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王子様と、私のヤキモチ

 私は、朱美の会社の前にいた。あの後、朱美にメールをしたら、もうすぐで上がれると返事がきたのだ。

 待ち合わせるより、会社に行った方が早い。


「瑞穂?」


 男性の団体の一人に声をかけられる。


「哲兄」


 従兄の高橋哲也だ。朱美の教育係で先輩だったはずだ。朱美経由で話には出るが、会うのは久々な気がする。


「川崎なら仕度してたぞ」


 同時に終わらせても、男女では帰り仕度の時間が違う。


「うん、今から飲み行くんだー」


 笑って言うと、哲兄は訝しげに私の顔を覗きこんだ。小さいときから兄と思っていて意識はしてなかったが、大人になった哲兄は格好いい。だが趣味バレしていつも彼女にフラれていた。そんな哲兄も趣味に付き合ってくれる理想の彼女とスピード結婚をした。哲兄曰く、もう彼女以外に考えられない。一時も離れたくない、のだそうだ。

 事情があり、彼女は朱美の家で暮らしていたのだが、しょっちゅう哲兄が来ていて、朱美はケッ、リア充め、と荒んでいたのを思い出す。

 面倒見がよく、趣味もあう先輩に仄かな恋心を抱いていた朱美は、すっかり冷めてしまったらしい。

今は、生涯暮らせるマンションを買うべく貯金しているそうだ。まだ22歳なのに。


「飲みかー、いいなぁ」


 連れていって欲しいような言い方に、眉を潜める。


「来るなら哲兄より菜摘ちゃんがいい」


 菜摘ちゃんとは、哲兄を一目惚れさせた奥さんだ。現役女子高生である。それも哲兄が結婚を急いだ理由だった。うかうかしていると法律という名の壁で卒業まで引き離される。

 哲兄には優秀なブレーンがいて、外堀を埋められた菜摘ちゃんは、抵抗する間もなく奥さんになった。幸せそうなので、安心したのだが。


「ちょうどツレと菜摘と食べに行く約束してたから、川崎と一緒にどうだ?」


 おーい、ツレ=菜摘ちゃんじゃないのかい。

 哲兄は、すっかり優秀なブレーンになついてしまっているらしい。相手は男子大学生で、浮気ではない。菜摘ちゃんも、ブレーンになついている。


「えっと」


 哲兄に返事をしようとしたら、メールが届いた。

 朱美からで、急な残業を押し付けられてもう少しかかるそうだ。


「朱美がまだかかるみたいだし、少しだけなら」

「うわ、課長に目をつけられたな」


 哲兄が電話をかける。

 相手は朱美のようだ。皆で飲みに行くから残業手伝うと言っているが、断られていた。それでも渋った表情。


「すまん瑞穂、菜摘とアイツが駅前で待ってるだろうから、先に行っといて」


 すっかり先輩の顔をした哲兄が、会社へと戻る。

 無駄な優しさが期待を産むんだよ、哲兄。



 私は、とぼとぼと駅前に向かった。そこには、菜摘ちゃんと、哲兄のブレーンこと麻生奏くんがいた。朱美が近くにいたら携帯のカメラ機能が唸っていただろうくらい、お似合いで初々しいカップルに見える。


「瑞穂ちゃーん!」


 私に気付いた菜摘ちゃんが、大きく手を振る。横で麻生くんが、軽く頭を下げた。


「お疲れさまっ」

「うん、疲れが一気に癒えたよ」


 菜摘ちゃんの無邪気な笑顔は、かなり癒される。余程幸せな人生を歩んできたのかと思いきや、5歳で親を亡くし親戚をたらい回しにされ、16歳で追い出され、バイトをしながら暮らしていたが、アパートが焼けて途方に暮れていた所を朱美と哲兄に拾われたのだと聞いた。

 それでも前向きなのは、生きていられる環境がラッキーだと。苦労が報われて幸せになって欲しい。


「そうなの?」

「そうなの」


 思わず目の前の小動物を抱き締める。オロオロする姿も癒される。


「菜摘さんが困ってますよ」


 苦笑する麻生くんもまたイケメンだ。王子や哲兄のように惹き付ける、という訳ではないが、清潔感と雰囲気とセンスがいい。

 何気に哲兄に付き合わされる彼は、第2の嫁にも思えた。


「場所はどこにするの?」

「菜摘さんがいるから、個室でソフトドリンクも充実している店を予約しました」


 さすが嫁、行動早いよ。

 余談だが、この麻生くんは将来朱美と結ばれる事になる。この時は普通の知人だったため、6年後話を聞いたときは驚いたものだ。人生はどう動くか全く予想もできない。


「さすがだねー、じゃあ先に行ってようか」

「ミズホ!」


 駅の方から、声をかけられる。咄嗟に逃げようとしたが、その前に捕らえられた。

 何故か、心臓がバクバクしてうるさい。


「何故先に帰ったんだ」

「………関係ないでしょ」

「関係ある! 今日は寿司にしようって」

「えーっと、まず落ち着いたらどうかな?」


 さすが麻生くん、空気読める子。そこで初めて麻生くんの存在に気付いた王子は、麻生くんを睨み付ける。


「そなたはミズホの何だ」

「友人ですが?」


 麻生くんの返事に、王子は私を離す。以前朱美に言われた事を未だに守ってくれているらしい。

 私の友人にも、優しい。


「貴方は?」

「私は、ミズホの夫だ」

「なっ!?」


 何て事をいうんだろう。

 まだ手を繋ぐくらいしかしていないし、付き合ってもいないのに。

 でも、独占欲を見せてくれるたび、今は嬉しさを感じる。


「違う! エルは異世界人で拾ってあげただけなの!ただの居候!」

「稼ぎ出したからヒモから脱出したと、アケミは言っていたぞ?」

「そんな事。 大体、エルはもっと相応し」

「瑞穂」


 私の弁解に重ねるように、麻生くんが声を出す。

 呼び捨ても名前呼びも初めてで、思わず顔を赤らめた。


「それ以上は、彼の本気に失礼ですよ」


 彼の本気?

 それは経緯を知らないからだ。王子が私になつくのは、子供が親になつくようなものだ。それは、初めに出会ったのが私でなくても代用が可能な存在。


「あと貴方も、白井さんを束縛すればいいってものじゃない。 もっと落ち着いて気持ちを汲み取ること、いいね?」


 麻生くんが王子に忠告する。すると、王子の目がキラキラしだした。ちょろいよ王子!


「ああ!」


 異世界でずっとボッチだった王子は、自分のために怒ってくれる存在が好きだ。

 確実に、いま麻生くんを気に入っている。

 あまりの変わり身の早さに、麻生くんも目を丸くした。


「あ、ああ、判ったなら構わない……」

「先程は失礼した。 改めて、私はミズホの夫でエリック・ノースリーブ」

「俺は友人の麻生奏だ。 よろしく」


 異世界のルールを知らない麻生くんに名乗られ、王子は顔を赤らめた。


「この国の人間は恐ろしいな!」

「いや、こっちには偽名なんて風習ないから」


 この感じだと、王子は名乗るだけでプロポーズされていると誤解しそうだ。


「偽名?」

「エルは異世界人で、そちらでは本名は両親と配偶者しか知らないみたいなの」

「真名みたいなものでしょうか?」

「ん、ニホーンにもあるのか?」


 異世界人はスルーなのか、麻生くんが眉を潜める。


「昔は、名前に人を縛る力があると信じられていて、名前…つまり真名を隠して役職名や生まれ順で呼ばれていたんだ。 俺は上に3人姉がいるから、4番目で『麻生家の四の君』になる」

「ああ、名前には人を操る力があるからな。 最悪、消滅させることも出来る」

「随分と物騒な所から来たんだね」


 信じている訳ではないが、麻生くんの表情が曇る。


「友情の記念だ、いいものを見せてやろう、奏」


 ボッチ王子をも簡単に手懐けるとは、恐ろしい大学生だ。

 王子は、よくわからない言語を紡ぐと、片手で麻生くんの視界を塞いだ。一瞬ビクッとした麻生くんだが、次第に首を傾げる。


「体が、軽い?」

「どこか疲れているようだったからな、治癒魔法をかけておいた」

「今朝まで、3日不眠でレポート書いてたから」

「そんな状態で酒飲んじゃダメでしょ!!」


 3日不眠はキツイ。顔が本当に白く、色を無くすのだ。3日目の、鏡を見たときのあの恐ろしさは、言葉にし難い。


「これで私が異世界人だと信じてくれるか?」


 じっと王子が言うと、麻生くんは苦笑を浮かべた。


「信じざるを得ないね」

「あと、お………私と、友達になってくれないか!? 年下の友人も欲しい」


 王子から見たら、麻生くんは幾つに見えるのだろう。身長は王子より若干低いが、大人と言っていいはずだ。

 でも。


「麻生くんって18歳だったよね」

「そうですけど」

「!!!!」


 理路整然として大人っぽいが、麻生くんは大学1回生だ。

 隣で王子が驚き、喜色満面になっている。


「同じ歳の友人も初めてだ!」

「エル、本当にボッチだったの?」

「通っていた学園でも、ずっと1人だった。 次期王と言われても、人望もないし頼れる部下もいない。 だが、こっちは違う! みな優しくて、私の拙い意見も聞いて取り入れてくれる。 話してくれて、笑いかけてくれる。 幸せすぎて怖いくらいだ…」


 その様子から、余程の扱いをされてきたのだろうと想像する。


「大丈夫、私もみんなも、エルの味方だから」

「私も友達になるよ! 高橋菜摘、16歳です!!」


 なかなか会話に入れずにいた菜摘ちゃんが、手をあげて主張する。


「……………10歳位かと思った」

「失礼なっ!」

「うん、すまない」

「よし、許そう!」


 そんな事をしていたら、向こうから声がした。哲兄と朱美が、こちらに駆け寄る。

 ようやく合流して、飲み会の店に向かった。

気が付いたら、飲み会ばっかりしてる気がします。

浅井はアルコールが入ると頭痛がするので、呑める方が羨ましいですね。

女一人酒とかやってみたいです。

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