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王子様と、親友が対峙した結果…どうしてこうなった

瑞穂視点に戻ります。

「…………コスプレパーティ?」

「違う違う」


 暇だから飲もう、というメールを寄越した私の親友、川崎朱美の第一声に、私はツッコミをいれる。

 手には酒やつまみの入ったエコバッグ。手渡されて覗いてみると、惣菜からチーズから色々入っていた。

 料理を作る気力がほぼない私には有難い。


「そなたは、ミズホのなんだ?」

「そちらこそ、瑞穂の何? 瑞穂は一般ピーポーだから、変な道に連れ込むのはやめてくださいね」

「そんなことはしない! 私はエリック・ノースリーブ。 ノースリーフ国第3王子だ」

「ふんふん、ノースリーブの国の王子様なのに、ノースリーブじゃないんですね」


 若干サブカル系に免疫のある朱美は、私みたいに動揺することなく流している。

 やはり、どうみても初めは設定だと思ってしまうらしい。


「ノースリーブではないというのは?」

「袖のない服。 もしかして、敵対する国にはキャミソールとかタンクトップとかあったりします?」

「ぶはっ!!」


 初めは家呑みを断ろうと思ったが、朱美の次々に出てくる言葉に有難さを感じる。

 自分1人でこの2人を相手にするのは、少々キツイところだったからだ。

 しかし、まさかキャミソールやタンクトップが出てくるとは。


「じゃあ、私はブラトップ国王女にしましょうか。 アケミ・エル・ブラトップです」

「ふむ、ブラトップという国は聞いたことがないが、アケミは王女なのか」

「落ち着いて朱美!! ノースリーフだから。キャミもブラトップも関係ないから! 王子も本気にしない!」


 会話を聞いていたらわかりそうなものだが、ホイホイ騙されているので王子のためにも朱美を止める。

 後ろで、文官コスプレが複雑な表情をしていた。


「あと朱美、この人たちの国には本名を名乗ると求婚扱いって設定だから、名乗らなくていいよ」

「え、本当!?じゃあ、ノースリーブは偽名なんだ。 がっちり設定決まってんだね」

「設定ではないぞ、国の昔からの言い伝えだ」

「そうです、我らがノースリーフ国に代々伝わる正式なものです。 あと、先ほどから王子に無礼ですよ」


 王子と文官が続いて言う。ふぅん、と朱美は笑ってみせると、恭しく右手を胃のあたりに置き、頭を下げた。


「失礼いたしました、王子殿下。 どーぞご無礼をお許しください。 1庶民の戯言でございます」

「ふむ、ミズホの友人ならば許そう」

「ははぁ、ありがたき幸せぇ~~」

「………朱美、遊んでるでしょ」


 朱美のジェスチャーが仰々しすぎて、設定を楽しんでいると思う。

 本当は異世界人だと聞いたら、余計に喜ぶだろうか。


「さて王子と側近殿。 私はミズホと1庶民として飲み明かしたいので、お譲り頂けますか?」

「苦しゅうない、そなたがいても私は構わぬぞ」

「私が構うのです。 王子殿下の神々しさの前では、親友と語り合うことなどとてもとても」

「王子を下がらすなど無礼である。 庶民なら庶民らしく、遠慮をすればよいものを」

「なんてこと言うんです! せっかく親友が遊びに来てくれたのにっ」


 朱美が下手に出るから、王子と文官は尊大にふるまっている。それが自然すぎて、私はどこか震えを感じた。

 もしかすると、私は友人と切り離されるのかもしれない。家族はさすがにないとしても、だ。


「私は、朱美の飲みたいの。 ね、今から居酒屋にでもいこっか?」


 朱美をつかむ手が、震えた。それを察したのか、朱美が心配げに私を見る。


「イザカヤとはなんだ? ミズホが行くなら、私も行くぞ」

「当然ながら、私もお供いたします」

「私は、朱美と二人で飲みたいの」


  どうかどうか、私を置いていかないで。


 なんで、こんなに不安になるのかわからない。ただ、怖くなった。

 朱美は、大学に入学した時からの親友だ。機転がきいて、いつも助けてもらっていた。申し訳ないというと、かわいいから構いたくなるの、とキラキラ笑顔で言ってくる大切な友人だ。

 朱美は、私の表情を見て何かを察したのか、ぎゅっと抱きしめてくれた。

 背中を、頭をたたく手が、とても暖かい。


「………ってかさ、そろそろ帰ったら? こんな夜遅くまで未婚の女子の家に居座って、非常識にもほどがある。 王子だか文官だか名乗るのは勝手だけど、普通のサブカル好きが、偏見もたれるのヤなのよね」

「なっ…」

「王子にそのような口のきき方は、婚約者であられるミズホさまなら許されても、そなたは不敬であるぞ」

「はいはい、いい大人なんですから、そろそろ自重して自宅にお帰りくださいませませ。 そんなわがままは、子供だから通用するんです。 ぶっちゃけ……恥ずかしいですよ」

「あのね朱美!! この2人は異世界人なの! 異世界の王子と文官で、空から落ちてきたの。 それを、私が拾って居候させてるの。 あ、いや居候させてるのは王子だけだけど!」


 顔を上げ、朱美の顔を見ながら言うと、朱美はいぶかしげに眉を寄せた。

 さすがに、急にそう言っても信用ならないだろうけど。


「ねぇ、もしかして瑞穂、脅されてるの?」

「私はミズホを脅してなどいない!!」

「だって、こんなに震えてるじゃない。 異世界人の居候って態度じゃないもん貴方たち。 瑞穂がお人よしだからいいように、束縛して閉じ込めようとしてるようにみえる」

「束縛などしてない!私は…」

「なら、何故私と2人で飲みに行くのを止めるの? 私と瑞穂は数年来の親友よ。 それを、昨日来たばかりの居候が止める権利などないでしょう? 繋がりの長さが全然違う。 あと、郷にいりては郷に従えというわ。 この国で、貴方たちは王子でも文官でもない、ただのニート。 無職。 むしろ、それ以下」

「無礼な! 手打ちにしてくれる」

「やめろカイゼル」

「王子!」


 王子が、文官を手で制する。王子に言われてはと、動かずにいるが、文官は朱美を親の仇のような目で見ていた。

 体が、震えそうだ。

 朱美が冷静に切り返しているから、まだ安心できる。

 王子も、朱美の言わんとしていることを察したのか、真剣な表情で朱美を見ていた。


「確かに、ミズホがいなければ私はこの場所で生きていけないほど無力だ。 それはわかっている」

「だから、瑞穂を縛って、働かせて、生活の糧にしようと?」

「違う、私はミズホが好きだ! ずっと傍にいてほしいし、望むなら、王妃の座すら差し出そう」

「瑞穂、王妃になりたいっていったの?」


 私は、朱美の言葉に首を横に振る。私はこの場所から離れるつもりもないし、ましてや王妃などになりたくもない。


「王妃となって、皆に傅かれ、裕福な生活を保障する」

「私は、そんなのになりたくない。 ここで結婚して、家族や友達に祝福されて、生活したい。 知らない場所にいくなんて……嫌」

「なら、私がここで生活する。 そもそも、戻るつもりもなくここに来たんだ。 ここでミズホと結婚すればいい、だから」

「私をひもにして養ってくれ」

「!!!!」


 王子の言葉にかぶせて、朱美が言い放つ。的確だが容赦のない言葉に、私はあっけにとられる。


「ぬぅ……ヒモ、とはなんだ」

「居候ですよ。 相手の女性を働かせ、家事もせずにのんびり悠々自適に過ごす男を指す。 今貴方がそう願ってるんですよ」

「私はヒモなどにはならん!」

「ああ失礼、ヒモさまに失礼ですね。 ヒモさまはまだ女性の行動の自由を認めてくれて、女性を甘やかせてくれます。 けれど、貴方は一方的に瑞穂に甘え、束縛し、自由も認めない、家事もしない、ヒモさまに失礼なくらい。 いうなれば、害虫」

「が、害虫………」


 ヘタリ、と力なく王子がその場にしゃがみこむ。

 さっきまで怒っていた文官は、なぜか横を向いて口元を隠した。


「いい大人が、そんな状況下で求婚するなど、冗談甚だしい」


 これにて一件落着、といわんばかりの朱美を、私はつつく。


「でも、こう見えて王子17歳なんだって」

「えっ、私たちより年上だと思った……ああ、だから居候させてあげてたのね」


 世間をなめた子供じゃ仕方ないか、と朱美が苦笑する。

 そこへ、大きな笑い声が介入した。発生源は、文官だ。


「ははっ…いや、失礼した。あまりに的確で容赦ないものだったから、つい演技を忘れてしまったよ」


 はっはっは、と文官が楽しそうに笑う。先ほどの、高圧的な貴族さまには見えない。表情を和らげて笑う姿は、そこらにいる優男な兄さんだ。


「いいね御嬢さん、君となら、名を交換してもいい」

「ヒモを養う趣味はないので、遠慮するわ。 それに、貴方も未成年なの?」

「じゃあ改めて自己紹介しようか。 私はカイゼル・ノースティム。 ノースリーフ国3大公爵家の一角ノースティム家の次男。 年は25」


 さりげなく文官が私たちに近づくと、朱美の手を取って指先に口づける。

 反応が遅れた朱美は、自分の服で手をぬぐった。腕が緩んだので、朱美から離れて文官を見てみると、どこか王子に似たキラキラを醸し出していた。

 異世界人は、皆キラキライケメンの類ばかりなのだろうか。


「ああよかった、どさくさに紛れて本名言ってくるのかと思った」

「貴女に名前を呼んでもらえたら、ゾクゾクするかもしれないな」

「変態がいる」

「いいね、望むのなら愛の奴隷でもなんでも」


 そういって、文官は悦交じりの笑みを浮かべた。正直、これすらも演技じゃないかと思うのだがどうだろう。


「…………カイゼルがおかしい」

「貴方はとんでもない人を側近にしてしまったみたい」

「カイゼルは、下の兄上の側近だ……」

「あのクズゲス男は、遊ぶのにもってこいですからね」

「鬼畜…鬼畜がいる」

「それで、貴女は?アケミ」


 なんだか、声が艶めかしくなってませんか!? 本当にこの人よくわからない。

 朱美の、文官を見る目が険しくなってきている。


「アケミ・エル・キャミソール」


 あくまで本名をいうつもりはないらしい。私も、朱美のような冷静さが欲しかった。


「ふふ、長期戦で貴女に本名を名乗らせてみせますよ」


 そういうと、文官は朱美の手を取ると、半回転して壁に押し付けた。そして、耳元で何かをささやいている。


これが、俗に言う壁ドンってやつか!


 絵になっているが、朱美の表情がひどく悪化している。それこそ、台所で黒光りするアレを見るような。


「まさか、私に幼女趣味の気があるとは思いませんでした」

「幼女って失礼な、私は」

「朱美、年齢言ったら悪化する!!」


 私は、とっさに昨晩の王子を思い出した。年齢を告げ、年上だと判ったとたんに積極的になった。もしかすると、王子以上に厄介になるかもしれない。


「じゃあ、永遠の17歳ということで」

「賢明な友人を持って良かったですね、アケミ」

「そうね、瑞穂は大切な親友だわ」


 その言葉に、私は涙が出そうになった。さっきまで、友人とも離れ離れになるかもしれないと怯えていたのに、朱美は冷静に王子をただし、状況を把握させ、場を穏やかにさせてくれた。




その後、私たちは改めて家呑みを始めた。


シリアスに引きずられそうになったので、あわててほぼ消ししました。

険悪なまま朱美が瑞穂を奪うか、文官が本性を現して変態になるか……どっちが良かったのかわかりません(笑)


朱美は、「コメラブシリーズ」の主人公です。

文官といい、後輩といい、一癖ある人に好かれやすいタイプかもしれません。

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