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C-5「夜のドライブにて」

「ねぇ、どうして本当の事言ってくれねいの?」


「本当の事って?」

 

ここは駅前の喫茶店。志穂は先日も会った杉浦と一緒に、早速季節限定パフェを食べていた。


「私に近付いた目的よ」


「あのねぇ、僕昨日も言ったよ?ただ君とこうして食事を楽しみたいだけなんだって」


「…………」


「今日は君から突然の呼び出しで来たけど……何かあったのかい?」


「別に。ただ甘い物が食べたくなっただけよ」

 

ぱくりと最後の一口を食べ終える。


「そう?美味しいでしょ、ここの季節限定パフェ!僕も初めて出会った時は毎日食べに来てたよ」

 

杉浦が自慢気に言った。志穂はその姿に何とも滑稽な男だと笑った。自分の突然な呼び出しにも順応に反応してくれる。今日は何としてでもこの男の家に行って、その澄ました正体を暴いてやる。


「ねぇ、杉浦の家はここから遠いの?」


「いや、ここから車で五分くらいの所にあるよ。どうしてそんな事聞くのかな?」


「今晩、お邪魔したいと思って」

 

上目遣いに杉浦を見つめた。大抵の男はこれで理解出来るだろう。


「はは、いきなりそんな事言われても困っちゃうなぁ。今、家に人をあげれる状態じゃないしね」


「散らかってるの?なら掃除するわ」


「いやいや、大体もうこんな時間だし……また次の機会にでも。それまでに僕が掃除しておきますから」


そういって杉浦は伝票を持って席を立った。が、志穂はその手をすかさず掴んでこう言った。


「家に帰りたくないの……」


「…………」

 

杉浦は黙って席に座り直した。こう言ってしまえば勝ったも同然。後は成り行きに任せればいい。こいつも所詮は男。自分を抱きたいに決まっている。


「両親が心配するだろう」


「親なんて、あってないようなものだわ」


「そうか。でも妹さんが心配するんじゃない?」


「今日は私、塾に行く日だから大丈夫よ」

 

こいつ、妹がいる事まで知ってるのか。何処までストーカなんだか。


「さぼったのかい?悪い子だね君は」


「別に良い子ぶった覚えも無いわよ」


「わかった。僕も正直君ともう少しお話したいしね……出ようか」

 

何を言うことなく志穂の鞄まで持つと、杉浦はさっさと会計を済ませて店を出た。


「車持ってくるから、ちゃんとそこで待ってるんだよ」

 

そう言うと鞄を大げさに肩からぶら下げて、駐車場の方へ歩いていった。別に鞄を人質に取らなくてもここから逃げやしないのに。用心深い奴。

志穂はぐるりと辺りを見渡した。通勤帰りのサラリーマンや、部活帰りの学生、その他もろもろの人達が改札口へと収容されていく。その中に突っ立ている自分は、何だか流れに逆らっているようだった。


「お待たせ。さ、助手席に乗ってよ」

 

杉浦が開けたドアの中に乗り込む。今更後悔とか罪悪感なんて無い。志穂がシートベルトを締めると、杉浦が「偉いね」と言って褒めた。


「それくらいの常識はあるわよ」


「失礼、お嬢さん」

 

杉浦がにっこりしながら車を発進させる。辺りはすっかり暗くなっていた。


「君は両親と仲良くないみたいだね」


「まあね」


「親は嫌いかい?」


「嫌いよ。早くあの家から出たいわ」


「君くらいの年頃だと、一度はみんなそう思うさ」


「……私はずっと前から考えてたわ。物心付いた時から」


「随分とませてたんだね。そこまで家が嫌いかい?」


「あそこには自由なんて無い。あるのは母親の強制だけよ」


「いろいろ苦労してるなぁ。お父さんは何とも言わないの?」


「父はいつも見てみぬ振りだった。仕事を理由に他の女と出て行く様になって……たぶん、もう家には帰って来ない」


「……そっか」


昨日部屋を荒らして確認した。貴重品類は全て無くなっていた。いつかこんな日が来るだろうと覚悟はしていた。自分達が捨てられる日が。父が出て行く日が。でも早過ぎる。せめて自分が卒業するまで耐えてくれればいいものを。

唇を強く噛んで泣くのを堪える。何を話しているんだろう、こんな正体もよく分からない男なんかに。しばらくそっぽを向いていると、杉浦が話しかけてきた。


「海でも見に行こうか」


「は……?これから行くの?」


「嫌な事を忘れるのにはもってこいだよ」

 

車のスピードが少し上がった。しばらくすると車は海沿いの道に出た。


「最初から家に招待する気なかったでしょ」


助手席から睨みつけると、杉浦は笑った。


「あれ?わかっちゃった?」


「駅から近いって言ってたのに、市外へ行く道に乗るし……もう二十分は走ってる」


志穂はむすっとすると杉浦は「ごめんごめん」と言って車を海岸沿いの路側帯に止めた。


「でもたまにはドライブもいいでしょ?特に夜なんか」


「そうね……」

 

志穂と杉浦は車から外に出ると、遙か彼方まで続いているであろう海を見渡した。もう辺りは暗くて地平線など見えやしない。近くで音を立てる波だけが、海の大きさを表わしていた。


「やっぱり風も強いし寒いね……大丈夫かな?」


「これくらい平気よ。いつも足出してるしね」

 

スカートを少し捲し上げると、杉浦が慌てて目を逸らした。


「そんな事、女の子が易々するもんじゃない」


「…………むっつりスケベ」


「何か言ったかな?」


「別に――」

 

それからしばらく二人無言で海を眺めていた。遠くに見えるのは遊園地か何かのテーマーパークの灯り。夜のライトアップされた観覧車がここからでもはっきり伺えた。向こうはまるで別世界の様だ。ここにいる自分は何処へ向かおうとしているのだろう。その先に、明るい未来はあるのだろうか。全てがやるせなくて、そして悲しかった。こんな世界、全部波がさらってくれればいいのに。志穂が期待をして海を覗き込んだが、そこには闇しか見当たらなかった。


「そろそろ車に戻ろう」


「うん……」


名残り惜しみながら助手席に乗り込む。


「また来ればいいさ。家まで送るよ、どの辺りかな?」


「…………」

 

はっきり言ってまだ帰りたくない。しかし向こうの別世界に憧れた志穂は、杉浦がそこに連れていってくれるような気がした。


「またドライブに連れてってくれる?」


「お安い御用さ、お嬢さん」

 

車が行き先を告げる前に発進した。







「ただいま~」


灯りの点いていない玄関で、恵那は一人呟いてから家に上がる。誰も家にいないみたいだ。お姉ちゃんは多分塾だろうけど、お母さんがいないのは少し変だった。今日はお休みの筈。もう二十時近いというのにどうしたのだろう。

恵那はリビングに入って誰もいない事を確認すると、冷蔵庫の中を覗いた。晩御飯すらも、今日は用意されていないみたいだった。


「どこに行ったんだろう、お母さん。急用だったのかな?」


恵那は何だか嫌な胸騒ぎを覚えた。


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