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C-6「帰宅後にて」

杉浦に最寄の駅まで送ってもらい、普段の帰宅通りに家の玄関を開けると、恵那の姿があった。


「恵那!あんたどうしたのよ、こんな所に座り込んで!」

 

薄暗い玄関の壁にもたれる様にして恵那が座っている。よく見ると泣いたのか目が真っ赤に充血していた。


「おねえちゃん…………お母さんが…………お母さんが帰ってこないよっ…………!」

 

震えて訴える恵那を、志穂は靴を脱ぐのも忘れて抱きしめた。何て事だ、あのばばぁも自分達から離れてしまったとでもいうのか。もうお終いだ。この家庭はもうお終いだった。


「恵那、連絡はしてみたの?」


「うん。でもずっと留守電みたいで……どうしよう、お母さんに何かあったのかな」

 

志穂はとりあえず落ち着いて話そうと、冷えきった恵那の体を支えてリビングに入った。暖房器具のスイッチを入れて、恵那に暖かいココアを出してやる。


「とにかく今は連絡を待つしかないわ…………私もかけてみるね」

 

携帯からばばぁの番号を探し当てると、コール音さえ急かし立てるように耳を押し付ける。駄目だ、すぐ留守番電話に繋がってしまう。


「お姉ちゃん、お母さんは…………お母さんは帰ってくるよね?」

 

涙を懸命に堪えた、震える声で恵那が尋ねてきた。


「大丈夫、何も心配することないわ。お母さんは私達を見捨てるような事はしない、絶対に」


「………………」


「少しお話しましょう、恵那」

 

志穂は恵那の横に座ると抱き寄せた。さて、どこから話してやるべきか。


「恵那はお父さんの事、気付いてる?」


「……帰って来てない事?言いたくないけどお父さん、たぶん浮気してるんだよね」


「そうね。頻繁に出張に行ってたら、嫌でも気付くわね」


「お姉ちゃんはいつから気付いてたの?この家の異変に」


「私は……いつからと聞かれてもわかんないけど、たぶん恵那より先に気が付いてたかな」


「そっか」


「恵那、あのね……聞いて欲しい話しがあるの」


「何?」


「あのね、私は恵那と一緒に――――」

 

トゥルルルルルルッ……

けたましい音がリビングいっぱいに広がった。電話だ!志穂が慌てて受話器を取った。


『………………………あぁ……』


「もしもし?お母さんでしょ、今まで何処で何してたのよ!」


『志穂……お母さんどうしていいのかわかんなくて……………ごめんなさい、本当にごめんなさいっ……!』


「何処にいるのよ!お母さん!」


『……っひ……今は……実家にいるわ…………ごめんね……志穂っ……』


「とにかく話しを聞きたいから、一度家に戻ってきてよ!お母さんっ!」


『………………っう………』


「お母さんっ!!」

 

半泣きになりなながら、必死に受話器を握り締めていた。この人だけは繋ぎ止めておかなければならない。なんとしてでも。ばばぁの実家は確か県境の何もない所にあったはずだ。もうすぐ日付が変わろうとする今、何の移動手段を持たない子供はやはり待つことしか出来ない。


「明日の……お昼までには絶対に帰ってきてよ…………私も恵那も明日は学校お休みにするからさ…………ちゃんと……ちゃんとみんなで話しあおうよ……」

 

自分の声が震えているのがわかる。今ここで母親にまで見捨てられたら、自分達は一体誰にすがればいいのだろう。そんな最悪な事態はまだ考えたくなかった。


『……ごめんね……心配させて…………明日には帰るから…………ごめんねっ…………』


「………………っ」


弱々しい母親の声をこれ以上聞きたく無い。志穂は無言で受話器を置いた。ばばぁに何が起こったのか見当はついている。父の浮気を知り、実家に逃げ帰っただけの話。だが問題は残された自分達の方だ。父親の浮気など子供がどうこう出来る問題ではない。結局は夫婦二人の問題だ。自分達は親の巻き添えを受けた、ただの無力な子供に過ぎない。社会の法律がそれを証明している。

志穂はため息をつくと恵那の隣に座り直した。


「お母さん、明日のお昼までには帰ってくるって。明日は学校お休みしましょ」


「……………」

 

恵那はマグカップの底を見つめながら微動だにしない。その姿にこれ以上かける言葉が見つからなかった。


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