三
テストの暗記項目を知らないうちに忘れるように、この二つの夢のこともまた、僕は忘れていった。
僕は大人になった。中学から工業高校に進学し、自動車関係の会社に就職して生活している。
そんな日々の中、僕は日常にあった動物の残骸を、ついに自分の手で生み出すことになる。これは車で帰宅しているときの話だ。
黒い影は、唐突に飛び出してきた。丸々ととしていたから、おそらくは狸だろう。
もちろん僕はブレーキを踏んだ。でも、止まったのは轢いた後だった。
タイヤから伝わった肉を踏み潰した感覚は、嫌に体に残った。
後ろを振り返ることなんて、できなかった。
僕は自分を慰めた。
仕方がない。そうさ、仕方がなかったんだ。狸が出てきたのが悪いんだ。僕は悪くない。悪くない……!
何度も何度も自分に言い聞かせたけど……。
夢はよみがえった。
要するに、僕は気づいてしまったのだ。
急に今まで感じていた恐ろしさとは違う、別の恐ろしさが僕を襲い始めた。それを思えば思うほど、体は小刻みに震えだす。
どうしようどうしよう―――そんな思いが駆けずり回った。
そんな時、僕の頭にはある一つの考えが過った。
そうか――――
僕は一気にアクセルを踏み込んだ。
車はとても従順にぐんぐんぐんぐん加速した。
すぐそこに、崖がある。
「うあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
震える手でハンドルを握りしめ、叫んだ。
車は飛んだ。落ちるまでの、なんと長かったことだろう……。落ちた後はあっという間だった。
体のあちこちを殴打し、ガラスが体を切り刻む。
やがて、何事もなかったようにしんとする。
足から、腕から、頭から血を流した僕は、微かに笑った。これでいいのだと……。