100回ツッコまないと出られない部屋
――100回漫才しないと出られない部屋――
「え?どこ、ここ?」
「特殊戦術シミュレーター内部の仮想現実……ではない模様」
「あ、クロアだ」
白い小部屋の隅。
置物のように鎮座していた黒い四脚機兵が、碧い単眼を光らせる。
白いチャイナドレス姿の褐色の美女――ヤオは、思わず身構えた。
「ヤオ。我々はこの領域を脱する為に、100回漫才をしなければならない」
「なんだそりゃ!?新手の機兵ジョークかいっ!」
ビシッ。
ヤオのナチュラルなツッコミがクロアの脚部装甲を叩く。
チンチロリン♪
天井から吊るされた無駄にデカいカウンターが「1」を表示した。
「えっ……?」
「……あぁ、私としたことがぁぁ!」
「観測結果。落胆するヤオもカワイイ」
「んなわけあるかぁっ!」
ビシッ。
再び、無自覚のツッコミ。
チンチロリン♪
「オーマイゴッド!オーマイゴッド!」
「肯定。重要事項は二度復唱することで記憶保持率が向上する」
「違う、そうじゃないぃ!」
チンチロリン♪
――中略――
「うあああああ!?なんで二時間足らずで90まで来てるんだよぉぉぉ!」
ヤオは頭を抱える。
だが――カウントを戻す手段は、存在しない。
ならば、と。
ヤオは己の築き上げてきた“冷徹クール系美女”という名誉を死守すべく、
無言作戦に従事することを決意した。
――沈黙。
クロアが、見てくる。
めちゃくちゃ見てくる。
……なんか、じりじり近づいてきてない?
あ、もう背中、壁なんだけど。
逃げ場、ないんだけど。
どうしよどうしよ。
「推奨。ヤオの捕食。ストラクチャーゲルの補給に最適」
「うっぎゃあああぁぁぁぁぁ!!」
クロアが伸ばしかけた腕を、すっと引っ込める。
「思案。ヤオは有毒成分を含む可能性が――」
「んなわけあるかあぁぁっ!!」
パカーンッ。
甲高い音が狭い室内に響く。
チンチロリン♪
「はっ、しまった!」
「ヤオ。このまま私と、一生ここで暮らそう」
「なんか急にキモイぃぃぃ!!」
パカーンッ。
チンチロリン♪
「ダメだ……むしろ叩いてないと精神が落ち着かなくなってきた!」
「提案。そんな彷徨えるヤオに、お腹の調子がうんと良くなる下剤」
「騙されるかぁぁっ!!」
パコーンッ。
チンチロリン♪
――「99」
沈黙。
「ヤオ」
「……なに」
「最後の一本だ」
「……分かってるよ」
――間。
「なんで私がツッコミ役なんだよ!!」
ビシッ。
チンチロリン♪
――「100」
「はぁ……はぁ……ひどい目に遭った……」
白い領域から脱出した、その先。
――黒。
ただ黒だけが広がる空間。
頭上には、見慣れたあのカウント装置。
そして、その題目は――
“ヤオが100回絶叫すると出られる部屋”
「……は?」
静寂。
理解が、ゆっくりと追いつく。
「……いやいやいやいや」
ヤオは、恐る恐る振り返る。
そこにいるのは――黒き四脚機兵。
碧い単眼が、逃がさないと言わんばかりにこちらを捉えている。
じり……じり……
距離が詰まる。
「ちょっと待て、待て待て待て待て」
一歩。また一歩。
「会話で解決しよう?な?文明人同士で――」
その瞬間。クロアの四脚が沈む。
圧縮。解放。
巨体が一気に跳躍した。
「ちょ――」
「推奨。絶叫の効率的取得」
「あぎゃああああああああぁぁぁぁぁぁっ!!」
――チンチロリン♪
「1」
本作は『観測不能点 ― 名を与えられし変数 ―』の登場人物であるヤオに着目し、アレンジした外伝的短編です。
本編小説も公開中ですので、是非お立ち寄りください。




