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海の揺籠で眠りにつく夢

作者: 神酒

どこまでもどこまでも深く明るい海へ、

迷うことなく旅立つんだ。

身体は痛みに錆び付いて

もう動かなくて良いのだと

思うだけで底の無しの安堵と脱力感に沈む。


夏でありながらも春のように淡く柔らかな陽射しは

終わらせたいでも戻りたい、と心の矛盾を物語る。

その矛盾こそが唯一旅立とうとする想いを引き留める錨だった。

だが錨に繋がれた鎖は錆びに侵食され脆く砕け始めていた。

この身体はくたびれ果て動かすには重すぎる。

引き留めるものなど、もうないのだ。


この日の為につくった木の小舟の上にゆらりと立ち上がる。

その所作が目を開きながら夢を歩む者さながらであれば

いくらか幻想的、快い奇怪さが漂い良いのではないかな。

なんの前触れもなく、なんの音沙汰もなく。地に海に山に野に光が降り注ぐように自然に。


どこまでもどこまでも深く明るい海へ、

滑り込むように顔から水に落ちた。

海水は真水のように、真水は酸素のように意識の何処かですり替わる。

陽光に温められた海水が肌に心地良い。

銀の穎果、水中の星屑に似た泡粒は螺旋を描いて頬を首を撫でてゆく。

水は身体を通り抜けては手繰り寄せ自分という一枚の葉を深みの抱擁へ誘う。


ゆらりゆらり


不同の漂いが移り移ろう只中。

水はただ青く、光は連なり揺らめく不揃いな輪になって。

ふと、そこに自分以外の生物はいないのだと気がついた。

一抹の孤独が心の深淵に輪をひろげるかと思えば

疲れた心には鈍く触れただけで気にならない。


これから、長い深い眠りにつくのだから。


それでも今目に映るものをありのまま目に焼き付けようと無意識が働く。

『今』という境に立っているからなのか、

世界がぼやけながらきらきらと美しい。


目に映るどこまでも青く揺らめく光と水の世界。

時折銀の淡い光が真昼の蛍のように飛び交う。

その光景を焼き付けたくて、でも酷く強引な睡魔に

うつらうつらと徐々に瞼を伏せては開いた。


深みに沈めば沈むほど、心の矛盾に気付いてしまう。

精神は鉛の鎖に繋がれてどこまでも明るい海の深みへ沈んでいく。

神経の末端のどこかが駄々をこねるように抗うが、

それは眠気という親猫を前に無意味な抵抗をしながら首根っこを咥えられる仔猫以外の何でもなかった。


それでも、今は。


どこまでもどこまでも深く明るい海へ、

永久を渡る流れ星のように落ちてゆく。

瞼が閉じられる最後のときまで

矛盾に心をざわめかせ

瞳に映るものを焼き付けよう。



Ende.

お読みいただきありがとうございます。

力不足。もっと精進せねば。

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