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A-13「中間テストにて」

河村が更衣室を出てから、恵那はしばらく部屋の真ん中で立ち尽くしていた。

どういう事?河村と美雪が二人で会って何か話してたって事なの?……自分の知らないところで二人に何かあったんだ。しかも自分の事で。


「何よ河村の奴……」

 

何だかもやもやして気分が悪い。恵那が腹いせに机を軽く蹴る。ガツンと虚しい音が出た。


『お前俺の事嫌いか?』

 

何でそんな事聞くのよ。確かに軽くあしらった事もあるけど、本気で嫌いだったら相手になんかしないわよ。ここまで付き合わせてもらって今更嫌いにもなれない。なれるはずがない。

知らない間に涙を流していた。悲しさからなのか、怒りからなのか。でもすごく気持ちがもやもやしている。どうして?何があったのよ。何で美雪は何も言ってくれなかったの?

恵那は涙を軽く拭うと無心に下絵の続きを描き始めた。とにかく今日は下絵を完成させに来たんだ。このもやもやは白い壁にでもぶつけてしまおう。


それから更衣室が薄暗くなるまで、鉛筆の音が鳴り止む事はなかった。






「おはよう」

 

後ろから声をかけられてようやく、恵那は美雪が近くにいる事に気が付いた。


「ふあぁ、おはよう」

 

下絵は完成したものの、それから家に帰って遅くまで勉強してたものだから非常に眠い。


「何だかすごく眠たそうね。徹夜でもしたの?」


「徹夜まではしてないけど遅くまで起きてたから……眠い」

 

恵那が目を擦りながらとぼとぼ歩く。正直これからテストが待ち構えていると思うと憂鬱でしょうがない。


「美雪、あのさぁ」


恵那は美雪に昨日の事を聞こうと思った。何故河村に怒ったのか。自分の知らない所で二人が会っていたことも聞きたかった。


「ん?何?テストの事聞かれても困るよ?」


「…………」

 

何で美雪と河村が会っていたことを気にしてるんだろう。別に河村とは何の関係もないのだから、河村が誰と会おうが関係ないじゃない。


「……やっぱり何でもないや」

 

恵那は笑って誤魔化した。何美雪に嫉妬してるんだろう。そんな恵那に対して美雪は「何よ、まだ寝ぼけてるの?」と言って先に行ってしまった。

何だか気分が晴れないまま、恵那は学校の門をくぐった。






教室に入ると否応が無しに河村の姿が視界に入る。

恵那は河村の背中に向かって「おはよう」の一言も言えずに黙って席に着いた。空気がやけに重い。自分が重くしたのか。


「それではテストを始めます」

 

先生の合図で一斉にテストが開始される。テストが始まってからも恵那の頭は冴えなかった。とりあえず昨日の時点で下絵は完成したけど、肝心の絵の具を買わないといけない。今日はひとまず帰って寝て、テストが全て終わってから作品制作を再開させよう。

 

恵那は解答用紙を程よく埋め尽くすと、机に伏せて寝る体制に入った。




「おい、解答用紙回収しろよな」

 

肩を揺すりながらそう言われて、初めてテストが終わっていた事に気がついた。どうやら本格的に寝てしまったようだ。


「もういいや、俺が代わりに回収するからもらうぞこれ」

 

そう言って河村は恵那の解答用紙を持って回収していく。恵那はその様子をぼんやりと眺めた。戻ってきた河村が言う。


「テスト中に寝るなんて不謹慎だぞ」


「……ごめん。ありがとう」

 

河村と向き合うのが怖くて、目を背けながらお礼を言うと、河村からチョップが跳んできた。


「どうだ!これで目が覚めただろう」


「痛っ……何するのよ河村!」


「昨日の事を気にしてるならすまなかった。……俺も余計な事言っちゃったしな。これでチャラな」


「何がチャラよ!今のは私がチョップする側だったじゃない」


「まぁまぁ。そういえば下絵、完成しただろうな」

 

河村が急に真顔になったので、少し戸惑いながらも頷く。


「うん、一応はね。でも大変なのはこれからだよ。あれに色つけなきゃならないし……画材もいろいろ買わなきゃ」


「どっか買いに行くのか?」


「うん。手持ちの絵の具じゃとても足りそうにもないし、他にもいろいろ買いたい物もあるから」


「その買い物、俺も付き合っていいか?」


「えっ?」

 

恵那はびっくりして河村を見た。河村の顔が赤い。それにつられて恵那の頬も赤く染まった。


「い、いや、一人でゆっくり買い物したいなら俺は邪魔しないぜ?でも荷物持ちくらいだったら俺にも出来るかと思って」

 

完全に恵那から顔を背けて河村が述べる。よく見ると耳まで赤くなってる。

ど、どうしよう。こういう時は何て答えたらいいんだろう。今のが属に言う『デートのお誘い』ってやつなの?


キーンコーカーンコーン

 

次のテストを告げるチャイムが鳴った。やばい、先生が来る前にさっきの返事をしなくては。恵那は真っ赤な顔を必死に隠しながら、前に座っている河村の袖を軽く引っ張った。


「お願い……します」


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