A-0「ビジョン」
まだ、生きている。
少し寝た間にも、すっかり手足は動かせなくなったが、心臓の音は聞こえていた。
意識はあるが、全身の酷い痛みも、何だか麻痺してきてよく分からなくなっていた。
自分の中の感覚だけが切り取られてしまったようだ。
……眠い。
激しい睡魔に襲われて、何だか意識も遠のいていく。
もうすぐ、死ぬんだ。
今更ながらに涙が頬を伝った。どうしてか身体が震えている。寒さからではない、恐怖から震えている。
怖い。
怖いよ。
死ぬのが、怖い。
微かに唇を動かすと、声を絞り出そうともがく。
「たす…………か……ら……」
助けを求めると同時に何か聞こえた。
誰かの叫び声らしかったが、今の自分の耳では上手く聞き取ることが出来なかった。
頭を動かされたのか、視界にうっすら黒が映る。
人の頭だと分かったが、ぼやけて誰だか分からなかった。
河村だったらいいのに。
どうしてだろう。最初はあんなに毛嫌いしてたのに。
何かを身体にかけられ、抱きしめられたのか、頬から微かに温もりを感じた。耳元で囁かれる。
「馬……やろ……馬鹿……や………」
震えていた。
冷たい何かが恵那の顔を濡らした。
それは、暖かい。
徐々に視界の範囲が広がる。
暗く、はっきりとしない頭に白だけが飛び込んできた。
光だ。
その瞬間何とも言えない感情が恵那の全身を駆け巡った。
これだ。
自分の探していたのはこれだったんだ。
暖かい温もり、暖かな世界。
そこには無限のビジョンが広がっている予感がした。
END
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。
何度か挫折し、どうしようかと悩んでいた時期もありましたが、自分なりに形にすることが出来てよかったです。書き始めはラストしか考えていなかったのですが、自分で書いていてもこういう展開になるとは思いませんでした。キャラに任せっぱなしで計画性のない証拠です。だらだらと書き綴っておりました。
かなり文章にばらつきがあったことをお詫び致します。また、次の作品で会いましょう。ありがとうございました。