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A-17「家族にて」

放課後になり、恵那はさっそうと買い込んだ画材を連れてプールへと向かった。河村は結局来なかった。やっぱり昨日あちこち連れ回したせいだろうか。それとも他に何かあったのかもしれない。どちらにせよ今日から本格的に色塗りを開始するつもりだった。河村の事が少し気がかりだが、それよりも正直絵を描きたい気持ちの方が強い。いつもの通り細道からプールサイドへと侵入した。


「テストも無事終わったし、後は仕上げてあげないと」

 

更衣室の扉を開けると、そこには本日欠席したはずの河村がいた。


「よぉ、そろそろ来ると思ったぜ」


「河村!あんた今日欠席じゃなかったの?」

 

慌てて更衣室のドアを閉めると荷物を下ろす。河村は「あぁ」と言って先を続けた。


「実は五歳の妹が急に熱出しちゃってさ。一日看病してたわけ」


「こんな所に来てて大丈夫なの?」


「母さんが帰ってきたから大丈夫さ。テストだけさっき貰って来た所」

 

そう言って答案用紙をぴらぴら見せる。……自分より点数がいい。


「おや?そのしかめっ面はもしかしてこれより点数が低かったのかな?」

 

河村が意地悪く尋ねる。


「何よ!点数でも自慢しに来たわけ?」


「あはは、お前ってやっぱりわかりやすい奴だな」

 

河村がそう言って机の上に座った。


「いや、昨日、気にしてたみたいだからさ」


「昨日の?……あぁ、お姉ちゃんの事ね」

 

スパゲッティ屋で見かけた、いつもとは別人のお姉ちゃん。あんなに怒った姿はお母さんにも見せていないだろう。


「話は出来たのか?」


「ううん。昨日はもう寝ちゃってたみたいだし、今日も朝早かったから」


「そうか。神崎って、お姉さんと仲良いのか?」


「悪くはないと思うけど、そこまで仲が良い訳でもないと思う」


「ふーん。姉妹ってそういうものなのか?」


「一般的な姉妹って、こんな感じだと思ってるけど」


「まぁあんまりべたべたしてるのも気持ち悪いしな。俺の所は次が六年生の弟だし、妹なんて一年生と、さっき看病してきた五歳の二人だけだからなぁ」


「男の子が多いんだ」


「ああ、毎日喧嘩ばっかりだぜ」

 

河村がやれやれと言った感じに笑う。恵那はその姿を見て、心から羨ましいと思った。


「ねぇ河村、家族って何だと思う?」


「どうした、急に?」

 

あまり干渉してこないお姉ちゃん。狂ったように勉強を強制するお母さん。最近はましになってきたけど。そして家に帰ってこなくなったお父さん。……いつからだろう、こんな風になってしまったのは。ここで絵を描き始める以前から、既に壊れてきていた。今の家族関係がまともじゃない事はいい加減理解していたつもりだ。特にお父さんの顔はしばらく見ていない。お姉ちゃんは気付いている筈だ。とっくの昔から。それでも子供にはどうする事も出来無い。ただ見守る事しか出来無い。こんな事、河村に聞いてどうしたいんだろう。今更どうにもならないのに。


「ごめん何でもない。そこどいてくれる?今日から本格的に仕上げていくから」


「あ、あぁ」

 

それから恵那は絵に没頭した。その姿を少し後ろで河村が見守る。何も言わずに静かに。もしかしたら寝ているのかもしれないが、それでもかまわなかった。その時の自分はただ、誰かがそばに居てくれるだけで嬉しかったんだ。      

「ありがとう、河村」


「ん……」


冷たい空気が漂う中、二人は同じ時間を過ごした。


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