第四話『短気な役所長』
まず俺は役所に向かった。
もちろんステータスカードを作ってもらう為だ。
ドグルゴさんの神対応で場所は教えてもらえた。
そして辿り着いた。
いかにも役所って感じだ。
看板にマークがある。
城にも同じマークの旗が遠目に見えるのでドーラ王国の象徴だろうか。
早めに切り上げて正体がバレない内に出るか。
「あのー」
「はい!こちら、ドーラ役所受付係です!
ご用件はなんでしょうか!」
活きの良い女の子が挨拶してくれた。
うむ、可愛いな。
茶色もドーラ王国の象徴なのだろうか。
従業員はみんな茶色い制服を着ている。
ふむ、地味な色も中々良い趣向だ。
「…お客様?どうかされましたか?」
「いや、なんでもない。
ステータスカードを作って欲しい」
「畏まりました!
それでは此方の紙に血を垂らしてください!」
血か。異世界で戦って行く以上、傷を負うのは慣れないといけないのだろうが、俺は昔から痛いのは苦手だ。
怖いなー。
用意された針で指を刺す。
チクっとした痛みを感じた。
よし、こういうのは終われば勝ったも同然だ。
もう一回になるのは嫌なので思いきり指を圧迫すると血が三滴くらい落ちた。
「あ、一滴で大丈夫ですよ!
それでは鑑定してくるので待っていてくださいねー!」
なんだか病院を思い出すな。
俺は病気が怖いのではなくその病気の治療の注射や手術の方が怖かったのだが。
あ、受付嬢の人が帰って来た。
こけた。顔を真っ赤にしながら名前を呼んでくれる。
どんなプレイだこれ。
「え、エイジス様!こちらです!」
さて、ステータスカードというのはどんなものなのだろうか。
そういえばお金が掛かるって聞いてるけど大丈夫なのかな?
「エイジス様のステータスカードは此方になります。
それとですね、」
受付嬢の子が声を潜める。
仕草が可愛い。
「マシュターがお呼びです。」
ん?今明らかに噛んだよな?
ドジっ子属性持ちかな?
少しからかってみよう。
「えっと…マシュターというのは………?」
「マ、マ、マスターでしゅっ!?」
慌てすぎてまた噛んだ。
なんか自分で訂正して噛んでの繰り返しで無限スパイラルに陥ってるので話を進める。
「分かりました。それで、マスターは何処に?」
「わ、私が案内します!」
ドジっ子が奥にある扉を開け、中に入っていく。
『ふむ、人間は面白いな。
みんな同じ服を着ておるぞ。』
「着きました。」
中に入ると白髪のかっこいいおじさんが待っていた。
「私がドーラ役所のマスター、ドリール=ドラールと申します。以後、お見知り置きを。」
この国の人はみんなドから始まる名前なのだろうか。
受付嬢もドジっ子だし。
「え、エイジス=エルロンドです。
ご丁寧にどうも。」
「ふっ。面白い敬語ですな。やはり強い者は態度も違うということですかな?」
ん?強い?誰が?俺が?
聞き間違いだろうか。
「えっと…強い者というのは?」
「はて、貴方以外にいますかな?」
うん、なんか俺強い奴認定されてる。
「ささ、まずは座ってくだされ。」
「は、はい。」
言われるがまま差し出された椅子に座る。
「単刀直入にお聞きしますがーーー」
「お前、異世界召喚者じゃろ?」
思わず背筋に鳥肌が立つ。
それほどに殺気の篭った目だった。
何故ばれた!?
そしてその瞬間、ダーフが俺の腕から飛び出す。
マスター・ドリールが吹き飛ばされた。
「マスター!?なにかありましたか!?」
マスターに扉の外で待つように言われたドジっ子が焦る。
「いやいや、大丈夫じゃよ。
ちょっと不意を突かれただけじゃか…らっ!」
マスターが大きく飛躍する。
上に、ではない。前にだ。
衝撃波でマスターが元々いた場所の壁が砕ける。
速い。よく小説などで、気が付けば目の前にいた、という表現があるが、その通りだ。
マスターが一瞬消え、気が付けば目の前に現れた。
人間の速さとは思えない。
世界最速とも思える速さだ。
ーーーだが、いや、だからこそ、単純な話だ。
こちらが速さで上回ればいい。
「ぐふっ!?」
『フハハハハ!遅いな!我に遠く及ばん!
ん?どうした?負け犬よ。ここらで一つ遠吠えでもしてみるか?』
『いや、それあの人には聞こえてないから。』
人間には筋肉、内臓、脂肪、骨など、たくさんの器官がある。
だからこそ、知能と力と合理性を兼ね備えた究極の生物となれるのだ。
速さとてその例外ではない。
その筋肉によって壁を蹴り、その抗力を上げる事で早く移動することができる。
そして、マスター級が最速に入ればそれこそダーフレベルでない限り、その姿を捉えるどころか、干渉すら出来ない。
ーーー重力を除いては。
人間には沢山の器官がある。
だからこそ、重い。
それこそ体全体がゼリーで出来ているスライムに比べれば天と地の差だ。
ましてや【超高速移動】を持つダーフには遠く及ばなかった。
「ふぅ〜。ギブじゃ、ギブ。あばらが折れちまったわい。
さっさと殺してくれ。」
最初、俺はマスターの言っている事が理解出来なかった。
あばら骨が折れた。だから戦えない。だからギブアップ。
それと「殺してくれ」がどうやったら結びつくんだ?
そもそもなんで街中でいきなりこんなことを?
いきなり戦いだして負けてその上殺せって………
『何を言ってるかは分からんが恐らく礼を言っているのか?
なに!対してことはない!我からも礼を言おう。
冥王には遠く及ばんが、200年振りにまあまあな戦いが出来たぞ!』
ダーフの年齢は置いといて今この人を殺せば確実に悪い方向に事が進む。
そもそもあの人は殺気を放っていただけで俺達に攻撃する気は無かった…とは言い切れないが…
『ダーフ!攻撃やめ!』
『む、何故だ!?折角楽しくなってくる所だぞ!』
『その人は骨が折れてる!これ以上は戦えない!』
『なんだと!?人間はやはり脆いな!だが大丈夫だ。我には治癒魔法がある!
我の治癒魔法なら死なん限り四肢を捥がれても元の状態に戻せるぞ!』
『いやいやいやいや!やめてあげて!?』
なんとかダーフを説得して、マスターには事情を話してもらうことになった。
また襲いかかられても困るので、骨は折ったままだ。
「と、とにかく殺すのはなしです」
「当たり前じゃ!ちょっとノリで言ってみただけで殺されてたら命がいくつあっても足りんわ!」
こいつ、今すぐぶん殴りたい。
「まずは何故俺が異世界人だと分かったんですか?」
「………もしかしてお主、知らんのか?」
「何をですか?」
「ステータスカードには称号もスキルも何もかもが表示されることじゃ。」
急にジジイ口調に戻ったマスターに言われ、カードを見る。
そこにはーーー
【鑑定】で見たステータスがそのまま写し出されていた。
称号の所にはしっかりと【異世界の訪問者】と書かれている。
ドグルゴ、お前にも言っておこう。
「そういうことは先に言っといてくれる!?」
名前:エイジス=エルロンド
レベル:0
称号:異世界の訪問者
所属:ーー
種族:人族
職業:テイマー
ジョブレベル:17
加護:ーー
能力:【スライムテイマー】
スキル:【好感】、【鑑定】、【言語理解】
ジョブスキル:【指揮LV1】
最大HP:52
最大MP:3000
攻撃力:31
防御力:19
魔法攻撃力:7500
魔法防御力:7500