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B-9「違和感にて」

相変わらず騒がしい我が家に戻ってきた河村は急いでこたつの中に入った。もう手袋をしていても、手がかじかむ。

河村は手足を労るかの様に暖めた。


「退けよ、優二兄!みんな寒いんだよ」

 

そう言って小学五年生の次男が河村を突き飛ばす。次男の攻撃をお構いなしに、河村はそのまま転がってテレビを眺めた。夜のお笑い番組が始まっている。

そう言えば神崎の家、暗かったな。まだ誰も帰って来ないのか。あんな広い家じゃ、テレビも大きいだろうなぁ。下の弟達がチャンネル争いを始めたので、テレビすら見ることが出来無くなった河村は、仕方なくこたつからでると母親の元に行く。晩御飯のカレーを作っている最中だった。


「……何か手伝うこと、あるか?」


「どうしたの優二。あんたちょっと熱でもあるんじゃないの?」

 

母親が怪訝そうに河村を見返す。河村は「酷いなぁ」と言ってその場を後にした。神崎の家も夕食時だろうか。もうすぐ二十時を回ろうとしていた。雨が激しく降っている。すぐ横の窓ガラスを容赦なく叩きつけていた。


『明日の放課後……終業式が終わったら、更衣室で待ってるから』

 

神崎の言葉が頭に過ぎる。終業式が終わったら、か。

……まてよ。じゃあ、絵はいつ仕上げるんだ?早朝に仕上げるつもりなのか?朝は水嶋と登校すると決めていた筈だが……。


河村は違和感を覚えた。急いで神崎の携帯に電話してみるが、出ない。仕方無しにお姉さんの番号に電話した。


『……もしもし、また君なの?』


「突然すみません。あいつ、家にいますか?」


『居ないわよ。恵那なら美雪ちゃんの家にお泊りだってさ』

 

全身に鳥肌が立った。あいつは今、家にいない。


「それ本当ですか?あいつから直接聞いたんですか?」


『お母さんの留守電に入ってたのよ。今日は美雪ちゃんの家に泊まるって』


「俺、今日あいつを家まで送っていったんです。でも、一言もそんな事……」


『……確認してみるわ。ちょっと待ってて』


「いや、俺の方からかけてみます!」

 

河村は慌てて全クラスの電話番号が載っている帳簿を取り出した。母親と兄弟達が変な目で河村を見つめる。水嶋の家に何コールか待った後、繋がった。


『もしもし、水嶋です』


「すいません、美雪さん居ますか?」


『……あたしですけど。どちら様ですか?』


「俺だ、河村だよ!神崎はそこにいるのか」


『……いるわよ。どうしたのよ、またそんなに慌てて』


水嶋が呆れた調子で言う。河村はほっとすると、神崎の声を聞こうとした。


「だったら代わってくれ。神崎に用がある」


『…………今ちょうどお風呂に入った所よ。用件があるなら代わりに聞いておくけど』

 

水嶋の声が違う。河村は変だと思いもう一度尋ねた。


「おい、神崎はそっちにいるんだろ?」


『…………』


「急用なんだ、お風呂に入ってようが代わってくれ!携帯に電話しろと伝えてこい!」


『…………』

 

水嶋は答えない。


「どうした、早くあいつに言えよ!」


『それが…………』


「何だ!」


『ごめん実は居ないのよ、恵那』

 

河村は愕然とした。


「おい、どういう事だよそれ!」


『今日は学校に泊まるから、あたしの家で泊まっているように言えって』


「お前に嘘をつかせたのか!」


『明日の、あんたとの約束に間に合わないって、恵那が言うから……』

 

水嶋の声が泣いていた。


「………っ!悪い、また電話する!」

 

河村は慌ててジャケットを羽織ると、携帯と傘を手に外へ飛び出した。


「優二、何処に行くのよ!」


「悪い、急用ができた。先に食べててくれ」

 

母親の言葉をかわすと豪雨の中、学校へと走った。雨と風が河村の行く手を遮る。

かじかむ手で携帯を開き、時刻を確認するともう二十時半を過ぎていた。河村は嫌な汗を拭うと、そのままお姉さんに電話する。


『はい』


「神崎はいなかった!水嶋に嘘つかせてたんだ!」


『じゃあ恵那は何処にいるのよ』


「更衣室だ!もう間違いない!」


『私も行くわ。君の方が近いんだから全力で止めなさい。じゃないと殺す!』


勢い良く電話を切られた。脅されなくても全力で止めてやる。

河村は傘も邪魔でその場に捨て去った。髪が濡れようが、服が濡れようが関係ない。全速力で雨の中を走る。視界が見づらく、呼吸もしづらかったが、急いでプールへと向かった。


……更衣室の窓が開いている!

 

河村はフェンスに飛びついて登った。雨で手が滑り、思うように早く登れない。それでも急いでプールサイドに飛び降りると、普段使っているホースが蛇口と更衣室を結んでいるのが見える。



「神崎っーーーーー!!」

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