王子様と、縮まる私との距離。
R15微エロ?が入っております。
これ以上っぽいのを「なろう」で見かけたので大丈夫かなと思いますが、苦手な方はご注意ください。
日付が変わる頃。最終近くの電車に乗り、私は王子と駅から歩いていた。もうすぐで家につく。
周りには誰もいない、まるで私と王子だけの空間。
そう意識すると、心臓がバクバクしてうるさい。
見上げると、月明かりに反射する金髪。私を見つめる優しい目。気がつけば、王子が傍に居ることが当たり前になっていた。
「ところでミズホ」
「ん?」
「どうして先に帰った」
忘れかけた事を思いだし、私はぼんやりしながらも笑う。
「朱美と飲みたかったから」
違う、王子との事を相談したかった。不安で押し潰される前に。
好きだと気づいてしまったから。
「それならそうと言ってくれたら、反対はしない」
以前より、王子は丸くなった。遊びに行くと言えば、迎えに来るまで自由にさせてくれた。
王子が働いてからは、むしろ私が待っている方に回ったくらいだ。
「だが、時々不安になるのだ。 ミズホが、私を置いて行くのではないかと」
真っ直ぐ見つめられる。
以前は笑って流せたのに、その瞳に縛り付けられるように動けない。
「名前を交換するだけでは、不安なんだ。 いや、違う………これは、欲望だ。 ミズホに触れたい。 柔らかな頬に、唇に触れたい。 甘そうな首筋を味わいたい。 そして…」
「ちょっと待って!? ボッチ王子よね? そんな情報どこから」
「夫婦の閨事は、王族教育の必須科目の一部だ」
閨事って言っちゃってるよ!
好きだと認識したばかりなのに、そこまで請われると思考が着いていけない。
いや待て、今教育と言わなかったか?
「あの……王子はもしかして、女性と……」
「アレに愛情などない………兄のモノだからな」
胃に泥を詰め込まれたような心地になる。ボッチとはいえ、こんなに見目麗しい王道王子様なんだ、何かしらの経験はあってもおかしくない。ただ、私が経験がないだけで。
だから、こんな思いは八つ当たりでしかないと判っている。でも、王子と関係がある人がいると思うと、ツラい。
「エル」
「エリック王子!」
二人の近くに、急に魔方陣が浮かび上がる。そこから出てきたのは、神官だ。
何となく、嫌な予感がする。出来れば聞きたくない類い。
「どうした?」
「現国王危篤…っ! あのクズゲス共が…っ、やらかし、ました! 事もあろうに、国王の命を狙うとは……なんて卑劣な…っ」
急いで転移してきたのだろう。神官が膝をついて息を整えている。
王子は膝をついて、神官に軽い治癒をかけた。
「このままでは国が荒れます! フォースリーフの一角が崩れでもしたら、世界全土が荒れます。 どうか……国を、世界をお救い下さい」
「しかし、私に人望など」
「私が、還俗して王子に賛同する勢力をまとめあげております。 後は、王子の指示を待つのみ」
飄々としていた神官が、取り乱している時点で本当なのだと確信する。
帰ったら、目の前から居なくなるだけじゃない、もしかして2度と逢えないかもしれない。
「勝手な事を……あっちはとうに俺を捨てたのだ! 私は、ここでミズホと生きる」
足早に、王子が歩く。それを私と神官が追う。家までの距離が、やけに長く感じた。走っても、リーチの差で王子に追い付けない。それが、まるで私たちの将来を映し出しているようで、涙が出そうになった。
私が追い付かないのを心配してか、王子は私の元へ戻って、手を引く。それだけで、救われた気がした。
家につくや否や、神官は力を使い果たしたのか気絶するように眠った。
王子は、神官を自分の布団に寝かせ、息をつく。
「エル」
「私はミズホと離れたくない」
「でも、世界も心配なんでしょう?」
「あんな世界、どうなっても構わない」
なら、王子。どうして泣きそうな顔をしているの?
今にも行きたいのに、私が足枷になっているみたいで、心苦しい。
けれど、私の中で王子を帰したくない、傍から離れさせたくないと叫んでいる。つらい苦しい。
「ねぇ王子」
けれど、私は想像をしてしまった。
私はこんな時に何を考えているのかと笑いそうになるし、もし拒否されたらと汗が出る。しかし、どうしても枷を外してあげたかった。
多分、言葉の限りを尽くして罵倒して傷付けても意味はない。だから。
私は、アクセサリー入れから、王子の腕にも届くようなブレスレットを取り出す。そして、それを王子の左腕に付けた。
本当は、指輪が良かったけど、サイズを知らないから買えなかった。こんなことになるなら、素直になって聞いておけばよかったのだ。後悔は先に立たない。
「私の名前は、白井瑞穂。 貴方の名前を教えて?」
真っ直ぐに、見つめる。王子の瞳が揺れた。こくりと、喉が鳴る。
きっと、これだけで私の言いたいことが判るだろう。逆に、王子の世界にとってこれ以上に判り易いものもない。
「…………ミズホ、私でいいのか?」
王子が、躊躇う。全く、こんな事じゃないと私たちは近付けなかったのだ。笑っちゃうわ。
「貴方がいいの」
いいから、私を繋ぎ止めなさいよ。まだ若いし数年くらいなら、待ってあげるから。
思いが通じたのか、王子も真剣な眼差して私を見つめてきた。
「愛しい人、貴女に私の名を贈ろう。 私はエリクシール・リュミアス・ノースリーフ。 どうか、私の妻になってくれませんか」
心が鷲掴みにされる。相手は未成年で、年下で、異世界人。だけど、私にとって、替えがたい大切な人。
「はい、私を貴方の妻にしてください」
王子が満面の笑みを浮かべる。そして、目を伏せると顔を近付けてきた。
かさついた、けれど温かい唇が、私の唇に重なる。
啄むようなソレはしばらくして、僅かに呼吸を求めた時に、濃厚なものへと変わった。
舌と舌を絡め、互いを求めるように奪うように口付けを交わす。
そして、どちらからともなく離れると、王子は私を抱えたまま寝室に入り、ベッドに載せた。
月明かりだけの部屋に、恍惚とした表情が映る。
二人分の重みに軋むベッド。王子が私の体に寄り添い、首筋を撫でる。
「もう逃がさないが、いいな?」
そんな事は今更だ。いや、むしろ初めて会ったその日から、私は王子に捕らわれていたのかもしれない。
そして、王子にとっての私もそうであって欲しい。
でも。
「でもちょっと待って!」
「だめだ、待てない」
「私はいいんだけど、こんな事して王子の体力無くなったら、戻れなくなるんじゃない?」
移動でぶっ倒れた神官を見たあとだから、余計に思う。新妻と愛を育んでいて疲れて帰れないなんて、情けなさすぎる。
しかし、王子はそんな事かと妖艶な笑みを浮かべた。
本当に未成年か!?
4つ年下に、これほどまで翻弄されるなんて、恥ずかしい。
「閨事は力を充填することはしても、損なうことはない」
そう言われると、拒む理由はない。私にこれ以上の理由がないと判り、王子は私の頬に口づけを落とした。
●
誰かに名前を呼ばれた気がして、目を覚ますと、目の前に王子の顔が広がっていた。寝起きにこれはなかなかの迫力だ。
けだるい中もそもそと起きようとすると、そのままでいいと止められる。
当の王子は、見慣れた洋服ではなく、最初現れた時に纏っていた王族衣装を身に着けていた。やはり、異世界の王子様なんだ。
「………もう行くの?」
王子の足元に、魔法陣が敷かれている。別れの時間だと察して、身が震えた。
「ああ、カイゼルは先に帰らせた。 後は、私が帰るだけだ」
「そう」
だめだ、笑って見送らないと。私が迷っちゃだめだ。私は、もてる気力のすべてを使って、表情筋を上げた。
「立派な王様になって、迎えに来てよね。 私、王妃になるために頑張るから」
「ああ、王になって片付いたら、必ず迎えに来る。 そしたら、国のすべてをミズホに捧げよう」
王子は、私の前に跪いて、手を取り指先に唇をふれさせた。
「その言葉、忘れたら恩知らずって恨んでやるから」
「心に刻んでおく」
ふ、と王子が笑う。私は、そのきれいな唇に、自分のを重ねた。なんだかもう、苦しいのに幸せすぎる。
「あまり煽らないでくれ」
「こっちでは、夫を送るときにキスする風習があるのよ。 その名も、いってらっしゃいのキス」
そう言い訳すると、王子も返してきた。それから、耳元で、行ってくると囁く。
だが、次の瞬間、王子の瞳から一切の甘さが消えた。そこにあるのは、感情のない光。
「エル?」
「私のわがままに付きあわせてすまない。 ミズホはどうか幸せになって」
淡々と、王子が聞き覚えのない言語を紡いでいく。きっと、これは母国の言葉なのだろう。
「必ず戻ってくる。 その時はまた……」
うすぼんやりとした視界の中、王子が背中を向ける。
行かないで。
手を伸ばしても、王子は魔法陣の中に入っていく。
ゆっくりと、粒子が溶けるように、王子の姿が薄れていく。
王子が消え去る前に、私は意識を失った。
次回が最終回です。
うわ、最終回って初めて言いました。なんかドキドキします。
なんだかんだで日付的に毎日投稿できたみたいで、個人的には満足しております。
テンプレにテンプレと脱線を重ねた話ではありますが、最後までお付き合いいただけましたら幸いでございます。