例えば、死ねとか
更 新 し た ぜ
「死ぬとか、簡単かしら」
どっかり階段に座り込む長身の少女の隣に腰掛けた彼女は、両手の平の上で薬の瓶を転がした。
瓶を置いてうっすら笑って手首を捲り、『バーコード』をなぞる。
唯。神崎要次の姉。
「此方は無理だったわよ。痛かったから」
「そりゃあ、相当深く彫らにゃあ駄目だわな。神経だけ切っても辛いいだけだろう?」
「そうね。痛み程度で諦めるんだから、私は何時になったら死ねるかしらね」
「やめときな。死なないといけない様な奴はもっと違う。」
「臆病で、助けられなかった。」
「わたしだって助けられなかった。」
「雅美ちゃんはやろうとして、私はやる勇気すら」
「恩も返せて無い!」
雅美の握る携帯からミシリと音がする。
「何時までそうやって引き摺ってんだあんたは!後悔してんのなら今からでもちったあ動いて見せろ!」
チッと舌打ち。携帯を覗くと、メールBOX。要次が返信しない様だ。
「死ぬなとか言わないのね。」
「言うまでも無くあんたは死なない。死ねない。少なくとも手の上で睡眠薬を転がしてる間は。て言うか同義の事は言ってんだろが」
「でも死ぬかも」
「絶対に死なないね。賭ける?」
※
「何唯さんと話してたの?」
隣の席の風季廉太郎が尋ねてきた。
「色々」
「いっつもそう言うね。あ、クソこらテメェ」
ゆっくりした口調で汚い言葉を吐き、廉太郎が後ろから抱き付く正博の顔を拳でグイイと押す。
「唯さんの相手は本当疲れるぜ。」
聞いてるのか聞いていないのか、廉太郎は正博を退かしながら「コイツすっげえスケベだぜ」と言っている。
「唯さん本人なりに気にしてるからねー。ぼく等当事者の内としては、死にたいとか思ってる内ナンバーワンじゃない?」
「ヨツンヴァインになんだよっ!オラあくしろよォ!」
濁った目で怒鳴る正博に対し雅美が血走った眼で携帯を弄りつつ蹴りを入れる。
おぉんと転がる正博の背中を廉太郎が作業的に擦る。
カップル共のせいでまともに思考も出来ない。雅美は鞄に荷物を入れて教室を出た。




