技術大国の射撃訓練
私は先日、陸軍部隊で昇格権を得た。
我が国の軍は軍部が機密に開発した特攻隊用の空中機動装置というものがある。
人が直に装着することで、実際の戦闘機には及ばないものの、個人による単独飛行と、
それに戦闘能力を持たせることに成功している。
この機動装置は空軍と海軍に普及していて、陸軍ではめったに使われないそうだ。
みなはこの機動装置のことをA2と、そう呼んでいる。
私はこのA2を使って空を駆ける勇姿を見て、空軍に入ることを決意したのだ。
実行する軍隊には3種類がある。陸軍、空軍、海軍だ。
空軍と海軍は戦闘機や船があって初めて陸以外での戦闘を可能にするのだが、
A2があれば戦闘機を使わない空軍、海軍の出動が可能だ。
ただし、機動力、持続力は圧倒的に戦闘機や戦艦のほうが上なのは間違いない。
A2は実際に戦闘機を出すほどではない程度の低難易度の出動時や、
戦艦から単独で奇襲を仕掛ける際に有効的に使われる。
エネルギーは専用の液体燃料を使用する。この液体燃料が信じられないほどにコンパクトで軽い。
現行版のやや大きめの弁当箱の大きさのタンクでおよそ1時間連続飛行できるような優れた燃料だということだ。
また、機動力のみならず、戦闘兵器もA2の標準となっている。
手持ち兵器なら、実弾のものなら持てるならなんでももって良いが、
同様の専用液体燃料を使う兵器もすでに試作版が登場している。
単発式で弾頭がライフル程の大きさだが射程がかなり長く命中箇所から強力な爆発を起こさせる電磁砲、
中距離ほどで勝手に小さな爆発を起こし連射ができる連射銃砲、
長い溜め時間ののちに弾頭が大きく命中箇所を炸裂し吹っ飛ばす蒼電迫撃砲などがある。
どれも試作版にして、すでに大陸間にわたる攻防戦で活躍があった強力な武装だ。
これら専用燃料を使用する武装は、燃料タンクを同じく共有するため、これらの武装を使う場合は
連続飛行時間が減るため、空軍では実弾系のものが好まれる。
離陸して帰還が見込める海軍隊が戦艦から持ち出し、海から陸に向けて、一斉に何十人もの海軍兵が電磁砲を射出したときを収めた映像を見た私は心が大きく震え上がったものだ。
恐ろしいことに、A2はまだ進歩の可能性がある。
これを見据えれば、空軍のA2部隊でも強力な専用兵器の所持が標準化になるのは明らか。
アサルトライフルはビーム弾の爆発が起こる理論上の射程はおよそ100メートルだ。
もちろん、なにかに命中したときにも爆発する。これが液体燃料エネルギーのみで生成されるビーム弾の特性だ。
これが、長射程での使用に特化したレイルガンの有効射程ではおよそ10キロメートルまで伸びる。
理論上では22キロメートルでビーム弾特有の爆発が生じるらしいが、十分な射程だ。
ただし、レイルガンを搭載しているA2はかなり重装備だ。
レイルガンほどの射程になると、目標を視認することは実質不可能で、専用のスコープレンズをつけなければ長射程上で扱うことはできない。
しかし、それらの兵器を匠に使いこなす先人たちは私にこの道を進む理由を与えるに十分なかっこうよさがある。
「新人、空軍部隊志望でいいんだね?」
はい。と私は答える。案内している人物は情報統括系の部隊員だ。まだ先人には合わせてもらえない。
これから私は空軍部隊としての資質が問われる射撃訓練を行う。
この訓練に合格がもらえなければ、私は再び陸軍への帰任を余儀なくされるだろう。
長い通路をとおり、射撃訓練室へ入る。
「ここでの訓練は、この小型の電磁砲で、遠くに設置された的を打ち抜く。
たったこれだけだ。スコープの使い方は――――――――」
なるほど、スコープを使い、長射程上の的を打ち抜く訓練ということらしい。
的は4つあり、100メートル、500メートル、1キロメートル、3キロメートルの地点にある。
使うのは小型の電磁砲であるため、実質の射程はおよそ半分ほどで威力は大きく抑えられている。
そのため、射撃でこの訓練室が破損することはないそうだ。すでに人の頭部を打ち抜けない威力らしい。
スコープを装着し、電磁砲を構える。
スコープはマルチモニター式で、事前に設定した距離まで自動で視界を合わせてくれる。
モニターは自身が直接視認できる距離以外では4つのレベルが設定できて、
これらとのモニターの切替スイッチはレイルガンについている。
また、細かな照準の調整コントローラもレイルガンにあり、時間をかけて長射程で射撃の準備が行える。
残念なことに、訓練ではA2は装着させてもらえないらしい・・・。
レイルガンの弾丸を生成する射撃準備モード時は独特の機械音とエネルギーから発せられる不思議な音がある。
なんともいえない心地にさせる音だ。
モニターを100メートルの照準に合わせたマルチモニター機能でスイッチ式に切り替える。
「なんてくっきりとした視界なんだ。」
思わず声に出る。スコープ越しだというのに視界が綺麗だ。的の中心が鮮明に見える上に、
レイルガンの予測命中箇所までデジタルで教えてくれるターゲッティング機能まである。
引き金を引くと同時に、的が弾け飛んだ。的がそこから訓練室の天井まで一気に吹っ飛んだのだ。
訓練室といっても、かなーりひろい特殊な訓練室で天井まで30メートルあるはずだが、恐ろしい。
ビームの弾ける威力については直接命中したときの威力と同じだということを以前教わったことがある。
しかし、どういうわけか弾け飛ぶ距離については威力と比例しないという謎がビームにはある。
実際手にしてみると、謎めいた強みであることは間違いない。敵がこんなものを使ってきた時にはたまったものではないだろう。
続く500メートル、1キロメートル、3キロメートルの的も、スコープのおかげでいとも簡単に命中した。
「新人、やるじゃあないか。最後に、こいつを当てられたら合格だ。」
そう言って、教官がリモコンを取り出した。スイッチを押すと、どこからか戦闘機の模型が出てきた。
しかし、ものすごい速さで飛行している。
「さあ、そのレイルガンで当ててみろ。」
私は構えた。しかし、前後左右、おまけに高度までめまぐるしく変わり続ける模型。
照準を合わせる隙がない。
「教官、照準が合いません。」
「レイルガンは物理限界に近い弾速が放物線を描くように飛ぶ。弾速が早いのだから、
照準ではなく、線で目標をとらえるんだ。」
私は教官がいうままに、モニターに模型が映ったときに引き金を引いた。しかし、命中はしなかった。
続く2、3発目も虚しく空を射る。
「新人、スコープを外すんだ。」
「はい。」
私はスコープを外し、教官を見た。教官は、スコープを持っていないが、小型のレイルガンを持っていた。
「いいか、レイルガンはスコープを使えばいいってモンじゃあない。たまーにな、目視でも当てるやつがいるんだよ。」
そういうと、教官は間を置いて、引き金を引いた。遠くで、パチンと何かがはじける音がした。
視線の先には、床に落ちたあとの模型があった。
「お前も、目視で一度やってみろ。」
すぐに次の模型が飛んできた。私は、はい。と言ってスコープもなしにレイルガンを構えた。
レイルガンにも専用スコープほどではないが、照準を合わせるピントレンズがある。
デジタルの命中予測もなしにどうやってあてるのだろうか・・・。
そんなことを考えていると、不意にレンズに模型が映った。私は反射的に引き金を引くと、教官のときとおなじようなはじける音がした。
「おおおおー! やるな新人! 一発で仕留めるとは大したもんだ!」
私は、まさかと思っていたこの状況に唖然としていた。
「合格だ新人! 空軍部隊に、ようこそ! 歓迎しよう!」
我が国の技術力には本当に驚かされる。私は、めでたく空軍部隊に編入した。