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100回ツッコまないと出られない部屋

掲載日:2026/05/04


――100回漫才しないと出られない部屋――


「え?どこ、ここ?」


「特殊戦術シミュレーター内部の仮想現実……ではない模様」


「あ、クロアだ」


白い小部屋の隅。

置物のように鎮座していた黒い四脚機兵が、碧い単眼を光らせる。


白いチャイナドレス姿の褐色の美女――ヤオは、思わず身構えた。


「ヤオ。我々はこの領域を脱する為に、100回漫才をしなければならない」


「なんだそりゃ!?新手の機兵ジョークかいっ!」


ビシッ。


ヤオのナチュラルなツッコミがクロアの脚部装甲を叩く。


チンチロリン♪


天井から吊るされた無駄にデカいカウンターが「1」を表示した。


「えっ……?」

「……あぁ、私としたことがぁぁ!」


「観測結果。落胆するヤオもカワイイ」


「んなわけあるかぁっ!」


ビシッ。


再び、無自覚のツッコミ。


チンチロリン♪


「オーマイゴッド!オーマイゴッド!」


「肯定。重要事項は二度復唱することで記憶保持率が向上する」


「違う、そうじゃないぃ!」


チンチロリン♪


――中略――


「うあああああ!?なんで二時間足らずで90まで来てるんだよぉぉぉ!」


ヤオは頭を抱える。


だが――カウントを戻す手段は、存在しない。


ならば、と。


ヤオは己の築き上げてきた“冷徹クール系美女”という名誉を死守すべく、

無言作戦に従事することを決意した。


――沈黙。


クロアが、見てくる。

めちゃくちゃ見てくる。


……なんか、じりじり近づいてきてない?


あ、もう背中、壁なんだけど。

逃げ場、ないんだけど。

どうしよどうしよ。


「推奨。ヤオの捕食。ストラクチャーゲルの補給に最適」


「うっぎゃあああぁぁぁぁぁ!!」


クロアが伸ばしかけた腕を、すっと引っ込める。


「思案。ヤオは有毒成分を含む可能性が――」


「んなわけあるかあぁぁっ!!」


パカーンッ。


甲高い音が狭い室内に響く。


チンチロリン♪


「はっ、しまった!」


「ヤオ。このまま私と、一生ここで暮らそう」


「なんか急にキモイぃぃぃ!!」


パカーンッ。


チンチロリン♪


「ダメだ……むしろ叩いてないと精神が落ち着かなくなってきた!」


「提案。そんな彷徨えるヤオに、お腹の調子がうんと良くなる下剤」


「騙されるかぁぁっ!!」


パコーンッ。


チンチロリン♪


――「99」


沈黙。


「ヤオ」


「……なに」


「最後の一本だ」


「……分かってるよ」


――間。


「なんで私がツッコミ役なんだよ!!」


ビシッ。


チンチロリン♪


――「100」



「はぁ……はぁ……ひどい目に遭った……」


白い領域から脱出した、その先。


――黒。


ただ黒だけが広がる空間。

頭上には、見慣れたあのカウント装置。


そして、その題目は――


“ヤオが100回絶叫すると出られる部屋”


「……は?」


静寂。

理解が、ゆっくりと追いつく。


「……いやいやいやいや」


ヤオは、恐る恐る振り返る。

そこにいるのは――黒き四脚機兵。

碧い単眼が、逃がさないと言わんばかりにこちらを捉えている。


じり……じり……


距離が詰まる。


「ちょっと待て、待て待て待て待て」


一歩。また一歩。


「会話で解決しよう?な?文明人同士で――」


その瞬間。クロアの四脚が沈む。


圧縮。解放。

巨体が一気に跳躍した。


「ちょ――」


「推奨。絶叫の効率的取得」


「あぎゃああああああああぁぁぁぁぁぁっ!!」


――チンチロリン♪


「1」




本作は『観測不能点 ― 名を与えられし変数 ―』の登場人物であるヤオに着目し、アレンジした外伝的短編です。

本編小説も公開中ですので、是非お立ち寄りください。



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