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C-2「メールにて」

お昼ごはんを食べて、とりあえず机に座ってはみたものの……駄目だ、気がちって集中出来そうにない。明後日、何着て行けばいいんだろう。


恵那はふらっと席を立つと、洋服ダンスをあさり始めた。普段制服と言う決められた服装しかしていないため、こういう時どういった格好をしていいのかわからない。でも、デートなんだからそれなりに可愛い格好はしたい。恵那はワンピースを何点かベッドの上に広げると、吟味し始めた。こっちの服の方が可愛いけど、ちょっとフリフリが多いし頑張り過ぎかなぁ。でもこっちはシンプル過ぎな気もする。何度も鏡の前で着てみては、ああでもないこうでもないと自分を辛口に評価する。美雪と買い物に行く時以上に慎重に選んでいった。


「やっぱりこれにしよう!」


ちょっと大人しめの、わりとシンプルなワンピースを着て行くことにした。後はこれに似合う靴と靴下と上着に鞄に……まだまだ吟味するものはいっぱいありそうだ。


「お姉ちゃんに何か借りようかな」

 

恵那よりお姉ちゃんの方が服をたくさん持っている。あいにく体系もそこまで違いは無いので、二人で貸し借りも十分可能だった。


「お姉ちゃん今部屋にいないけど、服をちょっと見るくらいならいいよね」

 

恵那は部屋を出ると足早に隣のお姉ちゃんの部屋に入った。勝手に部屋に入ったら怒られる。少し罪悪感もあるが、服を見るくらいいいだろう。

恵那はなるべくお姉ちゃんの部屋の物に当たらないように進むと、慎重に洋服ダンスを開けた。やっぱり自分より可愛い服をいっぱい持っている。こんな服、お姉ちゃん持ってたっけ。結構派手なのが多いなぁ。他の引き出しも開けて見ていると、下から玄関が勢い良く開けられた音がした。

お姉ちゃんが帰ってきたんだ!恵那が慌てて引き出しを閉めると、何事もなかったかのように自分の部屋に隠れ戻った。危ない危ない。勝手に部屋に入ったのがバレるところだった。恵那はお姉ちゃんの足音を、椅子に座ってやり過ごした。






くそっ!腹が立つ。

 

志穂は玄関のドアを勢い良く開けるなり靴を脱ぎ捨てた。やってらんない、あんな男。こっちから願い下げだ。ふざけやがって。一文無しで会いにくるんじゃねぇよ。

 

志穂はどかどかと家にあがるとリビングに入った。ばばぁは仕事か。親父はどうせいつもの所にでもいるのだろう。志穂は冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出すと一気に飲み干した。ちくしょう!イライラする!

空のペットボトルをソファに向けて思いっきり投げる。今思えば一発ぐらい殴っておけばよかった、あんなクズ。鞄から携帯を取り出すと、一目散にあの男からのメールを全て消し、着信拒否登録をした。もうこれであの男とは終りだ。早く次を探さなくては。志穂はソファーにふんぞり返り、次々と送られてきていたメールリストを見ていると、ふとある一通のメールに目が止まった。


『件名 僕は君を知っている。

 本文 ようやくこのメールを見てくれましたね。君とは一度男女関係なしで会いたいと思います。一緒に夕食でもしませんか、神崎志穂さん』


ドクンと心臓が高鳴り、えぐられた。自分の名前がばれている。配信日は二日前、ペンネームは白いカラスとかいう男。これはもしかして脅しなのかもしれない。いや、絶対にそうだ。でなければわざわざ本名をメールで打ってくるなんて事はしない。

だとしてもどうして本名がばれた!プロフィールの写真すら首から下しか載せていない。あんなので誰か気づいた奴がいるとでも言うのか。志穂は髪を掻き上げるとこの男にどう返信すべきか考えあぐねいていた。漢字までピタリと当ててきたんだ。向こうは間違いなく自分の事を知っている。誰なんだ、この白い鴉とかいう男は。


とりあえず「二日後に会いましょう」と返信を打つと、携帯を手放した。ちくしょう!何でばれたんだよ、次から次へと厄介事ばかり増えやがって。最悪だ!

床に落ちた携帯電話を拾うと、鞄を持って二階へと上がった。とりあえずこの男に会ってみなことにはわからない。これを気にゆすってくるつもりなら、早めに対処もしないといけない。全く、面倒な事になりそうだ。一呼吸置いてから自分の部屋に入る。恵那は玄関に靴があったから、たぶん隣りの部屋で勉強でもしているんだろう。まだテスト期間だった筈だ。中学生の時の自分は、あそこまで純粋だっただろうか。いや、思い出すのも馬鹿馬鹿しいか。


ふと洋服ダンスを見ると、赤い服が少しはみ出してしまわれている。


「恵那め、勝手に人の部屋に入ったな」

 

軽く舌打ちすると、他にも探られていないかと引き出しの中もチェックする。今まで稼いできた現金は、全て下着の引き出しの中に隠してあった。そこを真っ先に確認する。よかった、現金は無事だ。どうやらがさ入れしたのは洋服ダンスだけらしい。服でも借りるつもりだったか。

制服を脱ぐと、ハンガーにかけるのも面倒くさくて床に投げ捨てた。とりあえず今日はもう寝てしまおう。嫌な事を忘れるのには寝るのが一番手っ取り早い。昔からそうしてきたんだ。夢の中で一時的にでも現実逃避しなくては。志穂は布団を深くかぶると世界から身を隠した。


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