プロローグ
伊佐々部奏汰、享年26歳。只今、閻魔様とご対面中。
「ほうほう、歩道を渡っていた子供を脇見運転していた車から救って死亡、とな」
何故、この人が閻魔様と分かるか、って? そりゃあ、この人、顔に布巻いて、その布に【閻魔】と達筆な字で書いてあるからだ。
アニメや漫画で見るような羽織物ではなく、ただの浴衣のような服を着ている。帽子等は被っておらず、横に寝癖なのか、ぴょこんと髪が跳ねていた。
「伊佐々部少年」
「……はい!」
——26歳の俺を少年と呼ぶのには少し無理があるのではないか?
「私からすれば60までは少年だよ。80くらいから青年だな」
俺の心を読んだのか、それとも俺が表情に出し過ぎていたのか、閻魔様は疑問に答えてくれた。
「まぁ、雑談はここまで。少年の親が生きているならば、少年は地獄行きだったんだけど、両親は死んでるみたいだね」
閻魔様の手にある書類には俺の生い立ちやら何やら個人情報全てが書かれているらしい。流石、死後の世界である。何でもお見通しのようだ。
困ったように頭を掻きながら閻魔様は俺を見る。
「んー、少年は生まれ変わりに充分なれる存在なんだけど……」
「はぁ……」
「あ、知ってる? 生まれ変わりって本当にあるんだよ。今、生きている人達は殆ど昔生きて死んだ人達なんだ。所謂、魂のリサイクルだね」
ふむふむ、エコですな。
「でも、ほら、今って少子化じゃん?」
少子化は日本の問題だけではなかったのか。初めて知る事実に驚きつつも、閻魔様の言葉を待つ。
広い書斎のような所でかれこれ2時間は経ったのではないだろうか。
殆どの壁を本棚が埋め尽くしており、そこに置いてある背表紙には1人1人の名前が書いてあった。きっとこの本は現世で生きている人のあらゆる情報が書かれているのだろう。
「因みに生まれ変わりは日本人は日本人に。アメリカ人ならアメリカ人に。ハーフならハーフに生まれ変わるから外国人に少年が生まれ変わる事はないよ」
「え……!?」
「だって、そもそも信仰しているものが違うじゃないか。元々、神様なんてモノは信仰第一だからね。そんなあやふやなモノなんだから、外国人は悪魔やら天使やらが輪廻を回してるよ」
なるほど……。そりゃあ、外国人の人が死んで来た世界に浴衣着た閻魔様がいたらある意味吃驚か……。
若干の無理矢理感はあるがどうにか納得し、数回頷く。
「どうしようかな……」
「あ、あのっ」
「ん?」
「日本は少子化少子化って言われてますけど、毎日、誰か1人以上は産まれてると思うんですが」
「そりゃあ、ね。でも、それだと私が悩まなくていい理由にはならないんだよ」
意を決して言った言葉はあっさり否定されてしまった。
「この世は産まれる方より死ぬ方の人間が多いんだから」
背筋をずっと伸ばす事に疲れたのか、溜め息を吐きながら閻魔様は背凭れに寄り掛かる。
「そのせいで天国も一杯なんだよねー」
困ったように言う閻魔様。閻魔様が困るくらいなのだから問題は余程、深刻なものなのだろう。
「んー、あっ、良い事思い付いた」
腕を組み悩んでいた閻魔様はさも名案と言わんばかりに大きな声を出す。
「異世界に転生させればいいんだ!」