からは、ただのゴロツキを相手にするとは思えないような気配を感じる。さっきから周囲を警戒していることを考えると、増援を警戒しているのか?
「っと」
そんなことを考えているうちに、男達との距離は既に五メートルを切っていた。仕方がないので、ここは僕が相手してあげることにする。
地面を蹴った僕は、男達との間合いを一瞬で詰めると、先ほどまで喋っていたリーダー格の男の鼻っ面に思い切り拳を叩き込む。騒ぎになると面倒なので、喉にも貫き手を入れて悲鳴すら上げさせない。
それを見て呆然とするかと思われた男達だったが、意外と反応は早かった。
誰が合図をしたわけでもなく、僕を瞬時に取り囲むと、各々の得物(ナイフやら鉄パイプやらだ)を僕に向け牽制する。
一斉に襲い掛かってこなかったのは、同士討ちを恐れてのことか、それとも先ほどの光景を見て尻込みしたせいか。どちらにせよ、彼らの威嚇は僕には通用しなかった。
どう倒したかも覚えていない。それくらいあっけなく、迅速に彼らの無力化は成功した。漫画の雑魚キャラだってもうちょっと見栄えのある倒され方をするだろうに。
そこでミッシェルの方を向くと、しかし彼は僕を見ていなかった。
「――そこか」
ミッシェルは即座に腰のホルダーから拳銃を抜くと、路地に隣接されていた建物の屋上、僕達のいるところをちょうど見下ろせる地点に向けて躊躇することなく発砲した。
ジャラッ――
しかし、飛翔した銃弾は空中で突然弾かれ、地面に降り注ぐ。何者かが跳弾させた――その事実に気づいた直後、屋上を誰かが飛び去って行く気配を察知する。
「俺はあいつを追う! カナキはそこに転がっている奴らを憲兵に突き出しておいてくれ!」
ミッシェルはそう言うが早いが神聖力を熾し、なんと壁を垂直に走って屋上まで駆け上がった。曲芸師か。
そのまま逃げた相手を追って夜の闇に消えたミッシェル。あの身のこなしならば大抵の敵なら追いつくことが出来るだろうが、どうなるだろう。
僕達を見張っていた相手も気になるし、ミッシェルの後を追うことも考えたが、ここは彼の言った通り、目の前の男達の処理をすることにした。地面で伸びているこの男達が大した情報を持っているとは思えなかったが、それ以外にも色々使いようはある。
「とりあえず運ぶか……」
勿論、ミッシェルの言葉通りに憲兵に預けるつもりはさらさらない。透明化の魔法で教会裏の雑木林にでも運び、結界に閉じ込めてから色々と試してみることにしよう。なにせこの世界に来てから初めて、半年ぶりくらいに“何をしても良い”玩具が手に入ったのだ。これで女だったら文句はなかったのだが、生憎そちら方面の欲求解消は期待できそうにない。やはり面倒事を片付けることも兼ねて、機会を窺ってエイラを消すことも考えた方が良いかもしれない。
まあとりあえず今は目の前の男達の処分が先だ。
僕はほろ酔いということもあり、割と上機嫌で男達に魔法を掛けると、運び出す作業を開始した。途中、そういえばモネを次の店で待たせていたことを思い出したが、まあ今度謝ればいいかと考え直し、夜の街を後にしたのだった。
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