魔王は、勇者を救いたい
今日もヤられ役は、スライムです。
はい。わりと初めに出る雑魚扱いされる、あのスライムです。
「魔王様に、ご報告いたします」
うやうやしく頭を下げながら……いや、そこ。頭ないだろ、とつっこまないでください。気持ちの問題です。気持ちの……目の前の魔王様に、本日の成果を報告する。
「して、勇者は、今日ーーー」
こくり、と頷いて次の言葉を魔王様から促される。
「勇者様は、桧の棒でわたくしめを叩きました」
「ひ、ひのきのぼう、だと!?まだそんな武器なのか」
そう。昨日、出会ったときの勇者様は、素手でわたくしめを殴りました。あまりにも不憫でしたので、お金をドロップしておきましたのが、功を成したようであります。しかし、まだ武器としては不安があります。
よろよろと肘掛けに身体を預けるような魔王様に、言葉を続けます。
「はい。そのため、今日もお金をドロップしておきましたので、明日にはきっと……もっとよい武器に」
「いくらぐらい、おとしたのだ?」
「そうですね、昨日は5回でしたので、今日は10回ほど。泣きながら叩かれ、お金をその度におと……」
「勇者の前で、泣いた、だと!?」
ずもももももっといった感じで立ち上がろうとする魔王様に、慌てて、両手を振って……いや、お前、手ないだろってつっこまないでください。気持ちの問題です。気持ちの……否定する。
「お優しい勇者様が、泣きながらわたくしめを叩いたのでございます」
「そ、そうか」
すとんっと椅子に座り直す魔王様にほっと胸をなでおろし……以下略
「勇者は、優しいからな。魔物とはいえ、生きているものを攻撃するのは辛いのであろう」
「そうですね」
「……しかし、その調子であれば、明日もまたスライム。お主に任せるしかあるまいな」
「はい。お任せを」
これは、勇者を救いたい、魔王の物語。
日々、勇者のために、ヤられ役を勇者のもとへと派遣し、勇者の成長を促す。
そんな、物語。