第九話『意外な中ボス』
目の前で少女が襲われている。
こんな町中で?
なんのために?
考えていると、奥の道から一人の男が歩いてきた。
俺は慌てて身を隠す。
そして見たのはーーー
奴隷商人の顔だった。
俺とは趣味が合わないあの奴隷商だ。
何故ここに?たまたま?それともこいつらの一味なのか?
「おや?こんな所で幼気な少女が襲われているではありませんか」
どうやら前者の様だ。
良かった。この商人は趣味こそ悪いが常識人ではある。
俺の我儘に、嫌な顔はしつつも付き合ってくれた。
そんな彼に淡い期待を寄せた。
「あ!?てめえ誰だ!?死にたくなかったらさっさと帰れ!」
数人の男の内一人が叫ぶ。
やはり仲間ではないようだ。
しかし、奴隷商人が一人でこの男達に勝てるのか?
男達は些細な違いこそあれど、全員が同じような格好をしている。
皮で出来た鎧に鉄の剣。
鎧はともかく、剣は持ち主の汚い容姿とは裏腹に俺の持っている剣よりも恐らく上等だ。
それが複数人。
とてもじゃないが一人のひょろひょろした男が勝てるような相手ではない。
しかし、商人は思わぬ方向で静寂を破った。
「これで手打ちにしていただけないでしょうか?」
奴隷商が差し出したのは、金貨だった。
男達が目を見開いてる。
当然だ。日本円にして百万円。
通りすがりの人助けに出す額ではない。
「これで勘弁してやれませんか?」
「な、な、なに言ってんだ!
金じゃ女は攫えねぇ!
そうだな………一人に金貨3枚ずつなら…」
「分かりました」
奴隷商が何食わぬ顔で金貨を出す。
どんだけ良い人なんだよ。
「わ、分かった!今回はこれで無しにしてやる!
お前ら!行くぞ!」
そしてお前らも貰うのかよ。
リーダーらしき男が仲間を引き連れて走り出す。
しかし、その時の奴隷商の呟きを俺は聞き逃さなかった。
「次回は無いけどな。」
その瞬間、男達が爆発した。
比喩はしていない。突然、爆発した。
なんだ、あれは?
嫌な予感がして、奴隷商に【鑑定】をかける。
名前:ピエール
レベル:12
称号:ーー
所属:ーー
種族:人族
職業:奴隷商人
ジョブレベル:15
加護:ーー
能力:【爆発】
スキル:【爆弾精製】
ジョブスキル:【計算】
最大HP:60
最大MP:85
攻撃力:46
防御力:37
魔法攻撃力:24
魔法防御力:32
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【爆弾精製】;MPを消費し、爆弾を合計500g分まで作り出せる。
爆発の大きさと爆弾の操作可能範囲は爆弾の大きさに比例する。
予想以上の奴だった!
爆弾を作れるってまあまあチートだと思うんだが?
この世界の人ってみんなこんなのなんだろうか。
奴隷商ピエール、仲間にしておけば良かった。
「きゃっ!?」
少女の叫び声で我に返る。
見てみるとピエールが少女を押し倒した所だった。
少女は弱っているのか抵抗したくても力が入っていない様子だ。
ピエールさん?もしかしてその子を売り飛ばそうとか考えてます!?
「この模造品がっ!!殺してやる!!」
ピエールさんの口から物騒な言葉が飛び出してくる。
待て待て待て。
事情は知らんが殺すのは駄目だろ!
ダーフを起こしに行こう。
俺は息を潜めながら宿に戻ろうと歩を進める。
「ーーー誰だ?」
「ニャー」
「…」
沈黙の時間が過ぎる。
これは騙せたってことでいいのかな?
俺は再び進む。
すると、目の前に砂粒が飛んできて、小さな爆発を起こした。
どうやら隠密作戦は失敗のようだ。
仕方ない。ここはーーー
「俺の存在に気付くとはな!
中々やるじゃないか!
俺は正義の味方!その娘を今すぐこちらに渡せ!」
ピエールは眉を寄せてこちらを見ているが話を続ける。
「この指の光が見えるか!
これは聖魔法だ!死にたくなければ今すぐその子を解放するんだな!」
聖魔法じゃありません。回復魔法です。
これが俺の奥の手、【見栄っ張り】!!
「お前…昼の客か。」
「あ、え?な、何のことですかな!?」
こいつ客の顔いちいち覚えてるのか!
いや、いきなり叫んで逃げ出されたらそりゃ覚えるな!
かなりピンチかもしれない。
さっきからダーフを起こそうと大声を張り上げているのだが、起きてくる気配がない。
「いいだろう。お前を殺してからゆっくり此奴をいたぶる。」
なんか昼と雰囲気が違うんですけど!?
「【爆弾精製】」
ピエールが手から大量の砂をばら撒く。
しまった。爆弾の大きさや見た目も調整出来るのか。
先程の砂粒も自分で生み出した物だったのか。
これでは逃げ道がない。
俺はガードの為に剣を構えた。
そして、砂粒が俺の体に当たった途端、癇癪玉を強くしたような爆発が体を包む。
それは連鎖を続け、10秒ほどで収まった。
致命傷は食らっていないが体から煙が立ち込め、体の至る所に傷が出来ている。
「見た所、お前は経験が浅い。
この小さい爆弾でもいつか死ぬ。
その前に立ち去れ。」
相変わらず昼とはえらい態度の違いだ。
しかし、問題ない。
「緑の光よ、生を癒せ、【プチヒール】!」
俺の体を光が包み、傷が瞬時に回復して行く。
「これは…回復魔法か?
しかし、初級だな。【プチヒール】では俺の爆発で付いた傷は癒えない。」
「あー、回復魔法にも魔法攻撃力って適用されたんですね。
始めて知りましたよ。
ところでピエールさん。
俺の魔法攻撃力がどれくらいか知ってます?」
「な、馬鹿な!」
ピエールが驚く。当然だろう。
本来【プチヒール】は擦り傷程度しか癒せない。
あんな砂粒でも爆発は爆発だ。
火傷もするし肉は多少抉れている。
しかし、そんな負傷も俺の魔法攻撃力の前では【擦り傷】同然だ。
「くっ。分かった。お前は少し特殊なようだ。
本気を出そう。」
ピエールが両手で黒い物体を生み出す。
それはどんどん大きくなっていき、ピエールの頭くらいの大きさになった。
「死ねっ!!」
ピエールがそれをおもいきり投げてくる。
砂粒でもかなりの爆発だ。
あの大きさの爆弾なら建物一つ吹き飛ぶだろう。
結構やばい。ダーフも来てくれなさそうだ。
だから、俺は賭けた。
とても確率の低い賭けで、失敗すれば確実に死んでいた。
しかし、その賭けに成功した。
俺の幼女…紳士パワーをなめてはいけない。
「な、なにをしたっ!?」
ピエールが喚く。
その腹を突いた。
ここで袈裟掛けとかにすればかっこいいだろうけど、俺は剣術は使えない。
「………なぜ……?」
「簡単な事だ。
【ディスペル】を使ったんだよ。」
「ば…かな!【ディスペル】は………初級の……」
「ああ、そうだよ。【ディスペル】は元々は掛けられたデバフを少し和らげる程度の魔法だ。
それに、敵の魔法によるデバフにしか効果がない。
「普通の人間が使ったら」な。
生憎、俺には規格外の魔法攻撃力がある。
お前の【爆弾精製】ってMP使うだろ?」
「なぜ……それを………?」
「秘密。だから、もしかしたら「それ」に付与された「爆弾」っていうのも解除出来るかもって思ったんだよ。
まあ、俺の魔法攻撃力でも俺がいた側の面しか解除出来なくて残り半分が爆発しちゃったけどな。」
そう、俺は爆弾に【ディスペル】という魔法を掛けた。
ピエールが爆弾を投げた瞬間に、爆弾の右側に回り込み、【ディスペル】を掛けた。
結果、右半分だけが「爆弾」ではなくなり、俺は爆破を免れた。
「貴様………なぜそんな危険な……?」
「そんなの決まってんだろ?目の前に困ってる幼女がいるからだよ。」
真っ当な理由だ。
幼女を守れた事を誇りに思う。
「そうか……でも………守れなかったな…!!」
ピエールがニヤリと笑う。
そして懐から黒い塊を取り出し、上に放り投げた。
最初に戦う人間とは思えない強さだなおい!
さっき程の大きさは無いが爆破されたら充分死ねる。
自分ごと俺と幼女を爆破する寸法だ。
今から【ディスペル】を掛けて間に合うか?
「【虚無ノ暗黒】」
目の前に黒い歪が現れる。
最初は小さかった歪が広がっていき、爆弾を呑み込む。
ピエールが爆破しようとするが、何も起こらない。
そして、役目は果たしたとばかりに歪が小さくなっていき、消えた。
全員の視線が一つに向く。
その歪を作り出した一体のスライムに。
『マスター。ヘボ魔法でも役に立つ事はあるんだな。』
「良かった…って見てたのかよ!
助けろよ!」
『これは弱いマスターを鍛えるのに丁度良いと思ってな。』
口喧嘩を始める一人と一体。
その様子をピエールがあり得ないといった様子で見ていた。
「き、禁呪魔法………貴様…まさか!」
『それ以上は言うな。』
ダーフの殺気が増す。
そして、ピエールはダーフによって消し炭にされた。
もう怖いから人が死んだ事は必死でスルーしよう。
「危なかったー!
禁呪魔法って?
てかダーフって【無詠唱魔法】持ってなかったっけ?」
『禁呪魔法については知らない方がいい。
魔法名を唱えたのはその方が消費MPが少し減るからだ。』
「知らない方がいいって……めっちゃ気になる。
ダーフってそもそも何者なんだ?」
「あのー………」
「あ!幼女ちゃん!つい忘れてたよ!それで………ッ!?」
その時、俺は生まれて初めて運命というものを悟った。
何故ならーーー
「猫耳いいいいいいいい!?!?」
視線の先に、ちょこんと、可愛い猫耳があったから。
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名前:エイジス=エルロンド
レベル:0
称号:異世界の訪問者
所属:ドーラ魔術師ギルド
種族:人族
職業:テイマー
ジョブレベル:17
加護:ーー
能力:【スライムテイマー】
スキル:【好感】、【鑑定】、【言語理解】
ジョブスキル:【指揮LV1】
最大HP:52
最大MP:3000
攻撃力:31
防御力:19
魔法攻撃力:7500
魔法防御力:7500
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[魔法スキル]
火:
水:
風:
土:
雷:
回復:【プチヒール】、【ディスペル】、【???】
聖:
闇:
無:
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[今話新習得スキル・魔法]
【ディスペル】:相手の魔法によって掛けられた悪影響のある効果を少し和らげる。
あくまでも少し程度である。