第十話『置いていかれた幼女』
「猫耳いいいいいいい!?」
「ひっ」
俺の絶叫に少女が少し後退りする。
「あ、あのっ、た、たた助けていただいてありがとうございますっ!」
挙動不審だ。トイレにでも行きたいのだろうか。
「そ、それじゃっ!」
礼だけ言って少女が逃げようとする。
気付けば俺は、その手を反射的に掴んでいた。
「え?」
「あ、いやその…寝るところとか無いだろ?
俺がしばらく保護してあげるよ。」
我ながら下手な理由付けだ。
前の世界なら不審者扱いされて捕まってもおかしくない。
いいや、それでもやめない!
一日探し求めてやっと見付けた女神をここで逃しては一生の恥だ!
「あ、あ!」
少女が俺を見て目を見開く。
やっぱりまずかったか。
諦めるしかないのか?
そう思った時だった。
『ごふっ!?』
少女がいきなりダーフに飛び付いた。
「んんんんん」
『ちょっ!何をするのだ!おい!マスター!やめさせろ!』
少女はダーフに抱きついたままだ。
むしろ頬擦りまでしている。
少女の表情、行動、目。
それらの観点から、俺は一つの結論に辿り着いた。
それはーーー
「スライムが好きなのか?」
「はい!!!!」
満面の笑顔だった。
対してダーフの方は身を捩らせて逃げようとするが、意外と力が強い少女に抱き締められて逃げ出せずにいる。
『ええい、邪魔だ!
【ワープ】!』
その瞬間、ダーフが消える。
少女も突然の事にきょとんとした顔で周りを見ている。
だが、獣人の索敵能力はすごかった。
少女の猫耳がピクピクと動いかと思えば、屋根の上で息切れをしているダーフに飛び付いた。
『な、なんだと!?我の【ワープ】が………』
それから約10分程ダーフは追いかけられていた。
微笑ましいな。
まあ、今回は貴重な戦闘経験も出来た。
多少の金も手に入った。これで明日のアレも躊躇なく買える。
ホッとしたら眠くなってきた。
意識が遠のいて行く。
ああ……眠いな………
「ふむ、特に異常無しか。」
魔力切れで倒れるエイジスと、町を駆け回る一人と一匹を空から見守る影。
その目は、暗闇の中でも緑色に光っていた。
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さて、異世界転移に成功した蒼さんことエイジスさんがあらすじを説明しよう!
俺、街に到着。
役所のマスターに殴りかかられてお返しに骨を折る。
魔術師ギルドのマスターに白目で土下座させる。
奴隷商の店から命からがら逃げ出す。
奴隷商が幼女を襲う。
俺が颯爽と助ける。←今ココ!
そして、今その幼女と一緒に過ごしているんだが………
「名前は?」
「…」
「家は?」
「…」
「……種族は?」
「…」
「…」
こんな感じだ。
幼女は警戒心丸出しで俺を絶賛睨んでいる。
そしてその手元にはーーー
『おい、マスター。助けてくれ。動けない。』
俺の相棒ことダーフがしっかりと抱き締められている。
いや、どちらかと言えば拘束されてる、の方が正しいかな?
「と、取り敢えずそのスライムは相棒だから離してもらえるかな?」
「いやです!」
即答かよ。
前の世界ではみんなから好かれていた俺が完全に拒否されている!?
ダーフがちょっとだけ羨ましい。
「分かった。じゃあこうしよう。
俺が新しいスライムを呼ぶ。
そのスライムを君にあげよう。
渡したスライムは煮るなり焼くなり抱き枕にするなり触手プレイに使うなり何なりすればいい。
その代わりダーフは返してくれるかな?
俺にとってもそいつは大事なんだ。」
「…」
「い、嫌かな?」
「…」
「お、おーい」
「…」
俺は気付いた。
こいつ、寝てやがるーーッッ!!
俺なんかあの後緊張して一睡も出来なかったと言うのに!!
「よし、逃げよう」
『良いのか?この子から離れるのには賛成だが、このままだと餓死とかしてしまうのではないか?』
「お金を置いていけばなんとかなるだろ。
どうせ今から稼ぐし有り金全部置いて行こう」
『いや、しかしーーー』
「お前に俺の気持ちが分かるか!?
異世界に来て、最初に見付けた獣人があんな象で!!
やっと見付けた理想の猫耳をも捨てないといけない俺の気持ちが!分かるってのか!?」
『お、おう。よく分からんがすまなかった。
マスターにもマスターの事情があるのだな』
「いや、分かってくれれば良いんだ」
こんな感じのやり取りの後、俺は宿から立ち去った。
代金は払っておいた。
ダーフが『ほ、本当に置いていくのか』とか言っていたが仕方が無い。
また何処かで会える事を楽しみにしておこう。
そして厄介事が無くなり、俺達が次に向かった場所はーーー
森へと続く門だった。
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「さて、ここらへんでいいかな?」
俺達は今、最初の森にいる。
理由は俺のレベル上げの為だ。
ダーフ曰く、魔法を覚える方法は三つある。
一つ目は、昨日やった様に魔法陣に魔力を流し込んで取得する方法。
これが一番メジャーだ。
ただ、かなり魔力を使うので、普通は見習い魔法使いとしてまずは雑用などをこなして経験値を少しずつ上げ、MPを上げてから使うらしい。
二つ目は、魔物からの伝授。
伝授と言っても教えて貰うわけではない。
魔物の中には【ユニークモンスター】というごく稀な種類があるらしく、そのモンスターを倒した際に手に入る可能性があるらしい。
そして三つ目がレベルアップによる取得だ。
とは言ってもこの方法は誰にでも適用されるわけではない。
人々の中には【固有魔法】なるものを秘めている人がいるらしく、【固有魔法】はレベルを上げることで解放されるそうだ。
この【固有魔法】、持っている人が少ないだけに、中々強いらしい。
しかも持つ人の特徴が反映されるから使い勝手も良い。
だからステータスアップも兼ねてレベル上げに来たというわけだ。
「【ウイッシュ】!」
これが俺が覚えた三つ目の回復魔法だ。
効果は植物の成長を少し早める程度の物。
しかし、魔攻の高い俺が使えば木を操作してちょっとした建物を作る事も可能だ。
例えばこんな風にーーー
『これはコロシアムか?』
「ああ。悪いけどゴブリンを一匹ずつここに連れて来てくれ。
あ、あと弱らせるのも忘れずに」
『マスター…。いくら人間でもその強さは情けないぞ?』
「いいんだよ!さあ、始めようぜ」
こうして剣をブンブン振り回しながら俺のレベル上げが始まった。
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名前:エイジス=エルロンド
レベル:0
称号:異世界の訪問者
所属:ドーラ魔術師ギルド
種族:人族
職業:テイマー
ジョブレベル:17
加護:ーー
能力:【スライムテイマー】
スキル:【好感】、【鑑定】、【言語理解】
ジョブスキル:【指揮LV1】
最大HP:52
最大MP:3000
攻撃力:31
防御力:19
魔法攻撃力:7500
魔法防御力:7500
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[魔法スキル]
火:
水:
風:
土:
雷:
回復:【プチヒール】、【ディスペル】、【ウイッシュ】
聖:
闇:
無:
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[今話新習得スキル・魔法]
【ウイッシュ】:植物の成長を少し早める。
決してアルファベット三文字で表したいわけではない。