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協力者 上

二章開始です。ここからはカナキ視点になります。

「――では、今呼ばれた者は壇上へ」


 祭主の言葉に従い僕達、ウラヌスの丘防衛戦に参加した士官たちが祭壇へと上がる。

 僕は隣に座っていたティリアの手を引き、共に壇上の端の方に立つ。

 あの戦闘に参加した全ての兵士となると、壇上には勿論上がりきらないので、直接表彰を受けるのは一部の者だけだ。


「では、代表、レイラ・ブラウニーは前へ」

「はい」


 紅蓮の髪を丁寧に纏め上げたブラウニーは、いつもより少し堅い声で一歩前に出た。

 その正面には、褒章を持った純白の少女、我らが大司教、聖イリヤウス様が聖女の風格で佇んでいた。


「レイラ・ブラウニー。貴方を大佐へと昇進いたします。これからも皇国をエーテル神の復活の日まで守護してください」

「はい、お任せください」


 大聖堂が拍手に包まれ、僕達は壇上を後にする。

 これで僕も中尉から大尉へと昇進、ティリアとエイラも共に中尉へと昇進した。

 正直、軍の階級自体にそれほど執着があるわけではなかったが、僕の最終目的を考えるともらっておいて損はない。

 その後、聖イリヤウスから有難いお言葉を拝聴し、表彰式は終了した。表彰者として、来場者より早く会場を後にしていた僕達は、手を引いていたティリアに話しかけた。


「さて、これから僕はちょっと寄らなきゃならないところがあるから、今日はここで解散にしよう。次の指令が下るまではしばらくオフになるそうだから、君もゆっくりするといい」

「はい、了解しました」


 そういうと、ティリアは腰に提げていた黒い物体を取り出すと、宙へと放り投げる。

 一度上に上がり、そのまま重力に引かれて落ちるはずだったそれは、何か意思を持っているかのようにその場で制止した。


「すまないね、上に何度か掛け合ったんだが、式典の間はどうしてもそれは使うなってね」

「それは何度も聞きましたよ。ちゅ……大尉がそんなに謝らないでください」


 僕の目の前に浮かぶ球体は、戦場で使う偵察型レンズを改良して作られたもので、盲目者の日常生活を補助するために研究されているものだ。

 未だ一般市民層には普及していないものだったが、僕が伝手を使ってティリアをテストケースとして推薦したのだ。偵察目的のレンズよりも、これは人間の視界に近く、有効範囲も五メートルととても狭いが、代わりに神聖力が低い者でも使えるよう、神聖力の効率化が図られている。


「それに、私をこのレンズのテストケースに推して頂いただけでも、大尉には感謝してもしきれないくらいなんです。おかげで、未だに私は軍属でいられています」

「はは、僕としては君に軍は合わないと思ってるんだけどね……まあ、無事にそれが馴染んだだけでも良かったよ」


 ティリアに笑顔を返すと、はにかむティリアの向こうからエイラがこちらに歩いてくるのが見えた。確か、彼女たちはこれから街へ繰り出すとか言っていたか。四時間にも及ぶ長ったらしい式典を終えてすぐに遊びに出掛ける元気があるとは。若いって素晴らしいね。


「ほら、お連れ様が来たようだよ。次の仕事が決まったら教えるから、それまではしばらくゆっくり過ごすといいよ。それじゃあね」

「あ、はい! ありがとうございました!」


 ティリアが頭を下げたのを確認して、彼女から離れる。

 エイラがすれ違いざま、探るような視線をこちらに一瞬向けてきたが、僕は反応を殺してそのまま部屋を後にする。

 あのエイラとかいう少女、僕のことを警戒しているな。

 ティリアはそのとき盲目となっていたため問題なかったが、ティリアがいたあの場所にはエイラもいて、敵の『トライデント』を持つ精霊騎士の少女と交戦していた。

 あのとき、僕は身体能力を向上させる魔法と、両手の先から魔力で作られた刃を展開する『魔力執刀(チャクラメス)』の魔法しか使わなかったが、それでも精霊騎士に匹敵する強さを僕が持っていると知った彼女は、あれから僕に不信感を抱いているようだ。詳細は分からないが、おそらく序盤に僕が精霊騎士にあっさり敗れたことがおかしいと感じているとかその辺りであろう。あの場にはエイラがいなかったため、確証は持っていないだろうが、少し注意しておいた方が良いかもしれない。

 そんなことを考えているうちに、壁には美しい装飾が見られるようになり、床には真っ赤なカーペットがひかれていることに気づいた。どうやら考え事をしているうちに目的地のすぐそこまで来ていたようだ。

 やがて、目的の部屋の前まで来ると、彼女が事前に言っていた通り、いつもいる手練れの侍女たちは姿を消していて、扉は無防備そのものとなっていた。

 その扉を、僕は躊躇うことなく開くと、中には現実離れした美しい少女が豪華な椅子に腰かけていた。


「――あら、カナキ。もう来る頃だと思っていました」


 驚くほど透き通った、それでいて大きな存在感を持つ声だった。先ほど、大聖堂で彼女の声は聴いていたはずなのに、近くで聞くとここまで違うのか。


「心配せずとも、侍女たちは全て退がらせてあります。そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ」

「……相変わらずよく見ているね」


 僕の僅かな焦点の動きを見て笑った彼女に僕は内心舌を巻く。この観察力には、スクールカウンセラーをしていた僕でさえも白旗を揚げる。

 一応、それでも僕は自分の眼で部屋に誰もいないことを確認すると、壁際にあったティーテーブルに置かれたティーポッドから、これまた傍に二つ置かれていたティーカップに紅茶を注ぎ込んだ。湧き立つ香りだけで、紅茶に明るくない僕でさえも、これがとんでもなく上質なものだと分かる。


「三か月ぶり、になりますね、カナキ。あなたが実際に見たいと言っていた本物の戦場はどうでしたか?」


 紅茶を入れる僕を眺めながら、彼女は気さくに話しかけてきた。

 手を止めずに僕は答える。


「やっぱり戦争は人類にとって最低の営みの一つってことがよく分かったよ。この国はあんなものをもう十年も行っているのかい、イリス」


 聖イリヤウス――イリスは、何故かさもおかしそうにクスクスと笑った。


「ええ、そうですよ。お父様が大司教の頃から戦争は始まって、お父様が殺されても、司教たちの頭の中には、戦争を終わらせるという選択肢はなかったみたい。でも、戦争がダメって、よりにもよってあなたが言うの? これまでの世界で、何百人と殺してきたあなたが?」


 イリスの言葉に棘は無く、友達の冗談を聞くような調子だった。


「逆に僕だから言えるんだよ。生き物を殺すことは生きていくうえで仕方のないことだし、人間を殺すのだって、僕達には感情というものがあるんだから多少はしょうがない。でも、あの戦場という場所には秩序がないんだよ。人を殺すってことは大変なことなんだから、それ相応に苦悩したり、相手を思いやったりするべきなんだ。だというのに、あそこは人間を獣畜生と同じ感覚で殺すし、何より大砲っていう、遠くから一発で何人もの命を奪う道具を誰もが平然と使っていることが許せない。それに、殺人をより効率よく行おうとするから、一人殺すことに時間を掛けようとしないし、殺したってすぐ殺した奴のことなんて忘れて次の標的に銃を絞る。その点、向こうの精霊騎士の方には、一人だけきちんと相手を思いやって殺人をしている子だっていたけど、それだって――」

「はいはい、もう十分よ。それより紅茶を早くくださいな」


 誰にも話せなかった僕の思いを気持ちよく発散していたところを途中で止められ、中途半端な気持ちになったが、文句は言わない。確かに、普通の人からすれば理解されない考えだろう。こういうとき、前の世界の友人がいればなぁ、と思わずにはいられない。

 イリスに紅茶を持っていくと、彼女は自然な動作でそれを受け取り、一口含んだ。


「こういうときは、ありがとうって言うんだよ」

「? 何ですかそれは?」

「人に何かをしてもらったときは、きちんと感謝の念を示さなきゃ駄目って事さ」

「へぇ、そんなことがあるんですね」

「君も、本当にあの願いを叶えたいなら、世間のこういったことも、少しずつ学んでいかなきゃね」


 しみじみと頷いたイリスは、「そうね……ありがとう」とたどたどしい口調で返した。

 イリスは生粋の箱入り娘のため、世間の常識を知らないところがあるが、それを除けば最早完璧と言っていいほどに良い子だ。

 素直で聡明、更に洞察眼にも優れており、相手を決して不快にさせない。おまけにこの妖精のような美貌を持っていることから、他国からの婚姻の申し出も後を絶たないらしい。確かに僕から見ても、彼女は喉元が熱くなるような少女ではある。前の世界で僕が住んでいたオルテシア王国の皇女も、圧倒的という表現がしっくりくるような凛々しい美しさを持っていたが、目の前の少女は最早現実味がないレベルに到達している。五年、いや、二、三年もすれば相当の美女に化けるだろう。皇国で大司教の任に就いた女性は世継ぎを産むとき以外は、生涯処女を貫くらしいので、求婚を申し込む隣国の政務官も骨を折りそうだが。


読んでいただきありがとうございます。

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