ファイナルディザスタァ。
クライマァァァックス
「髪染めんの?」
「いや、そこまでに見えるかわたし」
「イエイエ、冗談」
未だ中坊の頃だった。彼奴と一緒に帰る道。
「もう直ぐ受験ってのにねー、皆どんどん恋人作ってんだよ」
「どうせ短いじゃん。一、二週間て所だろ」
「パッと見で付き合うのも考えモンだよね。ちゃんとした人が良いし」
「......わたしは?」
今思えば爆弾を落としたなァ。彼奴顔赤くして。黙りこくって。結局あの時の返事も聞いて無いんだ。
*
夕陽が映える。古臭い映画の終わりみたいだ。
ぼんやりした顔で突っ立ってる要次に『椅子』の隣を勧めた。座る所ガンガン叩いて。
少し戸惑っていたけど、そっと腰を下ろした。椅子(繭樹)が呻いた。
「東口サン、何かその、有難う。」
「本当に有難う、御座いました。」
「コレで一つ決着付いたかね」
「ああ。でも、正直変わった事は余り無いよね......」
「.......。」
散々ボコられた繭樹がゲロったのは目を背けたい事実だった。例の写真とやらは最初からばら蒔かれていた。奴と同系列のカス共の手でどうにもならない程に広まった様だ。経由はディープWebらしい。
「僕はこれからどうすりゃ良いんだろう」
「今は考えるなよ。」
肩に手を掛けて寄せる。向こうも寄り掛かる。
「携帯鳴ってる。」
「あ....」
掛けて来たのが母だと知った要次は厭そうな顔をして通話ボタンを押した。
「もしもし?」
「あんた、唯そっち行ってない?帰って来てないのよ、昨日から」
「は?警察には」
「言ったわよ。見かけたら連絡頂戴!!」
分かった、と言う暇も無く電話が切れた。
「姉さん....?まさか」
自殺の線は無いよ要次。そろそろもう一件来る。
また携帯が鳴った。要次は非通知の電話に無防備にも応答した。
「もしもし?」
「ふふ、ふひひ。親御さんの声の震え様たら無かったですねー。せんぱい♡」
モータの様にガタガタッと震える彼。ウン、そうだよ。君も分かるだろう?
「お前!!」
「繭樹さんから連絡来ないんでぇ、そっちでやられたんでしょ?なので急遽、プランBに移行させて頂きました」
「東口も居るんでしょう?良く聞いといて下さーい」
「先ず此方には、ホステージが二人居ます。」
「お姉さんと、気持ち悪いホモの二人。」
要次は驚きに目を見開いた。
「どうすれば?」
「独りで此処に来てください。お話はそれから。東口を連れて来たら、言うまでもありませんか。」
場所を指定した後電話は切れた。死にそうって感じの顔で此方を見る。安心させてやろう。
「行って来ます」
「心配無用。別の奴が行ってる。」
「?」
再び電話が鳴る。
*
空き家の中。適当に包丁やらバットやらを持った高校生が二人の人間を中心に見回っていた。広さ的に居間らしい。
「もう少しで弟さん来ますよー。心配しないで下さい♪」
眼帯を付けた少女が唯に言いながら携帯をポケットに仕舞う。
「どうせ私は殺されるんでしょう?証言者になる事位分かって無くて?」
「死ぬのは私だけで良いってか!やっぱり風季を巻き込んで良かったなーおい!下手に死ねねえぞお前」
笑い声。何でも面白いんだろう。
「もう電話掛けたんで、駆け引きとか今更感ありません?貴女の負けです。要次君は闇堕ちして、貴女は良くてマグロ漁船ですよ。風季は.....チ〇コ切っとく」
廉太郎は何も言わない。急すぎて思考停止しているかもしれない。ソレは嫌だ、と呟く。うんうん
「ちゃんと病院で....」
.....もう一周まわって、絶望感しか無い。いきなり窓が割れた。石が飛び込んで来た。何だろう。
「あ、て誰も居ねえぞ」
トレッキングポール武装した少年が窓へ向かうと二、三人付いていく。台所の裏口の窓も割れる。素早く手袋をはめた腕が突っ込まれ素早く鍵を開けて、背の高いガスマスクの男が入って来た。
「あぁん!?何だオメー」
少年がポールを突き出す前に有刺鉄線が偏執狂如くグルグル巻かれたバットが脇腹を打った。
泣き叫ぶ少年を踏みつけて進んでく男目掛けて他の奴が包丁を突き出した。手袋は防刃繊維らしく苦もなく手で受け止めまたスイング。
それを見た残りの奴等はさっさと逃げ出したが、遅れた者からバットの餌食になった。目を背ける程に悲惨だ。男はガスマスクを外した。顔が良い。
廉太郎が彼の名前を呼んだ。知り合いなのか。抱擁し始める。事態は最早唯を置いてけぼりに進行していた。
*
「廉太郎無事で良かったァ゛ァ゛ァ゛ァ。ウアアアアア」
電話から叫び声が聞こえる。
「廉、廉ンンンンンンン」
「ちょ、正博、やめ、\アッー/」
「僕等も行こうよ」
僕は急ぎ足で走って行った。
「要次!未だ危ない」
静止の声が掛かるけど気にしなかった。
......結構走った。暑い。上着何か着てるんじゃなかった。腕を掴まれた。振り向くと眼帯を付けた少女が切羽詰まった表情で僕を睨んでいた。
「放せ」
「うるっさい、こっちに、来い」
向こうも何処かから必死で逃げて来たみたいに服が乱れて息を荒げていた。双方疲労してナメクジ同士の引っ張り合いみたいになった。何人か遅れてやってきて僕の袖や腕に足を掴んで路地裏へ引っ張った。
口を塞がれて担がれる。僕は馬鹿か。余りにも馬鹿だ。建物から逃げたなら、未だ近くに居るに決まっている。涙がチョチョ切れらあ。
「もう、終わりです、何もかも。失敗ばかりです。不器用で卑怯な私達を赦して下さい。」
「タダで終わらせる事は出来ないんです」
進む先には灰色のワゴン車が停まっている。抵抗しようにも動きを封じられていては。
「御免なさい」
「そうだよな」
低めの女声。一人先行していた奴が突然転んだ。
「お前等が血を流さずに終わるなんて事ぁ無い決まってるよな?」
暗闇で目が光った。
「東口!?」
その長身から想像出来ない速度で群衆に潜り込んだ彼女は、めちゃくちゃに拳を振り回して全員を転倒させた。
地を這う人間。背中からローファーで踏まれる。聴きたくない音。鈍い音、音、音、音、音、音。
「....ヒュッ」
恐怖に思わず歯が浮き息が漏れる。腕や足が潰された人がのたうち回り、その中心に長い長い髪を垂らした東口サンが立っていた。
少しの間皆をギョロギョロと見渡していた。今度は此方に強い粘性の重い視線を向けた。
「ふ、は、は」
「終わったよ。全部。」
後退りすると、早足でこっちに来た。
「要次、空き家、行こうか?」
差し出された右手を取らない筈が無かった。




