四話 ゲーム・スタート
さてー
ウォーミングアップも済んだし俺はスタート地点に着く。軽く靴のつま先を二度叩きブーツを足にフィットさせながら頭にあるイメージを反芻する。前も言ったがここの下調べは完璧だ、もう一度腕にあるマップ用のアームバンドを見つつ再度考える。はっきり言って起伏が激しい、と言えるだろう。山もあるし丘もある、川もあるし・・・・・もうALLフィールドだ。
前半の位置取り、前線取りは厳しそうだ。俺の位置取りとしてはM60だからなあ、前半はほぼ支援に徹するだろう。
「射線を確保しつつ撃ち下ろせる場所は・・・・・」
そう言いつつ指を滑らせる。
む、この西側の少し小高い丘がいいな、ブッシュも多いし。だが激戦になりそうだ。まあ、火力で押しこめば何とかなるだろう。隠れるところも多いし足止めとしても有効だろうな。
「準備はいいですか?」
支配人の声だ。これだけ広いフィールドなのでちゃんとスピーカーが何メートル間隔で設置されているそうだ。
「ガシャンッ」
コッキング・レバーを引くと小気味良いい音がする。まあ、飾りなんだけども、少しは思い入れが違うように感じるんだから不思議だ。プラスチックと金属が合わさるような音が俺の体に染み渡る。多分、行った事はない『戦場』に行くような気がするから気分が高揚するんだろうな。
スリング、よし。ブーツ、よし。マガジン、よし。ゴーグル、よし。準備は・・・・・万端!後はスタートコールを待つだけ。
「それでは・・・・・3、2、1・・・・・」
支配人の声が響く。それに合わせて俺達も一緒にカウントする。
俺は少しだけ前傾姿勢をとってM60を握り直す。重たいから両手で持ち上げないといけない。
あれ?カウントは過ぎているのにスタート、と告知されない。俺は少し周りを見渡した。他のゲーマーも出ずにそのまま立ち止まって同じように辺りを見回している。俺と同様にコールが行われないのが不思議だと考えているのだろう。
「うっ」
一瞬、ほんの一瞬だが頭痛が走った。少しだけ耳鳴りもしたがすぐに消えた。
『スタート』
その時ようやくコールが鳴った。
その声に従い全員が待ってましたと言わんばかりに走り出す。俺も少し出遅れたが一緒にターニングポイントを先取するため可能な限り走る。スリングが音を出しているが敵に位置がばれる事はない。敵チームがスタート地点に行くためにトラックを使って移動しているから大分距離があると考えて間違いないだろう。そうそう簡単には出会わないとは思う。
途中味方の人と何人か合流しつつポイントに向かう。他のゲーマーも自分が睨んだ所を拠点とする模様だ。俺も出来る限り追随する。
だがその先で見た閃光に俺は、いや俺たちは意識を失った。
あの時、ゲームが開幕したんだ。俺達の後戻りできない最悪の・・・・・ゲームが。