二
こんな夢を見た。
車の後部座席から、タヌキの残骸を見る夢だ。
用水路の上を通るという時、僕は目の端に映った死骸にくぎ付けにされた。
別に驚くようなものじゃなかったはずだった。自動車のはびこる現代においては普通のことで、ましてや田舎住まいの僕は何度も動物のそれを見てきた。車に轢かれてぐちゃぐちゃになっているなんてことざらにある。いつもなら、また死んでるな、その程度の出来事のはずだった。
それなのに僕の視界は奪われた。まだそれは生きていたのだ。
肉の塊は自分の命を繋ぎとめようとするかのように、手を空にさまよわせていた。
僕は、遠ざかっていく道の端に転がったそれの方向を向いたまま、運転席の母にこう言った。
「……狸、死んでたね……」
母はため息をつき、かわいそうよね、と返した。
腹が立った。
それが普通の感想だということはわかっていた。でも僕の強い正義感はそれをよしとはしなかった。
「狸は、狸は悪くないじゃないか!」
気が付いたら怒鳴っていた。
母はいぶかしげに僕を見つめた。どうして怒鳴ったのか、要領を得ないようだった。加えて……僕の目には、母は悲しみを訴えているようにも映った。
母は、僕の言葉に同調を示した。が、その後にでも、と付け加え、
「仕方がないじゃない」
と、こういったのだ。
その言葉を聞いた僕は―――この人の人間性を疑った。