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A-11「第二報告会にて」

部屋に入るなり志穂はすぐにドアを閉め、恵那が二階に上がってくる気配がないか確認してから改めて携帯を開く。

あの馬鹿男、今日は連絡してくるなって言ったのに。しかもいざメールを見てみると『会いたい』とかふざけた内容だから余計に腹が立つ。何が『会いたい』だ。『抱きたい』の変換間違いじゃねぇか。くそったれ。

 

志穂は携帯を力強くベットに叩きつけた。それにしても恵那に動揺を見られたのはまずかった。あの子は妙に鋭い所もあるから、今ので完璧に私に男がいると睨んだに違いない。テーブルの上に置きっぱなしにしていたのは不覚だった。

自分の不甲斐無さにもイラつきながらも、志穂は出かける準備をし始める。今の客は結構気分屋だから扱いが難しい。この間は下手に刺激してしまって、約束額の半分しかもらえなかった。


「そろそろ替え時かな……」

 

鏡に向かい髪を高い位置で縛り上げる。それから化粧もろくにせずに出かけた。

どうせこれから涙や汗で落ちるんだ。構うものか。






お姉ちゃんが出かけた後、恵那も家を出た。手ぶらで学校に行くのも何だかいい気分だった。必要な物は全て更衣室に置いてきてある。


「河村は……もう来てるのかな」

 

話したい事って何だろう。河村自身の事かな。そういえば河村は進路調査の紙を出したのだろうか。


「あ、いた。河村―」


河村は花壇の前にいた。しゃがんで花と睨めっこしているようだった。


「よぉ。ここで会うのも何だか久しぶりだな……ご飯食べてきたか?」


「食べてきたよ。河村も食べてきたでしょ」


「あぁ……」

 

何だか河村の様子が変だ。表情が少し堅い気がする。恵那は嫌な緊張を覚えた。


「ここで立ち話もあれだし中に入ろう、河村」

 

恵那から進んでプールの中に入った。相変わらずカルキ臭が漂っている。プールの水が張りっぱなしのため、水面には虫の死骸やら落ち葉があちこちで浮いていた。


「何でプールの水って抜かないのかな」

 

中にはまだ生きている虫がいるのか、足を必死にばたばたさせている。


「もしもの火災に備えてじゃないか?大量の水を常に蓄えておくのは」

 

河村が近くにあった枝を持ってきて、足をばたつかせている虫にそっと近づける。


「じゃあ火事がおきたらこの水を使うの?」


「そうなるだろうな。まぁ規模にもよるだろうが」


「ふーん」

 

改めてプールの水を見てみる。どう見たって汚い。触りたくない。でも緊急事態にそんな悠長な事は言ってられないだろう。そんな緊急事態が起きても困るが。


「更衣室行ってもいいか?虫とはいえ、死骸を見るのは好きじゃない」


「そうだね。早く中に入ろう」

 

恵那が先頭をきってドアノブを捻った。やばい、すごくドキドキする。下絵とはいえ、他人に自分の絵を見せるのはとても恥ずかしい。ぎこちない動きを隠しつつも恵那と河村は更衣室に入った。


「おぉ、結構描き込んでるじゃないか!」

 

まっすぐに壁に向かうと河村が興奮したように言った。恵那は恥かしさもあって河村の数歩後ろから全体を眺めた。あともう少し、あともう少しで下絵が完成するんだ。


「お前やるなぁ!最初ここに絵を描くといった時は、ちゃんと有言実行できるのか心配したが……凄いなぁ」


「あはは。あたしも正直自分でここまで描けるとは思わなかったよ。よっぽど鬱憤が溜まってたのかな?」

 

河村は感心しながら更に絵に近づいて、細部まで目を凝らして見ている。たかだか下絵の段階で、そこまで感心して見られるとは思ってもみなかった。


「下絵は完成じゃないのか?これ、色付けたら相当綺麗になるぞ。俺が保証するよ」


「まだ完成じゃないよ。その色付けが上手く出来ればいいんだけどね。私あまり絵の具得意じゃないし」


「いやいや、神崎はすごいな。俺には到底無理だぜ、こんな事」

 

いつも文句しか言わない河村に、ここまで褒められると気持ちが悪いというか恥かしいというか。とにかく恵那は河村が下絵を見ている間、ずっと俯いていた。


「神崎の報告はこれだけで充分だな。ありがとう、俺に見せてくれて」


「そんなありがとうだなんて……今日の河村だいぶ変だよ」


「はは、そうかもな。とにかく元気貰えた気がするよ。俺も頑張んないとな」


「そういえば……話したいことがあるって言ってたけど」

 

少し遠慮気味に聞く。先程の河村を見る限り、とてもいい報告だとは思えなかったからだ。


「おいおい、そんな深刻な顔するなよ。こっちまで話しづらいじゃないか」

 

河村が笑いながら振り返る。恵那はそれを返そうと必死の笑みで答えた。


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