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王子様と、これから始まる物語

 晴れやかな快晴の空、大量の花びらが舞う。

 日本の一般庶民、白井瑞穂28歳は、今日結婚式を迎えます。


 ………そう、異世界に行ってから3年が経ちました。普通移動すぐ結婚となるじゃない?!

 それが、向こうに付いた途端執務に追い回された王子が外交に走り、ようやく戻ってきた即結婚だとなるはずが、私の懐妊が判り、出産後また王子が外交に走り、戻ったらまた懐妊というループの結果、国を挙げての結婚式なはずなのに、すでに二人の王子がいるという状況になっている。

 2人とも王子に似ているが、王太子は金髪、第二王子は私に似て茶色かかった黒になっている。どちらもかわいい。

 そして、三回目のループにさしかかると思いきや、耐え切れなくなった王子が外交をぶっちして結婚式を強行した。それが本日だ。


「まったく待たせてくれるじゃない」


 朱美は、扉を開けて早々言い放った。 きれいとかそういうのはないのだろうか。


「しかも王子の依存執着が判るくらいにそっくりな王子が二人もいちゃってさ」

「………だよね」


 王子は外交から帰ると、私を傍から離さない。これでもかというくらい、愛をささやくし、触ってくるしで、糖度が高すぎて少々耐えられません。


「みんなはもう来てるの?」

「うん、課長と麻生くんは王子の方に行ってる」

「そっか」


 哲兄は朱美の部署の課長になり、麻生くんも哲兄の片腕として活躍しているらしい。


「そういえば、麻生くんとは」

「なに?」


 何も聞くな、というような笑みを向けられる。

 そういえば、側近こと宰相が、水鏡に映った朱美と麻生くんを子供たちに見せて「将来の義理の父母だ」とか言っていたような気がする。

 もしかして、呪い!?


「でもホント濃い一か月だったのに、記憶になかったとはね」


 朱美があの時思い出したのは、本当に王子と宰相の事だけだったらしい。

 哲兄や麻生くんと関わっていたことも、この結婚式に連れてくるときに戻った記憶でわかったのだという。

 それは哲兄や麻生くんも同様だ。

 王子が外交でいない間、一年に一回は日本へ帰省して朱美と飲んでいたが、上司としての哲兄の話題は出ても、麻生くんの話題はまったく出てこなかったから疑問に思っていたのだ。


「瑞穂、入るぞ」


 扉の向こうから、哲兄の声がする。朱美が扉を開けると、そこに哲兄と麻生くんが立っていた。


「うわ……なんていうか、馬子にも衣装」

「哲也さん、それは………よくお似合いですよ白井さん……ああ、もう違うんでしたね」

「ややこしいから、瑞穂でいいよ」

「わかりました」


 私が返すと、麻生くんがふわりと笑う。記憶にある大人びた笑い方ではなく、自然な笑いに、どこか嬉しさを感じた。


「でも、早く先輩の花嫁姿が見たいですね。 瑞穂さんはふわふわのドレスですが、先輩ならマーメイドラインも似合いそうです。 瑞穂さん、どこかに予備があったりしませんか?」

「うん、エルが調子に乗って作りすぎたから隣の部屋のどこかにあると思うよ」

「言っとくけど、着ないからね!!」

「じゃあこのままでいいので、俺たちも式挙げませんか?」

「挙げません!」


 そういうと、朱美はすたすたと部屋を出て行った。きっとお手洗いに飛び込んで顔でも洗っているのだろう。全く素直じゃない。

 それをわかっているのか、麻生くんも口元を手で隠して笑っている。

 なんとなく、麻生くん実は宰相と同類なんじゃないかしら。


「そろそろ時間が……」

「……………きれいだ」


 扉があいたままなので、ノックもなく宰相と王子が入ってくる。新郎といえば白いスーツとか思っていたけれど、やはり王様なので豪華な礼服だ。まだ24歳と若いが、服に着られていない威厳がある。

 これが、私の旦那様になる人なんだ。

 私は、あらためて王子に一目ぼれした。


「エルも、素敵」

「………私は、今日ほどこの世界に感謝したことはないだろう。 この世界に疎まれ、逃げ出してミズホと出会い、国王になり………永遠を誓えるのだから」


 王子が私の傍により、そっと両手を取る。ここにきて3年間、王子は私の手しか取ることはなかった。貴族の中には、娘こそ王妃にと薦めてくる人もいたが、見向きもしなかった。

 あっさりと王太子が生まれたので、後継ぎ問題も起こりそうもない。

 王太子は第二王子をめっぽう可愛がり、第二王子は王太子に懐いている。きっと、王子が辿ってきた不幸なことは、子供には起こらないだろう。


「ああそういえば、私も奏と誓約してきたぞ。 娘が出来たら王太子妃にくれって」

「息子でも娘でも、将来安泰だなと思ってる」

「勝手なことして、朱美がまた怒るよ」

「いっそ双子がいいかな、なんて」

「もう………そういえば朱美遅いね」

「遅くなってごめん!! やっと講義が終わった~っ。 あ、瑞穂ちゃん綺麗!!」


 記憶より少し大人びた姿が、私に突撃してくる。


「今日は有難う、菜摘ちゃん」

「もちろんよ! 可愛い妹の結婚式なんだもん。 待ちきれなくて友達に代返頼んできた」

「そっか……嬉しい」


 私は、小柄な菜摘ちゃんをぎゅうぎゅう抱きしめる。苦しげにアワアワするのもかわいらしい。


「そうそう、哲也くんの携帯借りて、まんまとしてやったよ、今支度してるから」

「本当に連れてこれたのか……さすが菜摘」

「連れてこれたって、誰を?」


 日本から式に出席するのは、哲兄と菜摘さん、朱美に麻生くんだけだったはずだ。

 私は仮に、を想像してやめた。ありえない。

 そして、刻々と時間が過ぎ、式の時間になった。案内に呼ばれ、私は待合室の外に出た、その時、見えた姿に絶句する。


「…………なんて恰好を…」


 これじゃないだろ私、と思うが、驚きすぎたんだ。


「よく似合ってるわね、瑞穂」

「………ああ」


 そこには、貴族の礼服に身をまとった両親がいた。

 そう、私は親に勘当されてしまっていたのだ。それもそのはず、記憶を取り戻して即異世界へ渡り、たまの帰省には朱美と過ごし、そういえばと両親に会いに行って状況を報告したら家を追い出された。

 それを聞いて、王子は忙しい執務の合間を縫って、両親に会いに行ったが、結局会えずじまいだったのだという。

 両親は、異世界に嫁ぐといって驚くが反対する性格じゃない。私もエルも、順番を間違えた。それが両親の怒りの原因だ。


「お母さん、お父さん……」

「菜摘ちゃんに呼び出されたら、急にこんな宮殿に連れて行かれてね。 エルさん、本当に王様らしいじゃない」

「…………次会ったら、一発殴らせろと言っておけ」


 多分、王子鍛えてるからお父さんのこぶしが心配だけど。

 これは義理の父と義理の息子の儀礼みたいなものだと、お父さんは笑った。


「あ、あのね」

「おかーさま、きれーね」


 王太子が、お母さんのドレスを引っ張って見上げている。確かに似てるけど!


「この子、長男のリスト」

「!!!!!!」


 お母さんとお父さんが、一気に顔を蕩かせた。これが俗にいう祖父母モードというものか。

 それにしても、普段は穏やかなお父さんが、目元ゆるゆるになっている。ちょっと怖い。


「こちらが第二王子のスール殿下です」


 準備がいいメイドは、赤ん坊の第二王子まで連れてきた。両親の崩壊度がすさまじい。

 親の失敗を、子供が回復してくれるなんて。私は、後で二人の息子をかわいがることに決めた。


「菜摘ちゃん、ありがとね」

「ふふふ、恩返しできてよかったよ」


 菜摘ちゃんが、にっこりと笑う。

 そして、私は晴れやかな気持ちのまま、会場へ向かった。





 荘厳な謁見の間で、式は執り行われる。王座がある階段の下で、王子は私を待っていた。

 私が来たときには、傾きかけた国を建てなおして間もない頃だったので、臣下も少なかったけれど、安定と評判を聞いた人たちが、王子の配下になるべく集まってきて、ようやく動き始めた。

 国王はエル、そしてエルを支えるため次期宰相候補を押しのけてその座を得た、カイゼル。他、様々な人に見守られて私は今日という日を迎えた。

 一体、私はどうやって報いることが出来るだろう。王妃として、国を支えていけるだろうか。

 不安ばかりがよぎるけど、こうして、隣に王子がいるから大丈夫な気がする。


「ミズホ」


 王子が声をかけると、私は跪いて頭を下げた。王子が、その頭にティアラをつける。会場が、一気に拍手に沸いた。


「まだまだ至らない王であるが、支えてくれるか」


 王子の言葉を受け、私は立ち上がる。そして、できる限りの笑みで答えた。


「もちろん」


 私は、きっとこの日を忘れないだろう。

 どんな時でも一緒にいれば、何とかなる。3年間そうやってきて、それが続くだけだ。問題ない。

 私はこうして、普通の庶民から王妃になった。
















「父上、母上、お話があります」


 私たちがすっぽかした順序を追って、王太子が現れる。その隣には、懐かしい顔があった。


「私は、誓約に従いこの娘、麻生奏美かなみを妻と迎えることを、報告いたします」

「…………瑞穂おねえちゃん」


 さもあらん、私は奏美の前では母親である朱美の親友としか言っていなかったからだ。

 それにしてもこの制服、地元でも有数の名門校じゃない。将来エリートコースも狙えたのに、残念。


「私は、リストの母親なのよ。 そういえば、奏美ちゃんはいくつになったっけ?」

「………15歳です。 もうすぐ16になります」

「そっか、でもまだ若いし、選択肢の一つとして考えてくれたらいいだけだからね? 奏美ちゃんには奏美ちゃんの人生があるんだから」


 私は、誓約を知っていながら奏美ちゃんに言い聞かせる。まだ15歳だ、すぐに決める必要はない。


「おねぇちゃん…」

「ダメだよ奏美、私と奏美は、誓約で結ばれる定めなんだから」


 ぎゅぅ、と王太子が奏美ちゃんを抱きしめる。その表情は、身近なデジャヴを思い出させた。

 王太子、エルそっくりじゃん!!

 さすがに気づいたのか、エルが遠い目をした。うん、黒歴史になってるみたいだね。


「王様、王妃様! ノースティム家令嬢アリエナが、婚約者を捕獲してまいりましたわ!」

「ちょっ、なんだよお前っ」

奏多かなた!?」

「なんで奏美がここにいんだよ」


 ノースティム令嬢…つまり宰相の娘が連れてきたのは、麻生くんそっくりの少年。誓約の呪いなのか、朱美は本当に双子を生んだ。


「なんだお前は、私の妻に無礼だぞ」

「殿下こそ、私の夫君に無礼ですわよ」

「誰が妻よ!」

「誰が夫君だ!」


 どうやら、まだ物語は続くようである。





(終わり)

終了しました!!

なんだか最終回ってのを書いたことがなかったので、ひとしおです。

スタートとゴールしかなくて、脱線しまくりの急展開の物語でしたが、いかがだったでしょうか?

今さらながら、主人公学生にしとけば呑兵衛小説にならなかったのにと思ってたりもします。なので、朱美の双子は高校1年で異世界に連れ去られました(笑)


本当は短編で済ます予定の話を長々としてしまい、テンプレ多用した感じになりました。好き勝手に書いたので、個人的には楽しかったです、ふふふ。


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