第二話『優しい門番』
今、俺は森を歩いている。
無防備に歌なんか歌いながら歩いている。
何故かって?相棒が敵をみんな倒してくれるからさ。
さて、先程俺の従魔となったダーフ。
【鑑定】してみるとチートステータスだった。
ちなみにあの数値は元々のステータスが表示されているので実際は加護やら常時発動スキルやらであの数値を軽く超えている。
ただ、職業の補正だけは反映された後の数値だそうだ。
見て分かる通り、【流浪人】はHP,MP特化だ。
元々ダーフがHP,MPが少しだけ、あくまでも少しだけ高めだったのであんな数値になっている。
ちなみに数値は8桁まで、レベルは6桁、ジョブレベルは3桁まででカンストらしい。
ダーフはああ見えてカンストまでの道は険しいって訳だ。
「マスター。一度休もう。」
何故か知らないけどこいつ、従魔契約をした途端に俺の事をマスターと呼ぶ様になった。
あと、若干喋り方の魔王っぽさが抜けた気がする。
「よし!…食べ物がないな!」
完全に準備不足だった。
そもそもこんな危機的状況に陥る想定をしていなかった。
あー果物とかないかなー。
さっきからゴブリンしか出てこないから魔物を食べることも出来ないし。
「というわけだ。
どうすればいいかな?」
「?……ああ、人間は食べ物じゃないと食べられないのか。
我はそこらへんの土や木で充分だぞ?」
「ん?そうなのか?」
「ああ。まあ、主食は魔力だ。
魔力さえ供給していれば腹が減ることも腹を満たすこともない。」
あれ、それってダーフに地面を食わせて整地とか出来てしまうんじゃ?
スライム自体が元々最強なのか。
「うむ。では我が魔物でもとってこよう。」
「ああ、頼む」
【実績解除により、職業【テイマー】を入手しました。】
突如頭の中に声が鳴り響いた。
ダーフには聞こえていない様だ。
ん?俺今何かしただろうか。
従魔に命令するのが条件とか?
【テイマー】か。
どうせ今は家も持ってないし着替えもないし、一度変更してみよう。
職業の変更ってどうやるんだ?
試しに「職業を【テイマー】に変更」と念じてみる。
【変更完了。職業が【テイマー】になりました。】
おお、成功した。
さて、早速【鑑定】で見てみるか。
【テイマー】;現在所有済みジョブスキルー【指揮】
現在、ということはこれから先に増えることがあるのだろうか。
そういえばダーフは4つ持っていた。
ジョブレベルで増えるのかもしれない。
ダーフが狩りから帰ってきたら聞いてみよう。
そして、【指揮】とはなんだろうか。
【鑑定】してみる。
【指揮】;ジョブレベル:0=従魔の各ステータス値が1%上昇。
ジョブレベルにより効果上昇。
なるほど。常時発動で従魔がジョブレベルに応じて強化されるスキルか。
中々いいな。
ダーフのあのステータス値なら1%でも充分と言えるだろう。
お、噂をすれば帰ってきた。
よし、飯に…うぇ!?
で、でかい…。
ダーフかと思ったらでかい猪だ。
俺の2倍ぐらいのでかさ。
今からダーフを呼んで間に合うか?
「只今帰ったぞ。」
「うわああ!猪が喋った!ごめんなさい!勘弁してください!」
「……………マスター?」
恥ずかしさで5分くらい悶えた。
だってダーフが悪いじゃん!
あんなでかい猪狩ってくると思わないもん!
…ともあれ、昼飯は用意された。
生の状態で。
「ダーフ。知ってたか?人間って生肉を食べれないんだ。」
「…?焼けばいいではないか。」
「いや、焼くもなにもそんな道具…うわっ!?」
「ほら、焼いてやったぞ。」
「焼いたっていうか火葬されてるんですけど!?
手加減って物を知らないのか!?」
ダーフの魔法が炸裂し、猪の体が消し炭になっていく。
其の後、頑張って炭になってない部分だけを探して食べた。
人間一人なら5日くらい持ちそうな食糧が一食で消えた。
「ところでダーフ。前に魔法使おうとした時に使えなかった事があったんだけどどういうこと?」
「む、貴様魔法スキルを覚えていないのではないか?」
「魔法スキル?よく分からんけどさっきダーフを【鑑定】した時にはダーフもそんなスキル持ってなかったぞ?」
「ほう、【鑑定】を持っているのか。
では【鑑定】を【鑑定】してみれば自ずと理由が分かるぞ。」
なんかゲシュタルト崩壊しそうだな。
【鑑定】を【鑑定】?
取り敢えずやってみる。
【鑑定】;生物・無生物に関わらず自分が意識を向け、念じた物の情報を得る事が出来る。
生物に対しての鑑定は、ステータスの情報を得る【ステータス鑑定】と魔法スキルを見る【魔法スキル鑑定】がある。
魔法スキル鑑定?
なにそれ聞いてない。
早速自分にしてみると、一つも魔法スキルを覚えてなかった。
ダーフは多すぎたので割愛。
「なるほど。こんなのがあったのか。」
「マスター…。流石にそれは些か常識が無さ過ぎるぞ?」
うるせえやい。
だって俺まだこっちに来て4時間ちょっとしか経ってないもん。
年齢4時間ってまだ病院で寝てる赤ちゃんだぞ?
常識もクソもない。
「さ、さて、行くか。」
「ああ。」
俺は誤魔化す様に立ち上がった。
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さて、着いたか。
「ここから先はドーラの町!
通りたいならステータスカードかギルドカードを出せ!」
ここであのカードのご登場だ。
「あのー、このカードでいいですか?」
俺はカードを差し出す。
「タナカ=ドラゴンファイヤー・ゴッドピリオド…長い名前だな。
………ん!?貴様、ふざけてるのか!?」
「え!?い、いや別に何も…問題でも?」
「作成日がおかしいぞ!?蒼平…?聞いたことのない年号だ。それに西暦15270年というのもおかしい。今は迫魔341年、西暦14770年だぞ?」
「…はい?」
こうして俺たちは森へ引き返すことに…なるか!
どうなってる!なんだ、田中君ってもしかして未来人!?兎に角どうにかしないと…
そうだ!
「あのー、門番さん」
「なんだ!入れんものは入れんぞ!」
「こっちにはスライム様がいるんですよ?
やろうと思えばこの国を食べ尽くすことだって出来てしまうんですよ?どうしても通らせていただけませんかねぇ?」
はい、卑怯だと思うなら存分に思ってください。
卑怯なので。
「…?スライムで何が出来る?
あんなただのゼリーとそう変わらん魔物で国を食おうとは…やはりふざけているな?」
えっと…ダーフさん?
どういうことかな?これは。
『どうした?秘策とやらが通ったのではないのか?』
『いや、それは失敗。
んでスライムを使って国を食べるぞって脅したらスライム程度で出来るわけがないって言われて…』
『ほう!マスターは面白いことを言うなぁ!只のスライムで国を喰える訳が無いだろう!
腹を満たさないのは我だけの特権だ!フハハハハ!』
ダーフさん?そういうことは先に言ってもらえますか?
当たり前の様に話すからスライムがみんなチートモンスターなのかと思っちゃいましたよ?
「身分証明がないなら金でもいいぞ?銀貨3枚だ。
あの森を抜けて来たのならそれくらいはなんとかなるだろう?」
「へ?一文無しですけど…」
「は?」
「一文無しです。魔物を倒してもなんも手に入らなかったし…」
「お前………知らないのか?
門番さんが驚いた顔で話してくる。
要約すると
・魔物は死んだだけじゃ金にはならない。
・死体に向かって「変換」と言うか念じるとそのモンスターの種類・死体の状態に応じた金が現れる。
・その代わり死体は消えるので魔物の素材が欲しい場合は「固定」と唱えれば「固定」を使った本人が「解除」を使わない限り「変換」出来なくなる。
『………ダーフ?これからはそういう大事な事は早めに教えてね?』
『フハハハハ!善処しよう!』
こうして俺たちの銭稼ぎが始まった。
名前:エイジス=エルロンド
レベル:0
称号:異世界の訪問者
所属:ーー
種族:人族
職業:テイマー
ジョブレベル:2
加護:ーー
能力:【スライムテイマー】
スキル:【好感】・【鑑定】・【言語理解】
ジョブスキル:【指揮】
最大HP:52
最大MP:3000
攻撃力:31
防御力:19
魔法攻撃力:7500
魔法防御力:7500