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何も無いよ。  作者: 苔煉瓦
9/19

恋愛相談

クサイ話です。

 休日の後は勿論バイトである。

 「田浦先輩勘弁して下さいよ!」

 「聞こえんな」

 この店はシフトが無く、開店前に役割分担が店長とバイト君達の相談に因って決まるという皆様の善意を信じるしか無い方法で成り立っている。

 今日はある商品の陳列係を巡り争いが起こってじゃんけんで割り振られる事になったのだが、要次は田浦に負けてしまったのである。

 「ハイハイ仕事しろバイト共ー」

 「くそう」

 伊藤の後押しで渋々進むが、台車を進め売り場に近付くにつれ足がすくむ。

 「うわぁ・・・キッツ。」

 この売り物薄いのに値段は高いのだ。

 陳列する品物は同人誌だった。しかも十八禁の。

 「よいしょ」

 小慣れた動作で薄い本を棚に並べ始める。勿論丁寧さを保てており且つ迅速である。

 人気アニメやオリジナルのあんなものやこんなもの。腐ったCP本。

 危険物のオンパレードが続きウッと唸る。それでも手は休めない。今年は例年に比べ量が多いそうだ。

 「なんぼのもんじゃい!」

 何で未成年にやらせんだとか心の内で叫び速度を上げた。さっさと終わらせるのだ。

 最後の本を棚に押し込み燃え尽きる。

 「僕は勝ったのだ・・・」

 立つんだと叫ぶおやっさんは何処にも居なかった。

 「おい神崎君、ちょっとお話ししよう」

 バイトが終わり帰ろうとした要次に伊藤が吹かしていた煙管を口から抜いて声を掛けた。

 「何でしょうか?」

 怪訝な表情で振り向く。何か問題が有ったのだろうか。

 「お前、彼女とか居るか?」

 「はあ!?居ませんよ。どうしたんです?」

 生まれてこの方彼女など出来た事が無い。一体どうしちゃったんだろうか。

 「いやね、昨日辺りに店のペンキ塗ってたらよ、女の子が来た訳よ」

 「はあ・・・・?」

 「ソイツな、お前の勤務時間、顔出す日、聞こうとしてくるんだよな」

 「うん!?」

 驚く要次を他所に話を進める。

 「あ、名は名乗らんかったけどな。何か怪しい感じだったよ。根が暗そうな」

 伊藤煙草を吸って、大きく息を吐いた。

 「アレは良くない奴だ。」

 繭樹だな、と要次は溜め息を吐く。

 「どうにも胡散臭い雰囲気だったよ。アレは犯罪をやる奴だ。関わるな」

 「・・・はい。」

 其処で要次は伊藤に問う。

 「何でそう分かるんです?」

 「勘。何となくな。」

 それを聞いて複雑な表情になった要次はそれじゃあと言って店を出ていった。

 完全に見えなくなるまで見送った伊藤は含み笑いを浮かべて呟いた。

 「経験故に、って言ったら驚くよな」

 要次はそわそわ周囲を見渡しながら自宅へ歩いていた。もしかしたらまた繭樹が来るかもしれないと踏んだのだが、特に何も異常は無い。

 ・・・・・・が。

 電柱の陰から現れる背の高い影。

真っ黒いダッフルコートに身を包みガスマスクを付けた見覚えの有る男。

 長い腕を左右に広げる。

 呆れ顔でスタンガンを押し付ける。

 しかし男は一切反応を受けていない様に感じる。厚着で防御している。

 特にそれ以上アクションを起こさない相手の長い脚に今度は突き立てた。

 「うあああああっ!!」

 男はみっとも無く倒れ込む。要次は続けて二回、三回と電撃を叩き込む。

 男はガスマスクを引き剥がしてその整った顔を曝す。

 「痛いんだよオオオオオオオ!!」

 「痛いのは分かってんだよオイ!オラアアアアアアア!!YO!!」

 クッソ汚い掛け合いをしながら逆茂木正博は立ち上がった。

 「やあ神崎君」

 「何の御用で」

 彼とは街中でちょくちょく顔を合わせていたが、一々此方を驚かす様なやり方で登場するので正直うざいのだ。

 「いやね、ちょっと相談ある。廉太郎の事で。」

 「聞きましょう」

 何だろうと思いつつ要次は正博の背中を追い掛けて行った。

 「腰掛けて、どうぞ。」

 「あ、ハイ。」

 彼の家に上げてもらった。要次を座らせて自身は冷蔵庫から飲み物を取って戻ってくる。

 「アイスティーしか無かったよ。御免」

 「いえいえ」

 飲一口飲んでから表情を変え、正博は切り出した。

 「廉太郎ともっと距離を縮めたくてね。」

 恋愛相談か。

 「色々教えて欲しいんだ。好きな物とか、趣味とか」

 「良いですよ。教えます。」

 要次は少し嬉しかった。廉太郎とは長い付き合いで、彼女の個性故に負った苦労に苦悩を知っているからだ。だから、友達としては協力したかった。

 「好きな本は何だろう。」

 「あの子は伝奇とかよく読んでますよ。あと漫画は何でも読むな。」

 「音楽は聴くかな。」

 「聴きますよ。○○とか。」

 「知らないなぁ」

 正博がそう言うと、要次はヘッドホンと携帯音楽プレーヤを取り出した。

 「聴いてみますか?」

 正博はヘッドホンを頭に被せて音楽を試聴する。

 「悪く無いな。」

 その後も色々と聞かれたが、段々と質問の内容が濃くなっていくことに不安を覚えた。

 「廉太郎は俺の事嫌いかなぁ。」

 「何で?」

 「最近あんまり一緒に居ないし、彼奴も中学の頃の友達とばっかり話すし。だからもっと知らないと駄目だよな。」

 ネガティブな方向に行き始めた。ココは歯止めを掛ける必要が有る。

 「俺は彼女が大好きなんだ。心配なんだよ、彼女が。クラス違うから何時も一緒に居られる訳じゃない。だって廉太郎はあの風体だ、絶対辛い事が有るんだ。だから知らないと、理解してやらないと」

 「逆茂木君。大丈夫だよ。」

 「え?」

 敬語を使わず、タメ口で言葉を掛ける。

 「廉太郎は照れ屋だ。始めて恋人が出来たのが照れ臭いんだ。」

 「・・・・・。」

 「確かに逆茂木君の気持ちは重くて、激しいよ。でもそれが嫌なんじゃあ無い。」

 「ただ嬉しいんだ。」

 正博は話を聞いている。

 「・・・・はっきりわかんの?」

 「はっきりわかんだよ。本人が言ってんだから。」

 「凄く嬉しそうだったから。信じてやんな。」

 話はそれで終わった。

 「オイ廉太郎。お前彼氏に会いに行ってやれよ。」

 「だって恥ずかしいし」

 雅美は声を大きくする。

 「お前そんなビクついてたらくっついたモンも離れちまうぞ」

 「うぅう・・・・マジで照れんだって」

 「だからって要次に(こと)()て頼むかよ?」

 「頼りになんのは友達なんだよ。」

 「・・・まーな。」

 同時刻、帰路に付いた要次は不器用でも一生懸命で、何とか現状を変えようとする二人の事を考えた。

 ・・・・・それに比べて自分は

 「冴えないなあ」

 先が見えない、変わらない現状。

 でもどうしようも無い。

 不安で少し泣きそうになった。

分かる人は分かるでしょうね。

要次と正博の掛け合い。

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