劣情、愛情、独占欲、嗜逆心。二つの目じゃあスペース不足だね
…首を捻るとバキボキと音がする。一日休んだだけでコレだけ疲れるのは異様だ。
店の入り口付近に置かれた赤い自販機でペプシンの入ったコーラを買う。プルタブを開けて缶の中身をぐいと飲んでから帰路に付いた。後ろから若干視線を感じる。
「どなた?」
わざわざ聞かねばならない。知り合いにコソコソついてくる奴が二人程居るから仕方無い。
返事代わりに飛んで来たのは荒い息。ぎらりと光る眼光。
「神崎くん」
繭樹は近くにある高校のジャージを着て、肩から鞄をぶら下げていた。鞄のファスナーは少し開いていて、黒くグリップテープが光っている。眼はぱっちり開いて真っ直ぐ、逃げた犬を逃がさんとする飼い主の様に要次を見た。
「酷いじゃん。他の女と一緒するなんて。」
「あんたには関係、無い。」
急に乾いてカチカチになった口を動かした。
「あっ、そう。じゃあ」
彼女は携帯電話を掲げる。意味を察しながらも要次は動じない。
「ばらまきゃ良いさ。」
ソレを聞いて彼を睨み付ける。焦っているんだろうか。
「自分の立場も理解出来ないのか、破滅願望でも持ってるのか」
「東口さんもいけないよね、人の物取ろうとするなんて。あの子に知恵でも入れられたの?」
何時もと違って笑わない。時折歯を擦り合わせてギリリと音を立てている。
「違う、昔通りの僕です」
繭樹が要次の視界から居なくなる。そして左肩に衝撃、痛み。
「お"ん"っ!?」
「た、足りないよね?私に殴られて嬉しいよね、気持ち良いよね?」
重なる質問に答えず無言で息を荒げながら警棒を持つ彼女の顔を見据える。
「痛いし苦しい。ぶっちゃけ、痛みで泣きそう。」
「嘘を吐けぇっ!!」
今度は背中。若干吐き気がする。情けなく涙が出た。
「口答えなんかしやがって…玩具の立場っての解らせてやる…」
喚き散らしうーうーと唸り頭を抱える。
要次はさっさと逃げる事にした。




