第七話『奇妙な男』
内容としては読まなければいけないという物ではありませんが、ドグルゴ視点は今後も何回か載せるつもりなので同時進行で何が起こっているのか把握したい方はこれからもドグルゴ視点を見ていただいても差し支えありません。
エイジス視点のみで新鮮さを味わいたい方は読まない方が良いかもしれません。
俺の名前はドグルゴだ。
今日はとある事情があって門番をしている。
俺はドーラ騎士団第十二騎士団に所属している騎士だ。
その日、とある出来事が起きた。
それは、朝に妻からもらった弁当を食べ終わり、気を引き締め直して門の前に立っていた時だった。
此処、ドーラの町はこの世界の大陸の中でも最南端に存在する町だ。
その南側には15km程の森ーーーとは言ってもゴブリン程度しか出ない森があり、森を抜けると崖………まあ、草が生えているから崖とは言わないかもしれないが、その南にはただひたすら海があるのみだ。
だから、本来ならドーラの町から一歩も南側に出たことのない人間が森から出てくる筈がないのだ。
しかし、彼は出て来た。
腕には黒い物体を抱えており、服装はこれまた奇怪な物で、全身を黒に包んでいて、胸の辺りには青と白の縞模様の…太い紐のような物が付いている。
よく見ればその紐は先端が尖っていて、上に辿って行くと、持ち主の首を絞めるように結ばれている。
もしや、あの紐は何かの魔道具で、あのニンゲンーーーあの人間が体に封印しているのだろうか。
どちらにしろ怪しすぎる。
そして俺は今日の門番を始めて初めての声を上げた。
「ここから先はドーラの町!
通りたいならステータスカードかギルドカードを出せ!」
相変わらず定型文だ。
警戒して声を荒げてしまったが、男は普通に懐からカードを出した。
私の早とちりだったか。
「あのー、このカードでいいですか?」
なにを言っているんだこの男は、そう思いながらカードを受け取って見てみると、あり得ないことしか書かれていなかった。
ファミリーネームに【ドラゴン】や【ゴッド】が入っているのはそのまま龍や神だけである。
増してやその二つが入っているのは神龍くらいーーーいや、神龍はこんな巫山戯た名前はしていない。
そして、作成日。
年号も出鱈目だし、西暦で数えても今よりかなり後だ。
あり得ない存在だ。
俺がカードを返すと、男は諦めて森へ戻るーーー直前に何か閃いたような顔をして戻ってきた。
話を聞くと、本当に巫山戯ている。
あろうことか、ドーラ王国の門番に対して脅しをかけようとしてきたのだ。
更に驚きなのがスライムを使って脅そうとしてきたこと。
スライムは正真正銘世界一弱い魔物として知られている。
その究極種の【スライム・シン】でもこのドーラ王国の騎士団を一つ動員すれば犠牲者は少なく倒せる。
究極種とは、極限まで進化した種族である。
例えゴブリンでも究極種まで進化すれば小さい国なら滅ぼしかねない。
まあその分進化の過程が大変なので今までの歴史でも究極種は5体程しか見つかっていない。
そう考えれば究極種がたった100人程度の騎士に楽に倒されるスライムは雑魚と呼べる。
そのスライムでこのドーラ王国を飲み込むなどと大口を叩いてくるのだ。
小馬鹿にしてやると、今度は腕に抱えた黒い物体と意味の分からない言語で会話をしているのだ。
いくらなんでも怪しすぎる。
しかし、それと同時に少し心配になった。
あの森を無傷で抜けてきたのだから死ぬことはないだろうが、世間知らず、そして常識知らずすぎる。
だから、それは敢えての選択だった。
本来なら身分証明が出来ない者は国には入ることが出来ない。
だが、敢えて銀貨3枚で入れるという条件を提示したのだ。
そして、俺の読みは当たった。
男は一文無しだった。
話を聞いてみると驚いたことに【変換】の事すら知らないのだと言う。
面白い。この男、面白い。
もしもの時には保険もある。
だから、俺はチャンスを与えた。
ゴブリン一匹から取れるのは大体銅貨2枚程度だ。
つまり銀貨3枚だとゴブリンを150匹倒さないといけないのだ。
敢えて男には言わなかったが、俺はある条件を課した。
一ヶ月以内に銀貨3枚を貯められなかったら入国禁止にしようと心で決めていたのだ。
しかし男は私の予想を大きく上回っていた。
なんと3日で帰ってきたのだ。
増してや今懐から覗いたのは金貨か!?
規格外、じゃ済まされない。
これ程までの実力とは、下手をすれば迷宮のボスである龍にすら太刀打ちできるかもしれない。
この男は途轍もなく強い。
しかし、見た所、無差別に危害を加える気はないようだ。
というかかなり温厚だ。
普通なら呆れるような条件を出され、当たり前のようにそれをクリアしてきた。
ルールに従う気はあるのだ。
それならば寧ろ野放しにしておいた方が危険だ。
そう判断し、俺はその男を騎士団へと誘った。
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此奴なら第十二騎士団に入る資格はあると判断したのだが、嘘をついたのが裏目に出たか。
まあいい。それほど兵力に困っている訳ではない。
お詫びと称して、この世界の常識を教えてやった。
この男、本当に不思議でそこらへんの村人でも「んな事知ってるわ!」と怒ってしまうような常識を熱心に聞いてくれた。
それと引き換えと言ってはなんだが、相手の情報も手に入れた。
黒い物体はなんと従魔のスライムだそうだ。
黒いスライムなど聞いたこともない。
まだまだ謎は深そうだ。
あまり深く掘り下げると警戒されかねない。
今は聞かないでおこう。
というかこのスライム、漏れ出る魔力が尋常ではない。
ドーラ王国は従魔なら魔物を連れ込むのも大丈夫だが、これはさすがにアウトではないか。
強いのは男だけではなかったのか。
寧ろスライムの方が強いかもしれない。
取り敢えず怪しまれないためにも敢えて、このスライムが強い事を冗談と思っているフリをした。
そして、ある程度の常識を教え終え、男とも別れを告げた。
さて、久し振りに滾る相手が現れた。
早速、準備をしなければ。
俺はその日、門番を他の人間に任せ、デスクワークをすぐに終わらせ、完全に仕事を終わらせてから町の中へ出向いた。
その時、視界の奥で役所から粉塵が上がり、あまりの規模に野次馬さえ逃げてしまう様な騒ぎが起きている最中であった。
あまり話が進んでいないのでもう一話出しておきます。