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王子様と、お出かけです

 やはり性格は顔に出るらしい。加えて容姿もよければ、何を着ても似合う。

 異世界の王子様を拾った翌日、私は王子を連れて当面の王子が着る服を選ぶため、駅前のショッピングモールへ赴いた。

 男性服売り場へ行って、手ごろな価格のショップを覗き店員さんに見繕ってもらう。

 彼氏いない歴=年齢の私には、とても見繕うことは出来ない。

 ましてや、受験を終えたばかりの弟に連絡するなんてもってのほかだ。王子拾いましたとか知られたら、家族中から白い目で見られること確実である。

 ショップの男性店員は、快く引き受けてくれ、何着か持ってきては王子に合わせていた。

 身長が高いため、なかなかサイズがない中、頑張ってくれている。本当にありがたい。


「ミズホ、どうだ?」


 店内にあるマネキンとほぼ似たような服装なのに、店の外を通りすがる女性の目も引く。やはり天然王子は違うな。


「うん、似合ってる」

「そうか」


 天然王子のピュアな笑顔に、外から黄色い声が聞こえた。

 うん、視線が痛いです。隣にいるのがこんなのですみません。

 付き合っているわけでもなく、今日の服装が自分の持っている中で一番マシだとはいえ、いたたまれない。別に卑屈な性格はしてないんだけどな、私。

 そして、選んだ中で何着かを購入した。ショップとなればそれなりの値段だから、普段着はユニ○ロで勘弁してください。まだ新入社員で薄給なんです。

 昼食は、大皿で出てくる単品ものを数種選んだ。先に私が食べても違和感がないようにだ。

 しかし、王子は私が先に食べるのを許してくれず、こわごわと先に料理を口にした。


「毒見しなくて大丈夫?」


 王子の都合とはいえ、店の印象を悪くするわけにはいかないので、小声で王子に話しかけると、王子は真顔で私を見た。


「ミズホに毒見はさせられない。 たとえ毒があったとしても、ミズホを守れるなら本望だ」


 うん、知れば知るほど王子様だ。

 傲慢で見栄やプライドばかりの王子ではなく、少女漫画に出てくるような王子。


「そういえば、王子は王子なんだから、婚約者とかいたの?」


 ナイフとフォークを器用に使い、綺麗に食べている王子が顔を上げる。


「ああ、いることはいる。 本当なら今日成人の儀で婚儀を行う予定だった」

「へぇ、婚儀………ええっ!?」


 婚約者予定と婚約、とばかり思ったのにまさかの結婚。しかも、結婚前日に異世界トリップって最悪じゃないか。

 驚いて立ち上がり、視線を感じてすごすごと私は席に座る。


「そ、それなら急いで帰る手段を探さないと。 ほら、公園の噴水に飛び込んでみる?」


 横恋慕と思われたらごめんだ。さすがにそこまで腐ってはいない。

 しかも、王子の花嫁さんだから可憐な淑女、もしくは悪役令嬢のような過激で一途な女性が待っているかもしれないのだ。

 年齢も容姿も身分も釣りあう女性が。

 しかし、王子はどこか乗り気ではなく食事を進めている。


「それであちらに戻るなら、ごめんだ。 もしミズホが付いてきてくれるなら話は別だけど。 でも、ミズホをあんな危険な場所に連れて行くのは嫌だ」


 どうして私が異世界に行く前提なのかはわからないが、王子にとって異世界とは常に死と隣り合わせの場所らしい。それは昨日聞いた事情でも、容易に想像できる。

 昨晩、一人で寝るのが怖いと言うので、ベッドで添い寝していたら、突然震えてうなされることもしばしばあった。冷や汗をかき、すがるように抱きついてくる。

 私はしばらくすると多少の反動にも動じず熟睡してしまったからわからないが、王子もしばらくして熟睡できたようで、こんなにぐっすり眠れたのは何年ぶりだろうと言ってきた。

 あまりに可哀想すぎて、つい目じりが熱くなったのは仕方ない。

 普段の言葉は日本語に自然翻訳されているらしいが、寝言は聞いたことのない言語なので、しみじみ異世界人だと実感させられる。

 20代前半に思えた顔の原因は、疲労と寝不足によるものだったそうで、今朝は昨日より少々年相応の王子だった。

 異世界には魔法が存在するらしく、治癒をかけても体を長い間休めなければ根本の回復には至らないそうだ。

 魔法か、すごいな。

 私が魔法に興味を持ったのがわかったのか、王子は指先に簡単なつむじ風を作って見せた。

 異世界には、火、水、風、地、光、闇と6種類の属性があり、王子は闇以外を操れるため第3王子でありながら、第一王位継承権を持ち得ているとのことだ。なんというチート、万能王子。


「うん、気持ちが落ち着くまで、いればいいよ」


 万能ゆえに、兄弟から妬まれる。特に二人の兄は執拗に命を狙ってくるのだそうだ。

 王子がいなければ、王位が継げる。王子がいて辞退しても、5属性もちの万能は脅威にしかならない。

 そんな王子の、ひと時でも安心できる場所になれたらいい。

 居るだけで衆人の目を引く王子だ、性格もいいし、王位につけばきっと国民を幸せに導いてくれる。


「せっかく異世界にたどり着いたんだし、今はゆっくり英気を養って、綺麗なお嫁さんをもらって、立派な王様になってちょうだい」


 いつになるかわからないけれど、今日一緒になるはずだったお嫁さんが、待っていてくれるといいね。

 結婚式も、王子が立派に国を任される様子も、異世界の私には決してみられるわけじゃないけれど。


「私は、結婚するつもりはない。 それに、ミズホには、それを言ってほしくない」


 そういうと、王子は食器を置いて、店から出て行った。

 まだ子供なのだ。異世界の自分がこちらにこられたとして、逆も必ずあると信じている。そして、私がともについてくると信じて疑わない。

 私にはこちらの生活があるし、仕事も楽しいし、十分幸せだし、異世界にいく理由などまったくない。

だから、いつかは袂を分かつ、そういう間柄だ。

 それを、王子はちゃんとわからなければならない。

 私は、王子を追いかけることなく、普通の速度で残りの料理を平らげ、会計を済ませて店を出る。

 デザートも食べたかったが、あの状況ではおいしく食べられないだろうから、帰りにコンビニ寄って買って帰ろうか。

 さて、王子はどこにいったのか。みつからなければ、この服はすべて無駄になる。


「今日成人の儀って言ってたから誕生日だし、ケーキ頼んでお祝いしたかったんだけどな」


 あの様子だと、今までのは血で血を洗う誕生日か、全く祝われない誕生日か、パーティばりの豪華すぎる誕生日か。

 どれにせよ、質素で簡素な誕生日は珍しいだろうから、喜ぶかな、と思ったのだけれど。











 私は、休憩を交えつつショッピングモールをさまよい王子を探したが、見つからなかった。

 近くにいれば黄色い声がすると思い、目印にしようとしていたのだが。

 もしかして転送魔法で戻ってくるかもしれないし、と思い、私は駅に向かった。

 すると、近くで黄色い声がしたので、もしやと思い近づいてみる。

 大きな噴水の前で、目の保養が二人いた。

 一人は王子だ。そしてもう一人は、王子より年上の美形。いかにもエリート文官といった雰囲気を醸し出している。そして、二人は知人だ。

 なぜなら、文官もコスプレだからだ。いや、異世界人ならコスプレではないのだろうが。


「私は帰らない」

「何をおっしゃいますエリック王子。 成人の儀を延期して、ようやく見つけ出したというのに」

「うるさいぞカイゼル。 私は、この地で生きると決めた。 それに……名を名乗った相手もいる。私は、その者と添い遂げるつもりだ」

「名をなの……っ!?  正気ですか!?」


 昨日王子が言った通り、本名を名乗るのは求婚のようだ。

 けれど、ただの求婚にしては文官の動揺は半端ない。


「では、もう契られたのですか」

「……そうだ」


 おいコラちょっと待て。知らないからとはいえ、話をねつ造するんじゃない。

 それにしても、嫌な予感しかしないのはなぜだろう。

 このままここにいたら、本当に厄介ごとに巻き込まれるような気がする。

 私は、続きを聞いてみたい野次馬根性を封印して、黄色い声を上げる女性陣のなかから抜け出た。

 うん、こっそり家に帰ろう。

 王子には申し訳ないが、知人が一緒なら、私がこれ以上一緒にいる必要もないだろうし。

 そう自分に言い聞かせて、私は駅へ向かった。


  





○ 







 部屋に帰ると、何故かどこか広く感じた。

 一晩しかいなかったのに、存在感だけが大きくて、困る。

 私は、床に王子の服を置くと、手洗いとうがいをすませ、冷蔵庫を開ける。


「コーヒーでいっか。 ケーキだし甘くないのがいいよね」


 冷蔵庫からコーヒーのボトルを取り出し、コップにいれ牛乳と混ぜる。

 それと皿をテーブルに持っていき、持ち帰りの箱を開ける。


「あ、しまった」


 ケーキは4つ。王子と二人で二日分のつもりで無意識に買っていたのだ。

 はたして、一人で食べきれるだろうか。


「晩御飯もケーキにするかなぁ」


 正直、ご飯を作る気力もなかった。

 色々教えると言っていたが、あっさり早くわかれるとは思ってなかった。

 だから服も買ったのに。


「王子も薄情だ」


 完璧に言いがかりとわかっているが、つぶやかざるを得ない。

 テーブルに顎をのせ、ふてくされていると、テレビとの直線状で、円形の光が見えた。それはじわじわと妙な模様を描いていく。


「これって、魔法陣ってやつ?」


 その円が天井に向かうと、そこから二人の青年が現れた。


「うわ、本当に転移魔法ってあるんだ。 まぁ、構造上は次元の組み方だから高位の術者ならできなくもないよね。 なんてファンタジー」


 あっけにとられながらつぶやくと、王子は私を睨みつけていた。


「どうして先に帰った」


 つかつかと私に近寄り、ぎゅっと抱きしめる。

 まるで、迷子になった子供が母親をみつけたかのようで、どこかほほえましかった。


「うんうん、ごめんごめん」


 だから、大丈夫だと頭を撫でる。

 子ども扱いされていると判ったのか、顔を上げて王子が睨んでくる。

 美形のどアップはなかなか心臓に悪い。


「なんか、知り合いが見つかったようだから、もう帰れると思ってね。 ああちょうどよかった、折角だからそこの服を持って帰ってよ。 着せる相手もいないし、日本人で180㎝以上は珍しいだろうから着られないよ」

「貴女が王子妃殿下ですか」


 文官コスプレが、私に傅く。王子妃だなんて冗談辞めてほしい。

 それより、私は聞かなきゃいけないことを思い出した。


「そこの文官コスプレさん、貴方は王子の味方なの?」


 正直に答えるかわからない。けれど、異世界にまで逃げ延びた王子を託すに値するか、見極めなければならないと思った。そう、保護者として。

 私の視線を受けて、文官コスプレは表情を和らげた。


「私の正体や王子へのあまいひと時よりも、その質問をなげかけますか」

「王子がどんだけ怯えた生活を送ってきたか、昨日だけでだいたいはわかったつもりですから。 折角異世界に逃げてきたのに、王子が信用ならない人に預けることは出来ません。 大人として、王子のしばらくの面倒を見ることにした保護者として」


 魔法を出されたらひとたまりもないが、私は全力で威嚇する。

 すると、文官コスプレは、驚いたように目を開いた後、生暖かい笑みを浮かべた。

 なにこれ、すっごい気味が悪いんですけど。


「………王子、この方のどこが王子妃なのです? 色相を見てみても、貴方への愛情は母s」

「言うなカイゼル。 そんなこと私が一番わかっている。 だから、じっくり時間をかけて妻にする予定だ」


 そういって、王子はまた私に抱きついた。

 はいはい、甘えんぼさんですね。

 先ほどのように頭をなでると、また睨まれた。解せない。


「それに、契られたという割には、掌紋も見当たらない」

「掌紋?」


 手のひらには、いくつかしわがある。見当たらないはずはない。


「その掌紋ではありません。 名を交わし、契りあえば互いの手の甲に、互いにしか見えない文様が刻まれるのです。 それが、掌紋。 それを刻めば、何人たりとも分かつことは出来ません。 私のような高位法術師だと見えるのですが」

「いや、それ誤解ですから。 私、未成年に手を出すほど変態じゃないので」


 私は前科もちにはなりたくないし、美形な高校生に手を出す変態ではないと自負している。

 すると、文官コスプレは困ったように眉を寄せた。


「そこは出しておくべきでしょう。 なんなら今晩にでも」

「ちょっと待って! 王子、結婚相手いるじゃないですか、それなのにしょっぱなから破談させるなんて」

「あいつは、メルリーナ嬢は、兄上と浮気をしている。 私を抑えて兄上が王になった暁には、あっさり鞍替えして妾になるつもりだ」

「王子が王になれば王妃になれるのに?」


 妾より王妃の方がいいだろうに。

 そう思うと、王子が口元を緩めた。


「私のような人間に、王は務まらないんだそうだ。 私も、王位につくつもりはないけれど」


 異世界の宮廷事情は、ものすごく複雑らしい。


文官コスプレははたして、敵かな?味方かな?

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