表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/41

A-14「テスト後にて」

カリカリカリカリ……


次のテストが始まった訳だが、今そんな事に集中できるはずが無い。いや、出来る心境じゃない。まだ顔の火照りが収まらなかった。


「…………」


先程から何回も河村の背中を見つめてしまう。どういうつもりなんだろう、河村は。また自分をおちょくるつもりなのか、それとも本当に……本当に?何を考えてるのよ。河村は多分昨日の事もあって、善意で誘いに乗ったというか、自ら荷物持ちを立候補してくれただけよ。変に舞い上がってないで今はテストに集中しないと……。




後ろで鉛筆の音が止まっている。やっぱりさっきの自分はどうかしてた。あんな言い方、あんな態度をとったらばればれじゃないか。

河村は先程の自分の行動に恥を覚えていた。顔がまだ熱い。もうテストどころじゃない。次にどんな顔で神崎に話しかければいいんだ。いっその事、さっきの話は無かった事にってのは、いくらなんでも失礼だよなぁ。くそっ、テストでもこんなに悩んだ事ないぞ。


「後残り五分だ。しっかり見直すように」


教卓の前でふんぞり返っている先生がそう言った。河村は答案用紙をざっと見直すと机に伏せる。このテスト、殆ど選択問題で助かった。もし数学とかだったら間違いなく自滅しているところだった。とにかくこのテストが終わった後、どう神崎と接すれば……。


キーンコーカーンコーン


河村の思いとは裏腹に、テストはあっさりと終わりを告げた。後ろで神崎が椅子を引いて席を立つ音がする。とりあえず平常心だ、平常心。

神崎が黙って裏返しのテスト用紙を順番に集めていく。河村は神崎の後ろ姿を目で追った。振り返って席に着いてからが問題だ。


「…………」

 

駄目だ。顔を見れない。何て情けないんだろう。自分から言っておいてこのざまとは。これではナンパなんて到底無理だろうな。

河村は窓から外を眺めて、テスト回収後のざわめきが止むのを待った。とりあえずいつ画材を買いに行くのかだけは決めておかないと。河村は覚悟を決めて後ろに振り向いた。


「あ、あのさぁ」「ねぇ、河村」


河村と同時に神崎も喋る。


「……先に言えよ」


「……河村からどうぞ」


「…………」


「…………」

 

そして互いに譲り合う。


「……たぶん話は同じだろうけど、画材はいつ買いに行くんだ?」


「……私もそれを言おうとしてた。テスト最終日はどうかな?午前中にテスト終わるし、ゆっくり買い物もできると思うんだけど」


「それじゃ明後日か。何処まで買い物に行くんだ?」


「えっと、隣の市にある、大きな画材屋さんに行こうと思ってるんだけど」


「じゃあ電車だな。テスト終わって、着替えたら駅に集合……で、いいよな?」


「う……うん」

 

河村から目線をそらしながら神崎が頷く。


「…………」


神崎ってこんなに。


「ほらみんな席に着いて。早く帰るわよー」

 

可愛い奴だったか?






やっぱりこれって、デートだよね?

挨拶が終わるなりさっさと帰った河村を尻目に、恵那はぼーっと椅子に座っていた。何だか大変な約束をしてしまった。心臓の音が鳴り止まない。友達とはいえ、男女二人でお出かけなんてデート以外に考えられなかった。それともただ単に買い物に付き合ってくれるだけでは、俗に言うデートのガテゴリには含まれないのかな。

恵那が難しい顔で荷物を鞄に詰めていると、不意に肩を叩かれた。


「お疲れ、早く帰ろう恵那」

 

隣のクラスの美雪のお迎えだ。恵那は美雪に「買い物の付き添いもデートになるの?」と軽い調子で聞くと、即座に美雪が叫んだ。


「えっ!デートするの!?」


「ちょ、ちょっと声が大きいよっ!」

 

恵那は赤面して誰かに聞かれてないか辺りを見回してみたが、皆テストが終わって浮かれているせいか、美雪の声に耳を傾けた人はいなさそうだった。


「ごっ、ごめん恵那」

 

美雪もしまったという顔で辺りを見回す。


「それにしてもどうしたの?もう河村とデートする仲にまで進展しちゃったわけ?」


「違う!私がただ画材買いに行かなきゃいけないって言ったら、俺も一緒に行っていいかって聞かれて」


「で、オーケーしたの?」


「…………」

 

恵那は顔を真赤にして俯く。


「はー……」

 

美雪がその様子に口を開けた。


「よかったじゃん。二人で仲良くお買い物デートしておいでよ」


「ど、どうしよう。私デートなんてしたことないよ!」


「あたしだってないわよ!……でも相手が河村なら、そんなに緊張することないと思うけど」


「そ、それもそうだけど。変に意識しちゃうというか……」


「恵那、もしかして河村のこと……」


「…………」

 

嫌い、ではない。でもはっきり好きかと言われるとわからない。『好き』の境界線は何処からなのか。相手を意識しだしたらそれはもう好きって事なのか。こういう感情自体が好きって事なのか。どちらにしろ、まだ結論を出すには早い気がした。


「まだ……わからないよ」

 

美雪が複雑そうな目で恵那を見つめる。


「まぁ、自分の感情なんて一番わかりにくいものだしね。でも恵那の場合はもうすぐ答えが出ると思うけどなぁ」


「そう……かなぁ」


「とにかく恵那はしっかり買い物して来ればいいの!それでその荷物を河村に持ってもらう……以上!」


「……わかりやすいね」


「ほら、もうみんな帰っちゃったよ。あたし達も早く帰ろう」

 

気がつくと教室には二人以外誰も残ってはいなかった。恵那は美雪に半ば引っ張られるようにして教室を出た。ようやく心臓の音は正常に戻ったようだ。


「恵那達がデートするんだったら、あたしは美容院でも行こうかしら?」

 

美雪が髪の毛を指で絡ませながらつぶやく。


「あれ?のばしてるんじゃなかったっけ?」


「ここまで長かったらもう十分だよ」

 

そう言って美雪は胸の位置まである髪の毛をひょいと摘まんで振る。恵那より少し長い位だろうか。多少くせ毛のある自分と違って、美雪の髪は細くてさらさらしてるから羨ましい。


「うん、やっぱり美容院に行こう!」

 

美雪が自分自身を納得させるように今度は叫んだ。それから二人は「また明日ね」と言って別れた。


デートなのかなぁ、やっぱり。とにかく明日と明後日のテストを頑張らないと。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ