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はじまり

転生っていいですよね。


今の世界なんて不満ばっかりで、面倒で鬱屈した周囲から旅だって新たな世界で第一歩を踏み出す。

でも、ここまで乱立するのはどうよ・・・


少し前まで高級食材だったものが、今やジャンクフードになってしまったような。


なんてことを思いつつ転生ものにハマりまくっている今日この頃。

真新しいかどうかは知りませんが、一週間程度で構築して、ひと月で書き上げました。

修正しつつ順次あげていきます。


 それは最初の人生。

 きっと裕福な生き方だった。

 平々凡々な中流の暮らし。小学校は当たり前に卒業した。中学校ではサッカーをやっていた。高校には受験で普通に通った。結構勉強ができたおかげでそれなりに名の知れた大学に入ることもできた。

 友人はそれなりにいたが親友と呼べる人はいない。恋人がいたこともあったが高校卒業と共に疎遠になっていった。今の大学での人間関係は良好。将来役に立つ人脈にはならないような奴らばっかりだけど、話の合う仲間達だった。

 一人暮らしも気楽でいいが、そろそろホームシックにかかってきていた。家に帰った時に朝のまま脱ぎ散らかされ、散らかされた部屋を片付けていると切なくなってくる。

 この大学に入っているだけでは就職難に陥る昨今の経済状態とはいえ、まだまだ焦るには程遠い。というより、勉強漬けの一年から解放された心がそういった心配事を頭の中から排除していしまっていた。

 結局、人生の夏休みと呼ばれる大学を適当にぶらぶらして過ごす一年目。

 今日もまた先輩の車で海鮮丼を食べに行った帰り道だった。

「いやーやっぱ当たりだったな。ちょっと遠出してでも食いにきてよかったよな」

「あの値段であの味は港の傍だからこそですね」

 休日の昼日中。運転席の後ろに座って俺はうとうとと居眠りをしかけていた。先輩に車を出してもらっている手前、勝手に寝るのは気が引ける。だが、満腹と午後の日よりには勝てないのだ。

 こくり、こくりと意識が断続的に飛びかける。

 周囲の会話がただのノイズに変わり、瞼を開けているのがかなりきつい。そのうち、耐えることすらできなくなってきた。

 諦めて寝るか。俺は目を瞑ってドアの方に頭を付けた。

 眠い。

 昼寝に陥る時の心地よい感覚を味わう間もなく、俺は意識を手放した。

「あぶねぇえ!」

 突然、急激なGが体にかかった。それと同時に鳴り響くブレーキ音。

 眠気も気怠さも全てが吹き飛んだ。

 瞬時に目を開ける。飛び込んできたのは景色が急激に変化していくフロントガラス。車体が斜めを向いていた。

そして、目の端が異変を捉えた。隣の窓の向こう側。ゆっくりと自分の首がそちらを向く。世界が引き伸ばされた感覚。時間が止まったような錯覚。

走馬灯と言われるそれを味わいながら、俺は目の前のそれをはっきりと視認した。

迫る車のバンパー。運転席で居眠りをしているおっさん。目先に迫った銀色の車体。

自動車のエンジン部分が体重を預けていたドアに突き刺さる。ひしゃげていく車体。砕け散ったサイドガラス。そして、痛みを感じる暇もなく、俺の意識はこと切れた。

 享年 19歳



 転生。

 その言葉にロマンを刺激されていたのは鬱屈していた中学の頃だっただろうか。先輩は偉そうで、後輩は生意気で、周囲でカップルが次々と誕生していく。そんな時に異世界で猛威を振るう元底辺現頂点の主人公には憧れがあった。

 だが、それはおとぎ話の中だけのことだった。

 転生してチート能力を手に入れたわけでも、可愛い幼馴染も、裕福な家庭も、女の子に出会うフラグも、『魔王を倒せ』というはた迷惑な予言すらついてこなかった。

 前世の記憶がだんだん揃ってきて、自我を確認した時には自分は旅のキャラバンにいた。あれは5歳か6歳ぐらいの時だ。

 自分は周囲から耳に入ってくる言語を口にできていた。

 自分がいたのは困窮している行商集団。平原の中をただひたすら進み続ける旅路。大きな町で銀貨何枚という稼ぎを重ねて、まずい飯を食う。子供であっても立派な労働力。世が世なら虐待とされる行いも、魔物が跋扈し、国境すら曖昧な時代にあっては声高に叫ぶこともできない。

 ただ、それでも10の時までは良かったのだろう。

 キャラバンの夜。生憎の曇り空で真っ暗な夜だった。

 ふと、耳に入ってきたのは悲鳴と獣とは違う吠え声。そして巨大な熱量に意識が覚醒した。

 飛び起きた時にはもう周囲は火の海だった。

 寝泊まりしていたテントにも火がついていた。父も母もいない。ただ、悲鳴だけが周囲に満ちていた。

 慌てて飛び出した時にはキャラバンは魔物に蹂躙されていた。

 周囲は火の海。そこかしこで人が焼け死に、剣で切り捨てられていた。非力な10歳の身体では何もできなかった。

 俺はそこで魔物に捕らえられた。子供は体重が軽く、暴れても簡単に制御できる。運ぶのに苦労はない。

 行き先は魔王城。待っていた仕事は奴隷だった。

 毎日、鉱山で岩を運んだ。パンと水とわずかな塩だけの日々を耐えるしかなかった。

 一年、二年.

 仲良くなった少年が鞭で打たれて死んだ。優しくしてくれた男の人が落盤で潰れた。おじいさんはある夜に動かなくなった。

空腹だった。喉が渇いていた。重労働で身体はやせ細っていった。砂埃が舞う鉱山で次第に咳が出るようになった。空腹と咳で眠れない日々が続く。

身体が動かない。そのせいで鞭が飛ぶ。背中から血が噴き出た。鉄の臭いがおいしそうで、俺は地面に飛び散った血を舐めていた。

そして、その日がきた。

自分の番だった。

「あぶなぁい!!」

 使用道のない粘土や小石など積み上げたボタ山。それが自分の方に崩れてきた。

 サッカー部で鍛えていた足はこの世界に無い。カップラーメンとコンビニ飯で満足できていた体はここにない。

 避けることも、逃げることもできはしなかった。

 ただ、冷たい土の中に埋もれながら保っていた数秒の意識が心の中で呟いた。

「くるしい・・・」

 享年 14歳




 生きるとはどういうことか。

 思春期に頭を悩ませる命題の一つだろうか。

 自分は物語の主人公にはなれないと自覚し、少年が大人なる時。なんとなく夢想するのだ。自分はどういう大人になって、どういう死に方をするのか。

 だから、生きるという意味を考える。

 でも、この世界ではそんなことはどうでもよかった。

 ただその日に食べる物が欲しかった。

 空には線路を必要としない電車が飛んでいた。天高くそびえる高層ビルの隙間から宇宙まで続くエレベーターが伸びていた。

 俺はそれを見上げた。薄暗い裏路地で空を最後に見た時の景色がそんな感じだった。

家はない。金も無い。親はいない。身にまとっているのはボロ一枚。持ち物はお金を入れてもらう空き缶だけ。ゴミの中から食べるものを漁って食いつなぎ、時折放り投げられるお金で一切れのパンを買った。

 弱者を救済してくれる法はない。乞食にパンを分けてくれる教会もない。

4歳かそこらで自分という存在を認識した時にはもう物乞いをするしか生きる道は無かった。

ひもじいという思いは既に擦り切れた。昔を思い出すことはしなくなった。そのうち空を見上げることもしなくなった。ここがどんな世界なのかを知ろうとも思わなかった。

何かに悩んで、何かを感じる暇はなかった。

食べ物が欲しかった。

なんでもいい。お腹に入れることができるものならなんでもいい。木の根も噛んだ。ドブに生えたキノコも食べた。金が無ければトイレに立ち寄ることもできない世の中では水すらも貴重品だった。

身体は動かない。動けなくなってどれくらい経っただろう。時間の間隔も無くなってきていた。膝を丸めて壁に寄り掛かる。身体を動かすのも頭を使うのも無理だった。

空腹だった。ただただ、空腹だった。

辛いとか、苦しいとか、そんなことを思うこともしない。涙なんかを流す力もない。

ゆっくりと、ゆっくりと時間が過ぎていく。

いつ眠ったのかわからないように眠り、起きていても意識は薄らと霞がかかったような程にしか覚醒しない。意識がある時とない時の境が徐々に曖昧になってきていた。

水はいつから飲んでなかっただろうか。

最後に飲んだ時にお尻から血が出て、それから飲んでなかった気がする。

いつから食べてないんだろう。

もうわからなかった。

金属が落ちる音がした。空き缶の中に何かが入ったのだろうか。

確かめることもできない。首が動かない。身体が動かない。力が抜けていく。

彼の身体は眠るように地面に横たわった。

空き缶の中には銀色の雨粒が一つ落ちていた。

享年6歳






 暗殺者。

 誰もが一度は憧れる職業だろう。人知れず悪を斬るダークヒーロー。

 だが、現実はそんなもんじゃない。殺す相手は善人の方が多く、生と死のモラルもいつのまにか消えていく。地道に下調べをして計画を立て、擦り切れるような緊張感で精神をすり減らしながらただ死体の山を積み上げる。

 それが暗殺者として育てられた俺の経験則だ。

 時代は江戸だろうか。中華な雰囲気もどことなく見られる世界。気づいた時には人を殺していた。

 ただ、飯が食えて水が飲めるという幸福だけで俺は生きていけた。

 洗脳のような教育を受けた。生き地獄のような特訓の日々だった。

 笑った記憶は無い。泣いた記憶も無い。黙々と人を殺す訓練をして、知識を叩き込まれて、殺し続けた。

 でも、飯が食えた。

 それだけで良かった。それだけが生きている実感だった。

 戦いを求める戦闘狂ではない。血を見なきゃ気が済まないサイコな人でもない。至って普通の理由で俺は善人も悪人も殺した。

 ご飯を食べる。

 それだけの為だけだった。

 だが、俺は殺しの経験は浅かった。未熟だった。

 ミスをして、捕まった。俺を育ててくれた組織は俺をすぐに切り捨てた。

エージェントを送ってくることもなく、女兵士とのラブロマンスもなく、過去に助けた子供の救出劇もなく、あっと驚く脱出方法も、愚直に穴を掘る方法も、懐柔も、言葉遊びもできず、俺は冷たい牢屋にいるしかなかった。

パンと水があった。

それだけで一つ前の前世の記憶がある俺は幸せを感じることができた。

だけど、俺は『痛み』を忘れていた。

待っていたのは拷問の日々。

 俺を育てた組織とはなんだ?どこに本拠地がある?戦力は?規模は?

 それを奴らは知りたがった。俺はそのどれも知らなかった。

 拷問は多岐に渡った。殺さないように痛めつけ、苦しませるように虐めぬく。

 指を切られ、歯を抜かれ、目を潰され、適当な事を言って言い逃れをしてみても彼等は聞いてはくれなかった。

 それもそのはずだ。俺は善人を殺し過ぎた。恨まれ過ぎた。

 煮え湯で喉が焼け、氷室で足が腐り、殴られ続けて背中の皮は全てはがれた。喋れなくなった時点で拷問の意味はないはずなのに、俺への責めは続いた。

 拷問とは関係なしにリンチされてから腹の青あざが三日も広がり続けていた。そのうち、飯が届けられなくなった。腹痛で動けなくなった、熱も出てきたらしく顔が熱っぽい。

死ぬかもしれない。

「出ろ!」

 そんな時、俺は衛兵に手錠と足枷を嵌められて外に連れ出された。

 久しぶりにみる外の世界。だが、腹痛は激痛に変わっていたし、気怠さが頂点に達していた。俺は馬に乗せられてどこかへと連れ出された。その間も視界は既にぼやけ、意識もどこかあやふやだった。

 俺の意識がわずかに回復したのは、首が何かに固定された時だった。

「このものは!過去に以下の人物を暗殺したもの・・・」

 耳鳴りの奥で誰かが声を張っていた。身体はうつ伏せで固定されていた。手足につけられた枷はびくともしない。

 そして、俺の目の前には大勢の人がいた。誰しもが怒り狂った表情で俺に罵声を浴びせていた。

「よって、ここに処刑を執行する!」

「殺せ!殺せ!殺せ!」

「殺せ!殺せ!殺せ!」

「殺せ!殺せ!殺せ!」

 斧が振られる音がした。痛みはほとんど無かった。

ただ、意識が途切れる直前に、俺は回転する視界の中で確かに見た。

それはギロチン台のようなものに取り残された自分の身体の断面だった。

享年 16歳





 ようやく帰ってきた。

 それが俺の感想だった。

 見慣れた日本の街並みが記憶を呼び起こした。治安の良い国で生まれ、平和な青春を過ごし、そして事故で死んだ自分を思い出すことができた。

度重なる転生を経て自分という存在が希薄になっていた俺にとってこの世界は存在そのものが胸に染みたのだった。

俺のことを母は不思議に思っただろう。ことあるごとに泣く俺のことを嫌いになったかもしれない。

しょっちゅう泣く赤ん坊など面倒くさくて仕方ない。愛が無ければやっていけなかったはずだ。

そうに違いない。そのはずだ。そうでなきゃおかしい。

その頃に俺の母親は愛情を注ぎきってしまったのだ。

「この野郎!てめぇは目が気にくわねぇんだよ!なんだよてめぇは!俺の何が気にいれねぇんだ!」

「ごめんなさい、ごめんなさいお父さん!」

「気持ちわりぃんだよ!」

 またパチンコに負けたのだろうか。血の繋がっていない父に殴られる。

 実の母は止めてくれない。彼女は面白そうにそれを見ていた。

痛みは拷問程ではなかった。空腹も餓死する程ではなかった。水道をひねれば綺麗な水が飲めた。魔物だっていない。

でも、もうボロボロだった。

身体じゃない。心がだ。

やっと戻ってきた。この平和な世界に。なのに・・・なのに・・・どうして・・・俺は・・・

「おい、なんとか言ったらどうだ!」

「ははっ、うけるんだけど。もう気絶してるよ」

「あん?ホントだ。鼻血出して死んでやがる」

 口からはヒューヒューという呼吸音が漏れている。まだ俺は生きていた。

「ったく、メンドクセッ!」

「あーあ、こんなの産むんじゃなかったよ」

「死んでろよ!クソが!」

 鼻の奥から頭にかけて痛む。血が溢れて口にまで逆流していた。横になった体の奥にまで血が流れ込んでいく。

 ヒューヒューというか細い呼吸が止まった。

 咳き込む。

 身体が震える。

 だけど、気道に入ったはずの血が出てこなかった。

 呼吸ができない。咳をするだけの体力がもう残っていなかった。

一瞬で頭痛が加速する。酸欠で意識が急激に薄れていく。それでもまだ意識がある。死へのカウントダウンが始まっている。なのに何もできない。

窒息の息苦しさは今まで味わったこのない死の恐怖だった。

痙攣を起こした身体で俺は必死に小さな体を動かした。

目の前にいるのは父と母だ。母は血が繋がっている実の親だ。ここには俺と彼等しかいない。

 助けて。

 その言葉はもう出ない。

 助けて。

 伸ばした腕は届かない。

 助けて。

 俺には誰も眼を向けない。

 助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。

 助けてくれないのなら。

 もう・・・いっそ・・・殺してくれ・・・

 享年10歳






 そして、物語が始まる。終わらない物語が始まる。


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